二学期⑦「ゾンビパニック八王子デッドエンド」
ゾンビです。
ゾンビがたくさん現れました。青山君も栗木さんも野坂君もゾンビになりました。ゾンビが僕等を襲います。異常な力で捕食します。ああ、森君が犠牲に!
そして生き残った僕達はよくわからない所に立て篭もりました。
「このままじゃ駄目だ」
小管君が精悍な顔つきで皆に語りかけます。小管君かっこいい! でもずっと学校に来ないから僕は心配だ!
「どうしようか……」
だからそこをどうにかして考えてよ頼むよ!
「ゾンビの感染源を見つけて確保すれば全部解決するよ」
僕の願いが通じたのか、川野君が天才的な意見を出します。
「そうか! そうすればみんな助かる!」
そうなの? 知らなかった!
と、そこでバリケードを破って大量のゾンビが侵入してきました。誰かの悲鳴が響きます。
「逃げろ!」
言われるまでもなく逃げます。脱兎の如く、蜘蛛の子を散らすように逃げます。でも平山さんはゾンビに捕まりぎゃつぎゃつ食べられてしまっています。激しく血が吹き出ます。うぅ、さようなら平山さん。死んでゾンビになっても元気でね。
なんとか逃げおおせたメンバーは僕、水川さん、渡辺さん、鈴木君、ぷーたんだけ。後の生徒は無事かどうかもわかりません。
「駄目だ、なんとかしないと」
と、鈴木君。でもそれさっき小管君が言ってた。
「ねえ、どうしよう……」
「ったく、杉並市役所の八王子マジ糞ヤロー」
渡辺さんの涙声に、ぷーたんが吐き捨てます。
「――そうか!」
僕は唐突に全てを理解しました。
テニス部の池田さんが所属する演劇団体に同じく所属する、杉並市役所の八王子が、あの少し気持ち悪い男が、諸悪の根源なのです! 池田さんは八王子に左の人差し指をひっかかれ、ゾンビになってしまい、さらにはその恋人である新堂君もゾンビなってしまったのです!
「そうか、池田か!」
鈴木君も叫びます。そうです、池田さんです! 彼女さえ捕まえればオールオッケー世界は万事平和なのです!
「え、なにー、呼んだー?」
そこでゾンビになっていない池田さんがひょっこり現れます。あまりのタイミングの良さに皆硬直していまいましたが、いち早く我に返った僕は叫びました。
「確保だああああああああー!」
「――やった、捕まえた!」
水川さんが俊敏な動きで池田さんの手を取ります。
「よし、これでもう大丈夫だ!」
何もやってない鈴木君がまるで自分の手柄のように勝ち誇ります。ですが、そう、やりました! これで全部解決です! 平和的ハッピーエンドです!
――目を覚ましました。
ゾンビなんているはずありません。八王子なんて知りません。馬鹿ですか?
僕は眠気を振り払おうと大きくのびをしました。ああ、今日も良い天気だ。窓の外に目をやるとどうにもこうにも快晴です。たとえマロが世界からいなくなっても快晴で、僕はつまらない夢を見ます。
マロに会いたいと思ってもそれはもう二度と叶わないのです。どう頑張っても無理なのです。将来ふとした瞬間にマロを思い出したとしても、近況を訊くためにメッセージを送ることも出来ず、声を聞くために電話することも出来ず、同窓会で互いを懐かしむことも出来ないのです。
死とは悲しいものなのでしょうか。そうは感じませんでした。ただぽっかりとした虚しさを覚えました。僕はそれを上手く掴み取ろうとしても掴み取れず、だから零すことすら出来ないのです。きっとそれは悲しみよりも悲しいものでした。もしかしたら僕は寂しいのかもしれません。
どうしようもなく僕は壁を叩いてみました。だけど壁掛けカレンダーがずれ落ち、右の拳が痛むだけです。
マロ。
君は青空を飛べるはずでした。
あの広い空を自由に。
✚
終業式がありました。二学期が終わりました。小菅君は二回しか学校に来なかったので寂しいです。
冬休みです。僕は冬期講習を受けました。みんな志望校合格の為に殺気立ってガリガリ勉強しています。僕も仕方無く勉強に従事します。
「センターやばい。英語がマジやばい。全然目標行かないんだけど」
昼休み、高瀬君は陰鬱な声で言います。ちなみに本日の天気は快晴です。彼はどうも成績が伸び悩んでいるみたいでした。昼休みごとに受験勉強の悩みやら不安やらを会話の種にします。まさに頭が受験一色って感じで僕も見習うべきなんでしょうね、はいはいわかってますよ。
「山口はどうよ、大丈夫?」
「まあまあかな。発音とかは結構危ない」
「わかるわー、あれはだいたいカンだよなあ」
「だね」
高瀬君はそれからもグチグチと試験に対する不安を零します。非常にどうでも良いです。せっかくの昼休みなのにちっとも休んだ気になれないので止めて欲しいです。
冬休みが終わればセンター試験はもうすぐです。
世界は今日も退屈です。
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