分析とリフレーミング(いくつかの具体例)

 分析とリフレーミングの具体例をいくつか見ていきます。


例1

 仕事の愚痴を言っても、彼は「大変だね」と言ってくれない。「こうこうこうすればいいじゃん」とくだらないお説教みたいなことばかり言う。これにはむかついた。


 まず、彼が言っているというお説教みたいな発言ですが、「解決してあげたい」と真面目に考えて言っていると思えば、そう腹はたちません。一般的に言えば、男性の方が女性よりも、ただ聴いてあげるよりも、解決してあげたいと考える傾向が強いようです。

 また、「大変だね」という言葉を言うのは照れくさくて言えないのかもしれません。

 相手の性格を考えて、自分の思った通りの共感の示し方をしてくれなくても、「ちゃんと心配してくれているのであればよしとしよう」と思っていれば、それほど腹は立たないものです。「まっ、いいか。心配してくれていることは確かだ」と考えるのが正解です。

 この場合の、コアビリーフ(「~べき」思考)は、「彼が私のことをわかってくれて、『大変だね』と言ってくれるべきである」。

 そして、リフレーミングを行った結果、「彼だって100%完璧な人ではないから、自分の思ったような方法で共感してくれるわけではない。でも、心配はしてくれているみたいだから、それでよしとしよう」という見方に変わりました。         


例2

 結婚したい人を家に連れてきたら、父親から「そんな男は許さん」と言われた。決めつけるような言い方だったこともあり、腹が立った。


 この場合、「お父さんはわかってくれない」と考えると怒りが湧いてきます。

 しかし、お父さんの立場からすると、「自分の娘は、この先結婚してちゃんとやっていかれるだろうか」と不安に思うのが普通です。

 「お父さんは不安なんだ」「自分のことを考えてくれているから、不安感からあんなことを言うんだ」と考えるのが、うまいリフレーミングになります。「理解してくれないお父さん」という見方を「不安に思ってくれているお父さん」に変えました(リフレームしました)。

 そして この場合のコアビリーフ(「~べき」思考)は、「お父さんは自分の結婚したい気持ちをすぐにわかってくれて、自分たちの結婚を祝福してくれるべきである」です。これを、「お父さんだって人間だから、不安に思って冷静な判断ができないことがあっても仕方がない」という見方に変えると(リフレームすると)、父親に対して腹を立てないですみます。


例3

 歩道を歩いていたら、後ろからチリンチリンとベルを鳴らしながら自転車が走ってきたので、よけなければならなかった。本来自転車は、交通法規上車道を走るべきなのに、歩道を走っている自転車に道を譲らなければならなかったので、むかついた。


 「自転車に乗る人は、『自転車は車道を走る』という交通法規を知っていて、それに従うべきである」というのがこの場合のコアビリーフ(「~べき」思考)です。

 そして、それに反して自転車が歩道を走っていたので、この人はむかついています。

 「自転車には運転免許があるわけでもなく、交通法規を知っているのが当然とはいえない。また、後ろから自転車が来たからよける、というのは一瞬のうちにできる行動で、別にそのために時間を損するわけでもない。よく考えれば、別に腹を立てるようなことではない」というふうに見方を変えてみます(リフレーミングを行います)。

 そうすると、そんなに腹が立つことでもなくなります。


例4

 電車に乗っていたら、若い女性が電車の中で化粧をしていたので、むかついた。      


 テレビや雑誌などでよく取り上げられる話題です。

 この場合のコアビリーフ(「~べき」思考)は、「電車の中は公共の場所なので、お化粧などはするべきではない」「人前でお化粧をするのはマナー違反だからやめるべき」というものです。

 これに対しては、「別に電車の中でお化粧をして悪いという法律があるわけではない。お化粧しているのを見たからといってお金を損したり、目が腐って視力が下がったりするわけでもない。若い人がどうやってお化粧するのか見るのも興味深いことではないか」というふうに見方を変えれば(リフレーミングすれば)、腹の立つことではなくなります。

 「時間があれば、お化粧する様子を面白がって観察すればよいし、本を読むなど他にやることがあれば気にしないでそれをやればよいではないか」というふうに考えましょう。


例5

 上司の言う事がすぐ変わるので、それに振り回されて進めていた仕事をやり直さなければならなくなり、仕事量が増えるのでむかつく。      


 この場合のコアビリーフ(「~べき」思考)は、「上司は、部下が仕事をしやすいように、部下への指示には一貫性を持たせるべきだ」。

 リフレーミングした結果。

 「まあ、上司だって人間だから、いろいろ迷っているんだろう。上司の方針変更でお蔵入りになる仕事もあるが、それはそれで経験・勉強になったと考えればよい。まあ、みんながみんな、素晴らしい見通しを持って常に一貫性を持って仕事ができるわけはない。終始一貫ムダな仕事を一切行わず常に効率よく仕事をするということはありえない。うちの上司も、一生懸命考えて仕事していて、結果的に朝令暮改のようなことが増えてしまうんだろう。まあ、いっか」

 この場合、「相手に100パーセントを求めるということは、相手に対する甘えだ」という時々心理学の本などに出てくるフレーズも役に立ちます。

 後で指示が変わりそうだということが読める場合に、「こうこうこういう別のやり方もありますが、どうされますか」等、逆に提案してみる方法でうまくいく場合もあります。でも、基本的には、「まあ、いっか」とあきらめてしまうのが正解、という場合が多いようです。   


例6

 上司が書類をなんどもなんども書き直しさせる。3行目について指摘すると、10行目について指摘し、そして次には7行目について指摘するという具合で、まとめて言わないでばらばらに言う。


 これは、私が以前勤めていた学校の副校長先生の例です。

 その人は、本当に上記のように何度も何度も書類を書き直すように言ってくる人でした。

 最初は意地悪でやっているのかと思いました。が、他の教員ともいろいろトラブルを起こしたり、嫌がられたりしているので、「どうも、私が嫌いで意地悪をしようとしているのではないのかもしれない。ああいう人なんだ」と思うようになりました。

 どうも、不安傾向が強くて、物事をうまく見通せない人だったようです。

 「あの人はああいう人なんだ。まあいっか」と考えて、いわれた通り「はいはい」と言って言われた通りに何度も書き直してうまいこと切り抜けることができました。

 この場合のコアビリーフ(「~べき」思考)は、「管理職になるような人は心が健康な人格者で、物事の見通しがよい頭のいい人で、教員が仕事をしやすい環境作りを心がける立派な人であるべきだ」。

 そしてそれに対し、「管理職になるような人でもいろいろな人がいる。不安傾向が強くて、それに周りを巻き込んでしまう人だっていておかしくはない」というふうにリフレーミングを行い、「まあ、いっか」と思えるようになりました。 


 ここまで見てきたような絵に描いたようにうまく行く場合ばかりではありません。

 それに「記録して分析してリフレ―ミングする」なんていう定石通りの面倒なことをそんなにいつもいつもやっているわけにはいきません。でも、半年とか1年に2~3回くらいでもやってみると、自分の考え方・もののとらえ方の傾向がわかり、無駄に怒ったりイライラしたりしない頭の使い方がつかめていきます。

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