第44話 新しい魔法 上

 秋も深まり、森の木々が鮮やかに紅葉していた。

 どこまでも広がる暖色系のカラフルな葉の上を、悠々と飛ぶ影が一つ。魔法使いだ。

 箒にまたがる魔法使いはどこか憂鬱そうな表情で、眼下に広がる美しい光景には視線の一つもくれない。

 魔法使いは大きな大きなため息を一つして、肩に乗る使い魔に愚痴を吐いた。

「毎度毎度、困っちゃうんだよねえ……」

 年に一回ある魔法使いたちの集会、ヘクセンナハト。

 基本的にはただ集まってお祭り騒ぎをするだけなのだが、誰がはじめたのか、ここ数年は魔法使いたちが個々で開発した新魔法を集会時にお披露目しあうのが暗黙の了解になってしまっていた。

「そんなに毎年毎年ぽんぽんと、新魔法なんて思いつくわけがないじゃないか……」

 ブツブツと不平不満を垂れ流す魔法使いに、魔法使いの肩に乗る小柄な烏——使い魔が、まあまあと声をかける。

「そう言わず。毎年いろんな魔法が見られて楽しいじゃありませんか」

「そりゃ、お前はね。見てるだけだからね」

「まあまあ、まだ時間はありますよ。一緒に新しい魔法、考えましょう。ね?」


 魔法使いが気ままに箒で飛び続けると、やがて森が途切れ、街に出た。

 人でにぎわう様子を見下ろし、魔法使いはまたため息をつく。

「人間はいいねえ。新魔法の開発だなんていう厄介な宿題がないんだから」

「人間は人間で、きっといろいろと大変だと思いますよ」

「そうゆうものなのかなあ」

「そうですよ」

「でもほら、あそこ。悩みなんて何もないと言わんばかりに賑わっているじゃないか」

「ああ、あれは生徒さんの文化祭というやつですね」

「セイトサンノブンカサイ? なにそれ?」

「学校で催されるお祭りみたいなものです。生徒さんによる文化的な活動の発表の場でもあります」

「祭りで発表? よくわからないけれど、それって魔法使いの集会ヘクセンナハトの人間バージョンってこと?」

「え、えと……まあ、そうとも言えるかもしれませんね」

 ふーん、と魔法使いは文化祭の様子を空から見下ろし観察した。

 同じ格好をした同じくらいの年齢の人間がたくさんと、その他の小さい人間や大きい人間がガヤガヤと練り歩いている。

 大きな建物の敷地内には即席の小さなお店がいくつも立ち並び、そこからおいしそうな匂いが空の上にいる魔法使いのところまで届いてきた。

「おいしそ……じゃなくて、おもしろそうだね。新魔法の参考になるものがあるかもしれない。ちょっと参加してみようか」

 言うが否や、魔法使いはさっと箒を下に向け、一直線に地上へと降下した。

 ちょうど人間たちの死角になるような物陰に着地して、軽く衣服を整える。魔法を乗せた手でさらりと撫でれば、一瞬で魔法使いはこの学校の生徒たちと変わらぬ見た目へと変身した。

「うん、こんなものかな」

「お見事です」

 魔法使いはさっそく出店をいくつか見て回り、たこ焼きとチョコバナナと綿菓子を買って使い魔の烏と分け合った。

「おいしいね」

「はい、おいしいですね」

「でも、これって文化的な活動なの? おいしいけどさ」

「いえ、それはおそらく建物の中で行われているのでしょう」

「ああ、なるほど」

 魔法使いは軽い足取りで建物の中へ入り、一つ一つの教室を見て回る。

 全員がメイドの恰好をしたメイド喫茶、綺麗な風景や日常の様子が切り取られた写真の展示、教室全体を使ったお化け屋敷、大胆だったり繊細だったり個性のある絵や彫刻の飾られた教室……。


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