第一章 宵に抱かれた子
第一話
それは、
エ・ネーテ皇国での興行を終え、エ・ネーテを含む三国の国境に跨る
今回のエ・ネーテ皇国での収益は例年よりも多く、また、一座の中にはこれから向かうイガリア帝国に家族のある者も多いため、夜も遅いというのに宴は未だ大いに盛り上がりを見せていた。
パチリ、パチリと篝火から火の粉が踊るように赤々と散る。
一座の面々はそれを囲むようにして皆が楽しそうに食事をし、酒を飲む。楽師は明るい曲を奏でて、
「たのしいね、おねえちゃん」
そんな様子を目を細めて見ていたチェシカは、満面の笑みを浮かべて駆け寄って来た妹、アルラーナに、同じように笑顔を返した。
「ふふ、そうね、ラーナ。皆楽しそうだし、私も楽しいわ」
にっこりと柔らかい笑顔を浮かべて、優しく頭を撫でてくれる姉に、ラーナは堰を切ったように声を弾ませて喋り出す。
「あのね!エルカは本当にすごいんだよ!おねえちゃん!エルカが踊るとお花がひらひらしてとってもキレイなんだけどねっ!エルカが踊って、ルドが楽器をひくとね、
「そうなの、それはきっと、とっても綺麗なんでしょうね」
「きれいなの!」
頬を真っ赤にして、小さな全身で感動を伝えようとするラーナは、篝火の前で舞っているエルカのように
残念ながらチェシカは
チェシカは感情のままにラーナをぎゅっと抱きしめ、腕に包まれたラーナはきゃっきゃと無垢な笑い声が上げた。
ーーそんな、団欒の中での事だった。
瞬間、ぴたり、とそれまで騒がしほどに盛り上がっていた音が止まり、異常な事態に不安の声が皆の輪の中に広がっていった。
ーー普通の旅人ならばさして気にはしない現象。
しかし
「……落ち着け。」
皆に不安が漣のように広がっていく中を、獣のように低く芯のある、しかし荒々しさは感じさせない穏やかな声が諌める。ゆっくりと声の主が立ち上がり、ざわめきも鎮まってゆく。
立ち上がった大柄な男はガルドといい、
「
彼の言葉に、面々はホッとしたように緊張に張り詰めた表情を緩める。ガルドは年齢こそ若いが、その性格や実力から、旅団の人々から絶大な信頼を集めていた。大きな不安も、彼の言葉一つで皆安心することができる。
「しかし、
「ハイハイ。俺とガルドで確認してくるから、みんな安心して待っててくれよな。」
ガルドに呼ばれて立ち上がった
二人の男が篝火を背に、森へと入って行く。それを旅団の人々は心配ながらも幾分か緊張の解けた様子で見送った。
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