第四話
「これは……すごいな」
ガルド、ライ、イビの三人は目の前の光景の美しさに、思わず言葉を失った。
野営地を発って半刻。黒々とした
昼の日の下で見るこの場も、素晴らしい美しさではあるが、
「
「一匹見る事すら稀だって言うのにな。…爺婆が見たら腰抜かすじゃすまないぜ」
六属性の精霊の中でも、滅多に人前に姿を表す事の無い
まるで、
「イビ、力は使えるな」
ガルドに声を掛けられた、イビと呼ばれた金髪の少年が、ハッとした様に両手に白い光を灯した。
「……うん、夜だし、
しかし、
ーー根元には
ガルドは慌てて駆け寄り、子供を抱き起こす。ライは脈をとり、ホッと息を吐いた。
「息はまだある……死んじゃいねえ」
「イビ、いけるな。」
「うん!」
子供の背には刃物で切られたような大きな傷があり、その傷を撫でるようにそっと、イビは光を灯した手を翳して優しく治療してゆく。
「……随分と大きな傷だが、よく持ったものだ」
「集まっている
イビが光を当てた所から、じわりじわりと傷が修復されてゆく。喋りながらも集中しているのか、イビの額には汗が滲んでいた。
「ガルドの所に飛び込んだチェシカも中々の行動力だが、ラーナのチビも大したもんだぜ。半刻も掛かる距離の
どこか困ったような苦い笑みを滲ませ、ライはガルドの腕で眠る子供を見下ろす。治癒を終えたイビも、似たような表情を浮かべていた。
「ルド兄に聞いた伝承だと、多分五百年振りぐらいだと思うけど。……本当に実在したんだね」
「……どちらにせよ我等の同胞だ。子供がそう望むのならば、
子供を上着で包み、抱え直したガルドの言葉にライとイビは目を見開く。
「……ガルド兄、本気なの?僕の時とは訳が違うんだよ?……ただの
「……
「だからこそ、だ。
驚き、慌てる二人を諌めるようにガルドは静かな声で告げた。二人はぐっと押し黙った。
暫しの沈黙の後、口を開いたのはイビであった。
「そう、だよね。そもそも
イビはガルドに抱かれている、自身よりも少しだけ小さな子供を見つめた。異形の化物でもなんでもない、少しだけ珍しい髪の色をした、小さな子供。イビが治療しなければ、死んでしまいそうだった、自分達と何ら変わりはしない……同じ人間だ。
「……幸いというかなんというかな。こいつの存在に気づいたのは俺達だけで、隠蔽はしやすいってか。髪の色は何とでもなるしな……俺達がたまたま近くにいた事といい、ラーナの耳があった事といい……こいつは随分と運の強い
ハーッと大きくため息を吐いて、仕方ねぇな、と笑ってライは子供の頭をそっとなでた。幾分か落ち着き、本来の様子を取り戻した二人の様子に、ガルドは言葉を重ねた。
「見つかってしまえば大事になるだろうが、これから向かうのは幸か不幸かイガリアだ。
子供を抱いたまま帰路を歩き始めたガルドの背を追うようにライとイビが続き、三人は道なき森の間に消えてゆく。
人が去り、静まり返った
凪いだ水面のような、そんな静かで美しい夜の事だった。
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