ぽりすぼっくすくらいむ

寛くろつぐ

ぽりすぼっくすくらいむ

ぽりすぼっくすくらいむ

                                  


○登場人物

重森善司郎(しげもりぜんじろう)

遠山広人(とおやまひろと)

八木志津子(やぎしずこ)

千田信(せんだのぶ)



 交番。パネルにポスター等が貼られている。下手側には机がカウンターのように 置いてある。奥にも机があり上にちょっとした棚。と電話。上手側に壁とくっつ くようにして机。椅子。遠山が座って何か書いている。


 重森、入って来る。


【重森】 (ブラインドから覗くような仕種)うん、今日もいい天気だ。

【遠山】 ここにブラインドなんてものはありませーん。先輩、十分遅刻です。

【重森】 てことは、昨日より二十分早く着いたわけだ。いやぁ進歩進歩。

【遠山】 五十歩百歩でしょ。全く、遅れたせいで俺が先輩の不始末を書くはめになったんですよ?

【重森】 不始末?

【遠山】 はい。(重森に書類を渡す)

【重森】 んーと、『私、重森善司郎は、四月四日午後五時三十分頃、巡回中に発見した若者二人の小競り合いを、諌めるではなく、「もっとやれ」、「お前にも殴る権利はある」等と煽り、双方に怪我を負わせるほどの喧嘩にまで発展させました。市民の皆様にご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫びいたします。この件に関しましては、辞職を持って謝罪の念を』・・・はっはっは!面白い冗談だ。

【遠山】 冗談で先輩の辞表なんか書きませんよ。

【重森】 これ辞表なの?!何で広ちゃんが書いてるの!

【遠山】 『遠山』でいいですよ。なんせ暇でしたから。

【重森】 いやいやいやいや辞めないぞ?俺、辞める時は死ぬ時だって決めてるから。

【遠山】 殉職じゃないですか。

【重森】 殉職はな、俺の夢なんだよ。

【遠山】 ・・・どうかしてますよ先輩。ま、こんな事件すら引き起こす時点でどうかしてますけどね。

【重森】 あれはだな、本人の言い分を聞かずに仲裁したのでは、双方にわだかまりが残ると思ってだな。聞いた限りでは、どちらも悪かったからな。その分お互いに殴らせただけだ。喧嘩両成敗ってやつ。

【遠山】 当事者に成敗させてどうするんですか。ほんと、先輩よくそんなんで今までやって来れたなと思いますよ。

【重森】 いや、こんなんだからずっと交番勤務から上にいけないんだと思う。

【遠山】 わかってるんだったら・・・

【重森】 でもさあ、交番にいてもそんな事件とかに関われないじゃあないか。だから数少ない事件に立ち会えた時には、熱が入るってもんよ。

【遠山】 立ち会ってるんじゃなくて、全部先輩が起してるんでしょーが。数え上げたらきりがないですよ。マスクとサングラス付けたやつ見たら「こいつは強盗犯だ」とかぬかしたり、「この店に爆弾が仕掛けられている」とか言って大騒ぎ起こしたり、どこぞのオオカミ少年より性質が悪い。

【重森】 全部理由があってのことだ。

【遠山】 事件に関わりたいって理由ですか?・・・大人しくしてれば上に行けてもっと事件らしい事件と向き合えるでしょーに。馬鹿としか思えませんよ。

【重森】 はっはっは。そうかそうか。

【遠山】 まったく。


 間


【重森】 しかし・・・暇だな。

【遠山】 先輩の辞表も書き終わっちゃいましたしねー。

【重森】 ・・・。なーんかどでかい事件でも起こらないかねぇー。

【遠山】 ・・・起きるわけないでしょ。交番で起こることといえばせいぜい道を尋ねられることぐらいですよ。まあ、こんな田舎に訪ねて来るやつなんてなかなかいませんけどね。


 八木、入って来る。


【八木】 あ、あのー。ごめんくださーい。あの、道をお尋ねしたいんですがー。

【重森】 お、『噂をすれば七十五日』ってね。

【遠山】 『影が差す』ってね。


 重森、カウンターへ。


【重森】 はいはい、どこに行きたいんですか?

【八木】 えっと、その、あの・・・銀行です。

【重森】 銀行強盗ですか?

【遠山】 (吹き出す)

【八木】 えっ!?

【遠山】 すいません。この人頭おかしいんですよ。銀行でしたら、この通りを真っ直ぐ行って、角を左に曲がると見えてきますよ。

【八木】 あ、はい。えと、その、あ、ありがとうございます。


 八木、ぺこりと頭を下げてハケる。


【遠山】 何、真面目な顔で聞いちゃうんですか。『銀行強盗ですか?』だなんて。

【重森】 だってー。何かキョドキョドしてたんだもんー。

【遠山】 そういう人なんですよ、きっと。・・・しっかし、珍しいこともあるもんですね。この辺りに訪問者だなんて。

【重森】 有名になってきたんじゃないか?この田舎町も。

【遠山】 先輩の所業が関係しているとすれば、それはマイナスですがね。

【重森】 そういやさ、広ちゃんは何で上目指さないの?

【遠山】 『遠山』でお願いします。突然ですね・・・まだ入ったばっかじゃないですか。

【重森】 でもさ、父さんのコネとか使えばもっと上の方から始めれたんじゃないの?君の父さんさ、遠山進吉、さんでしょ?

【遠山】 え、知ってるんですか!?・・・。確かに父さんは位高いですけど・・・。

【重森】 まあ、ちょっとね。

【遠山】 ふぅん。

【重森】 でさ、何で?何で交番勤務からなの?

【遠山】 ・・・まあ、その父さんに言われたからですよ。

【重森】 ・・・ふうん?何て?

【遠山】 ・・・いやしかし暇ですねー。

【重森】 あー暇だなー。ておい、話そらしてないか?

【遠山】 あそうだ。パトロールにでも行ってきたらどうですか?

【重森】 うーん。今は動きたくない。

【遠山】 職務怠慢ですか。でもまあまた変な行動とられるよりかはましですかね。

【重森】 俺は変質者か!

【遠山】 ある意味では。・・・じゃあ俺行ってきましょうかねー。

【重森】 いややっぱり俺が行く。

【遠山】 何なんですか、もう。

【重森】 だって広ちゃんが事件見つけちゃったら、そそくさと解決しちゃうでしょ。

【遠山】 『遠山』ぁ!それが普通ですよっ!

【重森】 てことで、行ってきまーす。


 重森、パトロールに赴く。つまりハケる。


【遠山】 ったくもー。まーた事件でも起こさなきゃいいけど・・・。


 静寂


【遠山】 ・・・ああ、暇だ。


 電話が鳴る。ので遠山取る。


【遠山】 もしもし?・・・!父さん!いえ、警視総監・・・はい、はい・・・変わりありません。・・・総監が電話をかけてくるなんて珍しいですね。しかもこんな田舎の交番 に・・・。え?悪い予感?・・・何言ってるの、父さ・・・失礼しました。はい、はい。・・・では、失礼します。


 遠山、電話を置きしばし考える。

 と、そこに重森帰って来る。


【重森】 たーだいまー。

【遠山】 ・・・早すぎません?

【重森】 何かさー、予感がしたんだよねー。外よりこっちにいた方が事件に出会えるって。

【遠山】 ・・・先輩まで同じことを・・・

【重森 】 ん?

【遠山】 ・・・今さっき、警視総監から電話があったんです。『悪い予感がする』、と。

【重森】 進ちゃんが?進ちゃんの予感は結構当たるからなぁ・・・期待大、だ。

【遠山】 よくご存じですね。確かに父さんの予感はほぼ確実ですけど・・・何でそんなことまで?

【重森】 んー・・・ああ暇だ暇だ。パトロールにでも行こっかなぁ!

【遠山】 さっき帰ってきたじゃないですか!


 間。善ちゃんはてきとーにぶらぶら。口笛とか吹いてても良い気がする。夜じゃ ないし。とりあえず広ちゃんと別の方向向いてて下さい。広ちゃんも暇を持て余 してますが、ふとどこかに隠した(裏ポケットとか?)銃を取り出し、善ちゃん の方に向けます。


【遠山】 先輩。こっち見てください。

【重森】 んー?・・・はっ!


 重森、ぱっと手を挙げる。


【遠山】 この銃で殺されたくなければ、ちゃんと話して下さい。

【重森】 え・・・えーと・・・殉職は本望だ!撃てるものなら撃つがいい!

【遠山】 本気で撃ちますよ。

【重森】 ごめんなさい言います。・・・昔、進ちゃんと同じ職場で働いてたんです。

【遠山】 同じ職場って・・・ここですか?

【重森】 ま、まあ…昔は、ね。

【遠山】 今もじゃないですか。ふーん・・・それで、ですか。(一度銃を下ろすがまた向ける)真実を知った以上、先輩にもう用はない。

【重森】 ひ、広ちゃん・・・はっ!まさか、さっきの銀行強盗とグルだったのか・・・くそー!裏切り者ー!あーでもやっぱり殉職できるなら本望か・・・?いやでもやっぱ

【遠山】 ばーん。(打つしぐさ)

【重森】 ぎゃあああああ(倒れる)。


 間。・・・別に『なんじゃこりゃー』でもいいよ。その場合遠山さんツッコんで あげて。


【遠山】 なーんちゃって。


 遠山、笑ってる。重森、ゆっくりと立ち上がる。


【重森】 なんともない。

【遠山】 (笑いながら)先輩おもしれー。おもちゃですよ。おもちゃ。モデルガン。

【重森】 何だよーびっくりしちゃったじゃんかー。殉職しちゃうところだったよー。・・・あーでも銃って良いね。銃撃戦とか起こらないかなー。

【遠山】 物騒ですよ。まあこんなへんぴなところで起こるわけないでしょうけど。


 重森、遠山から銃を奪う。


【遠山】 あっ、ちょ先輩。

【重森】 おおー。やっぱいいねこれ。格好良い。


 重森、しばらく遊ぶ。と、マスクにグラサンといった格好の千田がアタッシュ  ケースを持って入って来る。銃口が千田の方へ。おずおずと片手を挙げる千田。


【遠山】 あ。

【千田】 な、何故分かったんだ?!・・・ち、畜生め、覚えてろよー!


 千田、少し後ずさってからダッシュ。


【遠山】 ちょっとー、先輩。脅かせちゃったじゃないですかー。

【重森】 でも、あいつも何か強盗っぽかったぞ?

【遠山】 グラサンとマスクだけで判断しないでください(銃取り返す)。まったく、また伝説が増えちゃいましたね。

【重森】 伝説の多い男・重森か。うん、いいな。

【遠山】 けなしてるんですよ。

【重森】 でも、あいつ何か変なこと言ってなかったか?

【遠山】 あー何か言ってましたね。何て言ってましたっけ?

【重森】 それに何か聞いたことあるような声だったような気がするような・・・

【遠山】 え?

【重森】 あーしかし暇だ、暇。

【遠山】 暇暇言いすぎですよ。

【重森】 何か起れよー。

【遠山】 でも、今日は比較的・・・というか、結構起きた方じゃないですか?道を尋ねられるし、マスクとグラサンの男は帰っちゃうし・・・まあ後者の方はまたしても先輩の起こしたことですが。父さんの予感は・・・これだったんでしょうか。

【重森】 いいや、こんなんじゃ足りないね。まだ満たされない。

【遠山】 満たされないってアンタ・・・。まあ、あとはせいぜい落ちてる金を届けに来る人とかぐらいでしょ。でもま、そんなことは今時・・・


 八木、入って来る。アタッシュケースを持っている。


【八木】 あの・・・!

【遠山】 ・・・まさか。


 八木、アタッシュケースをカウンターの上にどかんと置く。


【重森】 はいはい、落ちてる金を拾ったから届けに来た、と。なるほどね。広ちゃん、あんたエスパー?

【遠山】 はい?そんなわけないでしょ。唯の一般人ですよ。・・・あれ?何か忘れてるような・・・あっ(自分の頬を叩く)。『遠山』!唯の一般人遠山です!

【八木】 あ、いや、えっとっその・・・

【重森】 いやー、今時届け物する人なんて珍しいね!おっちゃん感心したよ!それもこんな・・・え、これいくら入ってんの?

【八木】 えーと、その・・・一千万です。

【重森】 そっかー!いやぁすごいね、一千万もの大金をわざわざ届けてくれるとは、俺だったら真っ先にうちに持って帰るけどね!あっははは、まあとにかくありがとうね!もう帰っていいよ。いやーこれは大事件だわ。

【八木】 え、あの・・・帰って・・・いいんですか?

【重森】 うんうん、帰っちゃって帰っちゃって!

【遠山】 え、ちょ、先輩。ちょっと待って下さいよ。おかしいでしょ。

【重森】 え?・・・あーそっかそっか!住所!住所と名前・・・あと年齢とか。とにかく、この紙に必要事項!ちゃちゃっと書いちゃって!


 重森、言いながら棚から紙と鉛筆を出して八木の前に置く。


【遠山】 え?(八木の『え?』とかぶせよう)

【八木】 え?あ・・・はい。

【重森】 うんうん、そうそうそうすれば落とし主が見つかっても一割程度もらえるし、半年くらい落とし主が見つからなければ全額もらえ・・・三十二歳!?嘘ぉ!?

【遠山】 嘘ぉ!?・・・じゃなくて、違いますよ!どう考えてもおかしいでしょ!

【重森】 やっぱそう思う?どう考えても二十前後だよねー。

【遠山】 だから違いますってば!アタッシュケース!額!

【重森】 あ、ちゃんと確認しとかないとね。一千万かどうか。


 重森、アタッシュケースをガチャガチャやる。開かない。


【遠山】 いや、だーかーら!一千万の入ったアタッシュケース拾っただなんておかしいでしょ!怪しいと思うでしょ普通!


 と、電話が鳴ります。一瞬の後取る重森。


【重森】 もしもし?・・・はい、はい。・・・おお!それは事件ですね!了解しました!


 重森、嬉しそうに電話を切る。


【遠山】 ・・・何ですか?

【重森】 更なる事件だ!ついさっき、近くの銀行で強盗があって、一千万ほどの被害が出たらしい!次いで、犯人はこっちの方向に逃げたそうだ!


 沈黙・・・八木、重森を凝視。何か唾を飲み込む音とか聞こえてきそう。遠山、 ゆっくりと視線を八木へ。


【遠山】 ・・・今のでわかったでしょ、先輩。一千万ですよ。一千万。

【重森】 んん??・・・・・・あーーわかった!

【遠山】 こいつが、

【重森】 犯人から一千万を取り返してくれたのか!


 重森、満面の笑み。きらきら。遠山、崩れ落ちる。ずーん。


【遠山】 どうしてこんな時に限って今までの伝説は効力を発揮しないんだ・・・。はっ!これも一つの伝説ってことか・・・

【重森】 いやーごめんね!勘違いしちゃってて!いやあそれはお手柄だ!一割って言ったけど五割くらいあげちゃおう!

【遠山】 何の権限を持って言ってるんだよ・・・

【重森】 危うく犯人に全額持っていかれるところだったね!はっはっは!あ、俺のせいか。はっはっは!まあいいさ!解決したのだから!はっはっ・・・

【八木】 あの!

【重森】 ・・・はっはー。

【八木】 私です、あの!犯人私です!

【重森】 ・・・え?

【八木】 この一千万は、銀行から奪ってきたものです。つまり、銀行強盗犯は、私なんです!

【重森】 ・・・はっはっはっ!いやー、そうだったのかはっはっはえええええええ!?

【八木】 すいませんでした!


 九十度。Cはいらない。そして沈黙。


【遠山】 ふぅー・・・。だからさっきから言ってたでしょう?こいつが

【重森】 黙ってちゃあわからない。

【遠山】 は?


 重森、いつの間にかハードボイルドチックになっている。・・・あくまでチック ね。


【重森】 顔をあげな・・・。


 八木、命令に従う。


【重森】 俺の目を見て答えるんだ。犯人は、・・・


 重森、慌ててさっき書いてもらった紙を見る。


【重森】 犯人はー、えーと、八木。お前だな?

【八木】 はい、その通りです・・・

【重森】 んーなかなか口を割らないとは、困ったねぇ。

【遠山】 とっくに割ってます。

【八木】 私がやりました。

【重森】 そんな頑固な子猫ちゃんには、これが一番効く。

【遠山】 頑固はアンタです。

【重森】 ・・・おふくろさんが、泣いてるぜ・・・

【遠山】 ですからそこにブラインドはありません。

【八木】 うぅ・・・うわぁーーーー!


 八木、泣いてます。突っ伏す感じで。


【重森】 分かってくれたか・・・よし、じゃあもう一度聞こう。犯人は、八木。お前だな?

【八木】 うぅー。ひっく。ぐすっ・・・ひっく。・・・はい、私です。


 重森、ガッツポーズ。


【重森】 よくしゃべってくれた。ありがとう。さあハンカチだ。思う存分泣いて、罪を洗い流しなさい。罪に濡れた頬を、このハンカチで拭いなさい。

【八木】 ありがとうございま・・・うぇぇーーーー!

【遠山】 ・・・。

【重森】 八木・・・(紙見て)しづこさん?

【八木】 う・・・はい・・・志津子の『津』はざじずぜぞの『ず』です・・・

【重森】 そうですか・・・良い名前だ・・・。しづこさん、そんなに良い名前を戴いたんだ。おふくろさんに誇れるような人生を歩めよ・・・

【八木】 はい・・・父にもらった名前です・・・ありがとうございます~うぅ~う~

【遠山】 俺も・・・いや、僕も、父さんに名前をもらったんです。

【重森】 …広ちゃん?

【遠山】 僕、父子家庭で育ったんです。物心ついたころには母親はいませんでした。父さんは、男手ひとつでも、何不自由ない生活を与えてくれました。どこにでも気を配れる人で、僕が子供のころは、働きながらも僕とよく遊んでくれましたし、今だって、『警視総監の息子』なんて余計な肩書がつかないようにあまり公にはしていませんし。僕は、そんな父を誇りに思います。尊敬しています。目指しています。・・・父さん…父さん…今まで、育ててくれて・・・ありがとうございます~うぅ~う~

【重森】 ・・・何だ、その・・・いやぁーすごいな!俺の説得がここまで効くとは!

【二人】 おどうざん~~

【重森】 ・・・しかし・・・どう収拾をつけるべきか・・・


 重森、おもむろに上手を見る。そこにはいつの間にか入ってきた千田の姿。床に はアタッシュケース。体言止め。そしてー、誰もー、気づいてなーかったー。

 重森と目があった千田は、『俺が俺が!』のノリで自分を指さしたり手ぇ挙げた りする。


【重森】 どうするべきか・・・


 千田しょんぼり。…ああ、松尾ばしょんぼりみたいな名前にすればよかったか  なぁ。


【重森】 あ、そういや、よーく見たら、さっきのお尋ね娘じゃあーないかー。


 まだおいおい泣いてる二人を見て、重森は遠山のほっぺをぺちぺちする。


【重森】 お尋ね娘じゃあーないかー。

【遠山】 はっ!…『お尋ね者』みたいに言わないでください。それに今気付いたんですか。

【重森】 するってーと、やっぱり俺の推測は正しかったんじゃないか。広ちゃーん。

【遠山】 いい加減やめてください!

【千田】 あー、ぁーあー、マイクテスト、マイクテス、マイテス。

【当山】 だいたい先輩、俺の修正一度も聞いてくれてないじゃないですか!

【八木】 じゃあ、『広人ちゃん』というのは・・・

【千田】 あのー、あのー

【遠山】 何で『広人』って知ってるんだ!

【千田】 おーい、聞いてる?…ねえムー民、こっち向いて♪

【八木】 パンフレットに…書いてあったので…(客席に)そうですよね?

【遠山】 誰に聞いてんだ!

【重森】 ねえねえ広人ちゃん、広人ちゃん、

【遠山】 広人ちゃん言うなー!


 ざわざわ…ざわ…


【千田】 てめぇらうるせぇぞ!いい加減にしろ!

【三人】 はい!先生ー!

【千田】 えーでは、資料集の八十六ページを開てちがーーーう!

【重森】 ん?あっ!こいつは先生じゃないぞ!さっきの強盗犯だ!先生をどこへやった!

【千田】 知らねーよ!

【重森】 じゃあいっか。どうやって入ってきた!

【千田】 裏が空いてたのさ。不用心だねぇ。

【遠山】 先輩。

【重森】 だって・・・こんな感じで事件起きやすいじゃん・・・

【遠山】 ・・・

【千田】 おっと、動くなよ?そっちが銃を持ってることは分かってるんだ。


 重森、視線を遠山へ。千田も同じように向けると、遠山は銃を構えていた。慌て て銃を向けなおす千田。


【千田】 あ、こっちか。

【八木】 あの・・・強盗犯は・・・私、なんですが・・・

【千田】 ん?さっきのお嬢ちゃんじゃないか。先ほどは、失礼したね。

【八木】 あ、はい・・・

【遠山】 え、知り合い?

【八木】 さっき、ちょっと・・・

【重森】 えーと、強盗犯じゃないなら何だ、お前!

【千田】 ふっふっふ。では正体を見せてやろう!


 千田、マスクとサングラスを外す。バサァ!って感じ。


【千田】 久しぶりだなぁ、重森善司郎!(ビシィッ!)


 間


【千田】 あれ?えーと・・・久しぶりだなぁ、重森廉太郎!(ビシィィッ!)・・・勘太郎!

【重森】 いや、善司郎であってる。

【千田】 おぉ?そ、そうか。え?じゃあ、もしかして・・・覚えてないの?

【重森】 ・・・

【千田】 ちょ、ちょっとぉー。善ちゃんしっかりしてよー。(咳払い)。仕方ない。とうとう本名を明かす時が来たか。

【遠山】 偽名すら聞いてませんけどね。

【千田】 俺の名前は、千田信!あの日あの時の爆弾魔さ!

【遠山】 ・・・爆弾魔?

【重森】 ・・・ああ。千田か。どうりで声に聞き覚えが。

【千田】 あの時は爆発物処理班だったお前が、今では唯の交番勤務員か。落ちぶれたもんだ。まあ、自業自得ってやつだけどな!

【遠山】 ・・・どういうことだ?先輩が、爆発物処理班?・・・ええええええええ?!

【重森】 今まで隠してきたが・・・話すしかないか。・・・あれは、10年前の、ことだった・・・ほわんほわんほわんほわんほわーん・・・


 重森と千田、回想に入るっぽい動きをしながら所定の位置へ。重森は中央で座り ます。千田は舞台裏あたりが良いかと。


【重森】 おい、回想シーンだぞ!所定の位置につくんだ!

【遠山】 は?

【重森】 お前は自分の親父をやれ。遠山進吉。場所は俺の隣だ。

【遠山】 はあ・・・

【重森】 しづちゃんは・・・警察C。

【遠山】 C?

【八木】 はい!ほわんほわんほわんほわんほわーん。


 八木、上手のハケ口付近へ行きましょう。遠山もしぶしぶ。

 間


【重森】 あ、広ちゃん電気暗くして。

【遠山】 ・・・『遠山』だっ!ての。


 遠山、どこかにあるスイッチを押すふり。『だっ!』でね。

 照明豆球のみ。


【遠山】 善ちゃん、もう諦めて逃げたほうが・・・

【重森】 いいや、駄目だ。こんなちっぽけな爆弾に、俺たちの警視庁は壊させねえ。進ちゃんこそ、先に逃げてくれ。

【遠山】 何を馬鹿なことを。俺たちはずっと一緒にここまで来たんだ。死ぬときだって、一緒だろ?

【重森】 死ぬなんて誰が言った?お前、子供も置いて行くつもりか?生きて帰ろうぜ。・・・よし。あと1本だ。・・・赤で行く。

【遠山】 ・・・青で行こう。

【重森】 赤だろ。

【遠山】 いいや青だ。

【重森】 赤だっつってんだろ。

【遠山】 青だよ馬鹿、ちょっと俺に貸せ。

【重森】 何言ってんだよ俺の仕事だ。

【遠山】 てめ、ちょ、邪魔すんな。青!

【重森】 お前こそ馬鹿な真似はやめろ。赤!


 がやがや。どちらともなく切る。


【重森】 あ。

【遠山】 両方切っちゃった。


 ん間。


【遠山】 ちょ、何ですかこれ!

【重森】 まだ続くから!


【重森】 ・・・両方切って、正解…だったんだな。

【遠山】 しかし・・・いったい誰が仕掛けたんだ?

【重森】 ・・・千田だ。

【遠山】 あいつが?!つまり、内部の犯行だということか!

【重森】 それだけじゃない。ここ最近、金の流れが怪しいって言ってたよな。あれも・・・千田だ。

【遠山】 裏金・・・横領か・・・

【重森】 そしてこの間、盗撮事件があったよな?あれも…千田だ。

【遠山】 …確かか。

【重森】 ああ。あと、この前お前のプリンが盗まれたろ。あれも…千田だ。

【遠山】 ・・・確かか。

【重森】 ・・・ああ。

【遠山】 千田あー!!

【重森】 おい、警官C!

【八木】 はい!

【重森】 千田を捕まえてこい。証拠は揃ってる。連行して、上に報告だ。

【八木】 イエッサー!


 八木、ハケる。


【遠山】 おい、善ちゃん、そんなことしたら・・・

【重森】 いいんだ。真実は、何よりも重い。


 八木、千田を連れてくる。腕でCの形を作って千田の顔をはさんでいる。思えば、 八木は回想シーンの間中ずっと腕でCを作っているのかもしれない。


【重森】 これは、没収だ。


 重森、千田の各々のポケットから警察手帳と銃を取る。


【千田】 こんなことして、どうなるかわかってるのか?お前は、警察の名を汚す情報を流すことになるんだぞ?ただですむなんて、思うなよ?

【重森】 連れてけ。

【八木】 はい。

【千田】 覚えておけよ、俺は必ず!お前にふくしゅいたたたたた髪!髪引っ張りすぎ!・・・


 八木と千田ハケる。

 少し間。

 遠山がスイッチを押す。

 照明戻る!

 皆さん、元の立ち位置に戻りましょう。


【遠山】 何で回想を挟む必要があったんですか?普通に話せばよかったじゃないですか。

【重森】 いやー懐かしい。進ちゃんとの絆は深かったなぁ。

【遠山】 いや、大いに諍い合ってましたよね。

【千田】 まあそんなわけで、内部告発したこいつは、田舎町の交番、つまりここに左遷されたってオチだ。

【遠山】 先輩・・・

【八木】 善ちゃんさん・・・

【遠山】 善ちゃんさんって・・・いや、もう降ろして大丈夫だから。


 八木、そそくさとCの腕を解く。疲れたで賞。


【千田】 そして今日!俺の復讐が果たされることになる!さあて、再開だ!お前ら動くなよ・・・って、あれ?


 千田、銃がないことに気付く。


【重森】 へっへへー。THE・回想シーン作戦成功。


 重森、銃を千田に向けまする。


【千田】 あー!俺の銃!

【八木】 え、えーと・・・動くなー!


 八木も、懐から銃を取り出して千田照準。


【千田】 えええー?!お嬢ちゃん何者?!

【八木】 ぎ・・・銀行強盗です。

【遠山】 これで、逃げられませんよ?

【千田】 ふ・・・ふん!勝った気でいるようだが、そいつは違うぞ!

【重森】 なんだと?

【千田】 俺が爆弾魔だということをお忘れかな?


 千田はポケットから起爆装置を取り出した!


【重森】 な・・・まさか・・・そのケース・・・

【千田】 そうさ、このケースの中には、

【重森】 一千万が入ってるのか!

【千田】 爆弾が入ってるの!

【遠山】 先輩、しつこいです。

【千田】 ええい!ぽちっとな。


 千田、起爆装置のボタンをぽちり。


【千田】 はっはっは!・・・さあリベンジだ。あの時は解除されて俺の負けに終わったが、今度はそうはいかんぞ。タイムリミットは○分だ。制限時間内に解体できるかな?

【八木】 あの・・・どのくらいの威力なんですか?

【千田】 以前の2倍ほどはある。

【重森】 とすると・・・警視庁2個分か・・・

【遠山】 警視庁2個分て。でも・・・それ相当やばいですよ!

【八木】 じゃあ・・・どこか安全な場所に置いていく、というのは・・・

【重森】 無理だな。

【遠山】 じゃあ、今から逃げるのも、

【重森】 無理だ。車なんか無いし。

【千田】 これはお前に対する挑戦なんだ。やってもらわなければ意味がない。・・・でも、あれ?逃げれないってことは・・・失敗したら俺も死ぬの!?・・・善ちゃんお願い助けて。

【遠山】 ・・・あんた・・・馬鹿だ。

【重森】 ・・・やるしかないか・・・


 重森、ケースをガチャガチャ。


【重森】 ん?開かないぞ?

【千田】 えぇ?・・・あいつ・・・!鍵なんかかけてやがったのか・・・

【重森】 どうすりゃいいんだ・・・

【八木】 ・・・あの、私に任せてください。


 八木、ヘアピンを取り出し、ケースの鍵っぽいところをごちゃごちゃする。開  く。


【重森】 おおお!しづちゃんすげえ!

【千田】 ええぇー・・・

【遠山】 あれ?・・・何かこれ、爆弾じゃないんですけど・・・


 アタッシュケースの中には大量の札束が。札束って言っても別に、紙に「一万」 とか書いたもので。これって偽金になるんだろうか。


【重森】 ・・・マジックで「一万」って書いてある。

【千田】 あれぇ?!

【遠山】 八木さん・・・これ、あなたのケースですか・・・?

【八木】 ・・・多分・・・でもこれ・・・偽物・・・

【遠山】 だとしたらこっちのケースは?!


 重森、慌ててもう一つのケース(八木が持ってきたもの)を開けようとする。


【重森】 ・・・こっちも開かん!・・・しづちゃん。

【八木】 嘘でしょ・・・偽金・・・

【重森】 しづちゃん!

【八木】 はい!


 八木、再びピッキング。開く。今度こそ爆弾。どうやら残り時間が表示されてい るようだ。といいな。


【遠山】 うおお!もう時間ないっすよ!

【重森】 ええい!はさみ貸せ!

【遠山】 はさみ?


 遠山、後ろの棚からはさみを取り出し、重森に渡す。

 重森、鬼のような速さでコードを切っていく。そして、


【重森】 あと一本か・・・

【遠山】 例によって赤と青、ですね・・・

【重森】 どっちがいいかな?

【遠山】 俺すか?!・・・じゃあ赤、で。

【重森】 いや、青だな。

【遠山】 じゃあ、青で。

【重森】 赤。

【遠山】 ・・・赤。

【重森】 青。

【遠山】 ・・・赤。

【重森】 黒。

【遠山】 黒!?


 ごちゃごちゃ。


【遠山】 ・・・もうどっちでもいいですよ。

【重森】 くっそーもうどうにでもなれ!


 プツンと。


【重森】 あ。

【遠山】 ・・・

【重森】 両方切っちゃった。

【遠山】 ・・・若干こうなる気がしました。


 どうやらカウントダウンを迎えたようだ。しかし天の迎えは来ない。


【千田】 た、助かったぁー!

【重森】 いやー良かった良かった!まだ昔の腕が鈍って無くて!

【遠山】 昔のまんまでしたね。

【千田】 お手柄お手柄。善ちゃん、今度、何かおごるよ!じゃあな!

【重森】 おう!

【遠山】 ちょ・・・


 遠山、千田を追いかけようとするが、八木の方が早かった。


【八木】 逃げるつもりじゃあ、ありませんよね・・・?

【千田】 あは・・・あはーはー。はい・・・

【八木】 さあ、取り調べです。(重ちゃんどぞ、みたいな手の動き)

【遠山】 …八木さん・・・先に言っときます。ブラインドは・・・

【重森】 しっかりと吐いてもらうからな。まずは、どうしてケースが逆になっていたかだ。

【千田】 …何でだろう。ほわんほわんほわんほわんほわーん。


 千田と八木、回想シーンへ。千田はマスク&グラサン。

 遠山、スイッチを押してあげる。

 豆球。


【千田】 俺は、お前が銃を持っているのを知って、慌てて部下に連絡を取った。そして、部下から銃を取りにいく矢先だった。

【八木】 私は、銀行から金を奪って、そのまま帰るところでした。


 千田と八木、走ってきてぶつかる。


【千田】 うわっ

【八木】 きゃっ

【二人】 すいませんでした!

【千田】 その時俺は思った。ああ、何て可愛いお嬢さんなんだろう!

【八木】 その時私は思いました。ああ、何て怪しい人なんだろう!

【遠山】 なるほどね。


 千田と八木、各々違うケースを持って行く。

 遠山、スイッチ。

 明転。


【重森】 ・・・すんなり分かっちゃあ面白くないなぁ・・・。じゃあ、もうひとつ!今回の、『重森交番爆破未遂事件』の犯人は、お前だな!千田信!


 千田、ぽかん。


【遠山】 何で交番を自分の所有物みたいに言うんですか。

【重森】 黙ってちゃあ、真実は分からない・・・

【千田】 ・・・

【重森】 おふくろさんが、泣いてるぜ・・・

【八木】 すいません!私が強盗犯です!

【遠山】 八木さん?!

【八木】 魔が差したんです・・・親の仕事がうまくいかず、借金を背負ってしまったんです・・・それで、高利貸しの人たちに銀行強盗をすればいいって・・・でも、まさか、偽物をつかまされるなんて・・・

【遠山】 …銀行の店員は賢かったんでしょうね。電話してきたやつを除けば。

【重森】 ・・・おい信ちゃん!しづちゃんはこんなに話してくれてるんだぞ!さっさと答えないか!

【千田】 ・・・

【遠山】 さっさと答えた方がいいですよ・・・大分長引くと思います。

【千田】 ・・・ふん。

【重森】 カツ丼でも、頼もうか?

【千田】 俺がやりました!

【遠山】 えぇ!?

【千田】 ・・・カツ丼は、カツ丼だけは、やめてくれ・・・!あんな外はカリカリ中はジューシーな揚げ物をほかほかの炭水化物と無理矢理共存させたようなゲテモノを見せるんじゃない!・・・吐き気がする・・・

【遠山】 ・・・酷い言い様ですね。

【重森】 ・・・そうか。もうちょっと長く・・・

【遠山】 万事解決ですね。

【重森】 ・・・。すまなかったな。

【遠山】 え?

【重森】 今回の事件は、完全に俺のせいだ。過去にあんなことをしたばっかりに・・・。お前を巻き込んでしまった。

【遠山】 いつも巻き込んでるじゃないですか、先輩は。

【重森】 ・・・すまない。

【遠山】 ・・・カツ丼はいりませんけど、白状しますよ。

【重森】 え?

【遠山】 ここに留まってる理由ですよ。・・・俺、父さんに、善ちゃんのもとで働いてこいって言われたんです。

【重森】 ・・・

【遠山】 あそこの交番には凄い警察官がいる。その人のもとで働いて、数多くのことを学べ、って。最初は、非常識で事件ばっかり起こす先輩が嫌で嫌でたまりませんでした。ほんとにこんなやつが凄い警察官なのかと、何度も父さんを疑いました。そんな自分を恥じつつ、今までやってきました。それに、何故だかここに魅力を感じるんです。・・・きっと慣れてきたんでしょうね。先輩にも、この職場にも。ここが、何か良いなって、居心地いいなって思える時があるんですよ。今回のことも含めて。まあ今回は、ほんっとに大事件でしたけどね。・・・だから、ここから離れられないんですよ。

【重森】 ・・・遠山・・・

【遠山】 『広ちゃ』・・・間違えた。・・・ほんと、先輩は凄い警察官ですよ。いろんな意味で。

【八木】 あの・・・そう言えば、さっきこの人、『部下』って言ってたような・・・


 八木、いつの間にかどこかから手錠を取り出して千田の腕にかけていた。


【重森】 何?部下がいるのか。よし、これは詳しく聞く必要があるな。・・・おふくろさんが、泣いてるぜ・・・

【遠山】 また始まったよ・・・


 皆、口パクに。ここでエンディングとか流れると良いな。


 暗転。これにて一件落着。

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ぽりすぼっくすくらいむ 寛くろつぐ @kurotugu

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