第45話 新しい魔法 下

「ブンカサイ、楽しいね。この建物の中はあらかた見て回ったし、次はあっちの建物に行ってみようか」

「そうですね」

 魔法使いたちが向かったのは体育館だった。

 ステージにはドラムやキーボードなどの楽器や音響に使う機材が並んでいる。

「これから、何が始まるの?」

 魔法使いが体育館に集まっていた生徒の一人に声をかけると、生徒は「あれ、こんな奴この学校にいたっけ?」とでも言いたそうな顔をしてから、これから始まるのはバンドだよと教えてくれた。

「ばんど?」

「そう。めちゃくちゃ上がるから、あんたも気に入ると思うよ」

「そっか。なら、楽しみだ」

 ね、と魔法使いは肩に乗る使い魔に声をかける。

 使い魔の烏がええそうですねと返事をすると、生徒は目を丸くした。


 まもなくして、照明が落とされ、体育館の窓という窓のカーテンが閉じられて真っ暗になる。

 ざわついていた室内がしんと静まり返り、これから始まるなにかへの期待と緊張感がじわじわと広まり、高まっていく。

 ふいにパッと照明がつき、ステージ上を強い光であぶり出す。

 体育館中の視線を一身に受け、壇上のメンバーたちはおのおの楽器を手に、不敵に笑った。

 二、三、簡単なあいさつをした後、それは唐突に始まる。

 それは、洪水だった。叩きつけるような強いエネルギーを伴った、音の洪水。

 ステージから放たれる音に加え、客席から放たれる絶叫ともとれる歓声の嵐。

「な、な、なに、なんなんだ?」

 驚いたような魔法使いの言葉は周囲の音にかき消された。

 ステージの真ん中に立つ人間がマイクに向かって叫び声をあげる。

 盛り上がっていこうぜー、いえーい!

「ねえ、これ何? 新手の攻撃魔法?」

 魔法使いの精一杯張り上げた声がどうにか使い魔の耳に届くと、使い魔の烏も精一杯声を張り上げて答えた。

「バンドですよ、魔法ではありません。音楽の一つです」

「音楽……バンド……」

 熱気のこもった演奏と、それに応えるように白熱してゆく観客たち。

 あっけにとられていた魔法使いだったが、次第に周囲の熱に巻き込まれ、気が付けば手に汗握り他の生徒たちと同様におおいに盛り上がった。


「これだよ、これしかない」

 バンドの演奏を満喫しきった魔法使いは、すっかり枯れた声で使い魔に宣言する。

「音楽、バンド。これが新しい魔法だよ」

「音楽もバンドも、魔法ではありませんよ」

 魔法使いと同じくらいバンドを満喫した使い魔の烏が、魔法使いと同じくらい枯れた声で言った。

「いいんだよ、なんでも。要は楽しければ何でもいいんだからさ、魔法使いの集会ってものは」

「まあ、それもそうかもしれませんね」

 魔法使いは箒に乗り、からりと晴れた空へ浮かび上がる。

 そうと決まれば、さっそく楽器の練習が必要だね。

 私はあの、キーボードという楽器を使ってみたいです。

 きいぼうど? よくわからないけれど、わかったよ!

 

 魔法使いと使い魔の烏は楽し気に会話しながら、まだまだ終わらない文化祭を後にする。

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法螺貝吹きのテノヒラ 洞貝 渉 @horagai

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