第416話 後嗣問題(Ⅲ)

 夫婦水入らずで大事な話をしたいからと、羽林の兵と女官たちを部屋から有斗が追い出すと、セルウィリアは執務机を手でドンドンと暴力的に叩くことで珍しく怒りを面に表し、有斗に詰め寄った。

「わたくしのお友達たちの何が不満というのですか! 門地といい教養といい容貌といい、ケチのつけようがない素晴らしい女性ばかりです! ことの返答次第では陛下と言えどもただではおきませんよ!!」

 ストレートに好意を向けられていたということもあろうが、有斗の周囲にいた女性たちの中では、セルウィリアはアリスディアに次いで大人しく礼儀正しい印象を抱いていた。しかも怒る姿というよりは、どちらかというとアエネアスに怒られている姿が未だに記憶に残っている。

 そのせいからか、有斗はセルウィリアがこんなにも怒りを見せたことが意外で、戸惑いを隠せなかった。

「怒らないでよ、セルウィリア。これにはとても深い事情があるんだ」

 有斗は感情的にならずにできる限り冷静になだめようと努力してみたが、セルウィリアにしてみれば自分が望んでいた答えと違ったために、口答えをしてるようにしか思えず、怒りという火に油を注ぐだけの結果となった。

「どんな事情があるというのですか。そこまでおっしゃると言うのなら、わかりました。しっかりとその事情とやらを伺うと致しましょうか。話してくださいまし!」

 セルウィリアは玉座に座る有斗に更に近づくと、荒々しく座って腕組みをし、有斗を睨みつけた。

「まぁ落ち着いてよ。喧嘩腰でこられてはおちおち話もできやしない」

「喧嘩腰になどなってはおりません!!」

 とセルウィリアは言うが、表情、言葉、仕草どれを取ってみても喧嘩腰としか有斗には思えなかった。


 有斗は王であるから、その気になればセルウィリアの意向など無視して、強引にウェスタを後宮に入れてしまうことは可能だ。

 だが配偶者として有斗を私的な面から精神的に支えるだけでなく、表では皇后として後宮を治め、裏では政治に関して助言をも行ってもらっていることから、今やセルウィリアは有斗にとって公私ともになくてはならない存在である。

 であるから、後宮にウェスタを入れるとなると、セルウィリアの同意を取り付けておいたほうが後々のことを考えるといいことは間違いない。

 有斗が自ら椅子を勧めるなど、少し気を遣ったことでセルウィリアの憤激も少しはなだめられたのか、とりあえず椅子に座って有斗の話を聞く姿勢を見せた。

「セルウィリア、僕が今、王としてこうして玉座に収まっていられるのはどうしてだと思う?」

 有斗が話の切り口を変えてきたことにセルウィリアは戸惑った。

「は? いきなりなんですか? 話を変えて誤魔化そうとしても、そうはいきませんよ!!」

「いいから答えてみてよ。これは僕がウェスタを選んだことに深くかかわりある話なんだから」

 セルウィリアはなんだか有斗が話をけむに巻いて誤魔化そうとしているような気がしてならなかったが、そうは言っても有斗に下手に出られてはこれ以上強く出ることは性格的にできなかった。例え二人きりの時であっても王である有斗を立てねばならない。

 何より有斗のことが好きなのである。惚れた弱みと言う奴であった。

 セルウィリアはその小さな形のよい尖った顎に手を当てて考え込んだ。

「わかりました。そうですね、それは・・・・・・単純なことですわ。陛下が天与の人であらせられるからです。高祖神帝サキノーフ様以来、この世は天与の人が治めるものと決まっていますもの」

「少し違う。僕がこうして王に担がれたのは、まさしくその天与の人とやらだったからだけど、天与の人というだけで全ての人が僕をすぐに王として認めて、戦争が終わったわけじゃなかったよね」

 その言葉は天与の人と有斗を認めずに戦いを続けた、関西の朝廷の主であったセルウィリアにしてみれば少し耳の痛い話である。

「では陛下が逆らう官吏や諸侯を討ち従えて、乱世をしずめたからだと申し上げましょうか」

「乱世を終わらせるまではそうだったと思う。それに多くの民にとっては今もそうだと思う。だけどそれだけで僕が今現在、王でいられるかといったらそうじゃない」

「と申しますと」

「僕は王として国政を全て裁断しているわけじゃない。実際の細かい政治の実務を行うのは官吏たちだ。彼らの協力なしでは政治は成り立たない」

「当然ですわね。王には手足となるものが必要ですもの」

「つまり、その彼らが今も僕の命令に従っている理由とは何かって話さ」

「それこそが陛下が天与の人であるからではないのですか?」

 高祖以来、天与の人あるいは天与の人の血を引く者のみが玉座に座り続けてきた。

 カトレウスをはじめ、この伝統を覆そうと野望を抱いたものは数多くいたが、その企ての全ては水泡に帰したことから、アメイジアの信心深い庶民にとっては天与の人がアメイジアの王になることは信仰に近いものがある。

 それをセルウィリアは言ったのだ。

 だが有斗はそうは思わなかった。厳しい科挙を通り抜けたという事実に裏づけられた高い識見を持つ官吏らは、ラヴィーニアほどではないにしろ自分に強い自負を持っている。

 しかも隙あらば私腹を肥やそうとする。多くの官吏は有斗を敬うのは表面だけで、内心では見下してまではいないものの敬服はしていない。

「違うね。今の朝廷には僕が来た頃の朝廷にいたようなネストールやエヴァポスのような権力で王を上回るような権臣はもういないし、アドメトスのような与党を増やして国権を握ろうとするようなあくの強い家臣もいない。朝廷の首座である右府マフェイは人格者だ。だけど彼らはそこまでお人よしじゃない」

 アメイジアの善良だが無知なる民に王が尊敬され信仰されているという事実を利用こそすれ、民と同じように無条件に王を信奉などしないのである。

 そんな彼らが有斗を重んじるのは、彼らを怯ませるような威があるからである。

 それは正確に言えば有斗個人が持っている威ではない。

「彼らが不本意であっても僕の言うことに最終的に従っているのは、逆らえばカトレウスやアドメトスのように軍事力で押しつぶされると思っているからだよ。彼らでは命令を聞かせることができない、言ってみれば僕の私軍に近い王師十軍と南部諸侯という軍事力が僕にあるのが大きい。天与の人という権威があり、王師と南部の諸侯たちという目に見える軍事力が後ろ盾になっている。この二つがあるから朝臣たちは僕を重んじるんだ」

 有斗は南部の諸侯といったが、正確には元南部に所領を有し、初期から有斗を支えた諸侯ということである。その多くは所領替えによって今は南部から離れている。

 もちろん王師や南部諸侯だって一枚岩じゃない。特に諸侯は自身だけでなく一族や郎党の運命をも背負っている。堅田城落城後にカトレウスに一斉になびいたように、彼らは無条件にいつだって有斗に味方してくれるわけじゃない。マシニッサのような本心が定かでない物騒な輩もいる。

 諸侯たちもそんな具合だが、王師だって将軍から一兵卒に至るまで様々な思惑を秘めた集合体である。なんでもかんでも有斗の意のままに動くというわけではない。

 だけど外部から見れば、この両者は有斗の強力な支持基盤に見える。

 それに実際のところ、彼らも後方の安全な場所で政治を執っていて顔も満足に知らない官吏たちよりは、共に肩を並べて戦場で戦った有斗のほうが幾倍も心情的に近い。

 平和を勝ち取るために実際に戦って血を流したのは自分たちなのに、安全な場所で隠れていた官吏たちが今になって権勢を握って威張り散らしているといった反感もある。

 官吏たちと王が反目した場合、どちらに味方するかはまず議論などする余地はないほど明白であった。

「・・・・・・・・・そのことに関しては陛下のおっしゃるとおりかもしれませんが、そのこととベルメット伯のこととどう繋がりがあるのですか?」

「つまりセルウィリアの他に女御を迎えるにあたっては、そのことにも気を遣わないといけないってことさ。セルウィリアが僕に紹介した女の子たちはどこ出身だった?」

「それは・・・わたくしのお友達ですから、当然、全員関西出身ということになります。それがいけないことだとおっしゃるのですか?」

「そうさ。セルウィリアの次も女御が関西出ということになれば、元関西の官吏たちは嬉しいかもしれないけど、関東出身の官吏たちはどう思うだろう? 僕がセルウィリアや関西閥の官吏たちに取り込まれていると見るんじゃないか?」

閨房けいぼうのことにまで臣下が口を出すのは専横の極みです。それにこう言ってはなんですが、以前の陛下は南部諸侯に重きを置かれていたように思われます。それが南部から関西に変わっただけではありませんか。君子とは豹変するものです。何ら不思議はありません」

「確かに以前の僕の側近はみな南部出身者で固められていた。だけどいったん玉座を追われた僕を元に戻してくれたのは彼らなんだよ。それはみんな分かっている。だから関東の官吏も不満はあっても納得はしてくれるだろう。だけどそれが関西に代わっても彼らは同じように納得してくれるだろうか?」

「・・・・・・」

「朝廷で最大勢力は関東閥だ。今の関東閥には僕が来た頃の朝廷にいたようなネストールやエヴァポスのような王を上回る権臣はもういないし、アドメトスのような与党を増やして国権を握ろうとするようなあくの強い家臣もいない。朝廷の首座である右府マフェイは人格者で、信頼できる僕の片腕といって良い存在だ。だけどセルウィリアが入内するときに見せた彼らの顔を忘れてはいけないよ。彼らは普段は徒党を組まず、僕に従順に従っているが、関東閥に不利になるとみれば普段の反目はどこかにおいて結束する。僕の朝廷であからさまに関西閥を贔屓ひいきするような行動を取るということは、その関東閥を敵に回すのに等しい」

「・・・・・・・・・・・・」

「しかも何より問題なのは、その行為が関東出身の官吏たちの反感を買うだけでなく、僕の支持基盤である王師や南部諸侯たちの心を離すことになりやしないだろうかってことさ。セルウィリアだけでなく次の女御も関西出身となれば彼らも僕に疑心を抱くだろう。王は自分たちが血を流した苦労を忘れてしまったのかってね」

 アエティウスやアエネアスやアリアボネやヘシオネが死に、アリスディアも後宮を退いた今、有斗の強力な与党だった南部閥は朝廷内では勢力を失って久しい。といっていざとなれば頼りになる実際の武力を持つ彼らを切り捨て、朝廷内で多数を占める関東閥とも距離を取り、数が少なく親しみも少ない関西閥に軸足を移すのは非常に危ない行為だと言わざるを得ない。

「関西閥が頼りないわけじゃない。関西には有能な官吏がいる。だけど関東にも有能な官吏はいる。王としては彼らを使わない手はない。僕が関西だけを贔屓しているかのように思われかねない行動は避けるべきだ」

「しかし・・・しかし! 何もあのような女でなくとも良いではありませんか!! 関西出身の女御が問題というならば、関東の官吏の縁者から選べばいいではありませんか!」

「今の関東閥は何事にも緩い派閥だから政治的に問題はないんだけど、もし女御が僕の子を産んだことをいいことに彼女の親や兄弟が権勢を拡大すれば、巨大な派閥を作って政治を私しないとも限らない。王としてはそれが一番困る。関東閥からは安易に入内させたくない。一番理想なのは僕の支持基盤である南部諸侯から選ぶことなんだけど・・・・・・」

「ではその中からお選びくださいまし!」

 セルウィリアはどうあってもウェスタが入内するのは気に入らないようだった。

「ところが困ったことに南部諸侯の中にちょうどいい年齢の女性がいない。諸侯はアエネアスが僕に嫁ぐものだとばっかり思っていたからね」

「・・・・・・・・・」

 アエティウスやアリアボネがそう仕向けていたせいもあるが、南部諸侯は自分たちの代表としてアエネアスがゆくゆくは王配になるものと信じて疑わなかった。そしていくら有斗が天与の人として彼らの王となったとはいえ、戦国の世は一歩先は闇である。いざという時の命綱代わりに婚を通じて有力者と縁者となっておくのは生き残りのためには必要なことであった。妙齢の女性を無意味に遊ばせておく余裕は戦国の諸侯には無かったのである。

 つまり南部諸侯に今すぐ有斗の女御になるに相応ふさわしい女性がいないのだ。

 それだけでない。ヘシオネもアリアボネも死んだ。アリスディアも罪を犯して流刑となった。有斗の側にいた南部出身の女性はもう誰もいなくなってしまったのだ。

 選びようがないのである。

「では王師の将軍の縁者からお選びくださいまし!」

 そうは言ってみたものの、セルウィリアにも心当たりが無かった。王師の将軍は比較的若く、子がいても幼子がほとんどである。

「それもいないんだよ」

 困ったように眉をひそめた有斗だったがその時、不意にあえて脳裏から消し去っていた一人の女性を思い出し、急に歯切れが悪くなった。

 「・・・・あ、いや、王師でなく南部諸侯に一人だけ心当たりはいないことは無いんだけどさ・・・」

 有斗のその言葉にセルウィリアが我が意を得たりとばかりに喜色を顔に出して椅子から飛び上がった。

「・・・・・・! それはようございました! その方にいたしましょう!!」

「しかし気が進まない」

「・・・気が進まぬ・・・? 器量がすぐれないとか性格に問題があるとかですか?」

「本人には一度会ったことがあるけど、まぁ美人だったよ。少し接した程度だから確かなことは言えないけど、性格も悪くないんじゃないかな。小さな妹の世話を小まめに焼いていたし。ま、セルウィリアほどじゃないけどね」

 見たこともない女を有斗が褒めるたびにセルウィリアの表情が曇るものだから、有斗は最後にそっとお世辞を付け加えた。

「まぁ!」

 見え見えのお世辞だったが、セルウィリアはそれだけで一気に機嫌がよくなった。

「ではその女性でいいではありませんか!」

「その娘に問題があるわけじゃないんだ。ただ父親が・・・ね」

「父親? 出自に何か問題があるとかですか?」

 側室なのだから普通は出自は問題にならない。健康で色気があって丈夫な子を埋めればそれでいいのである。過去には商人や農民の子すらいるのだ。セルウィリアはしきりに首を捻った。

「その逆。マシニッサなんだ」

 セルウィリアはその言葉で全てを察した。

「あ・・・!!」

「本人に問題は無いけれど、彼女を入内でもさせようものなら、マシニッサがセルウィリアを暗殺して娘を皇后に付けようと画策するかもしれないし、もし男の子を産みでもしたら、マシニッサなら今度は僕を殺しかねないよ」

 マシニッサがトゥエンクを乗っ取るときに使った手のように、幼君を傀儡にして今度はこの国を乗っ取ろうとするかもしれない。

 そこまではやらないかもしれないが、少なくとも宮中だけでなく後宮も陰謀の巣になることは請け合いだ。マシニッサはそういう男である。

 有斗も王様業も長く、板についてきたので、マシニッサのような姦雄であろうとも有力諸侯であるからには付き合っていかなくてはいけないことくらいは重々承知しているが、それでも気兼ねなく過ごせるプライベート空間である後宮くらいは気を緩めることができる安全地帯にしておきたい。

「それは・・・その、陛下のお言葉が正しいかと思われます」

「というわけでさ、いろいろ配慮した結果、ウェスタに思い当たったんだ。ウェスタは河東の諸侯とは懇意で、南部の諸侯や王師の将軍とも肩を並べて戦ったことがあり顔馴染みだ。つまり彼らの支持を繋ぎ止められる。問題として関東や関西の官吏とは親しくはないけれども、両者から等間隔で離れているから反対する理由がかえってない。逆に支持を取り付けやすいとも思うんだ」

「・・・・・・」

 有斗の言うことは全てがもっともでセルウィリアは反論できなかった。

「それに一族はカトレウスに攻め滅ぼされてしまい本人は天涯孤独になってしまったけど、元々は多産の家系だっていうし。ウェスタも7人兄弟だったって言うよ」

「・・・・・・」

「それに、もし男子が二人生まれれば弟はベルメット伯だ。王家の藩屏はんぺいとして越の地に位置し、坂東に睨みを利かせられる。五十年は王家は枕を高くして眠ることができる」

 じっと黙って上目遣いで有斗を見つめていたセルウィリアだったが、最後に居住まいを正した。

「わかりました。言われてみればいちいちもっともなことと頷けます。わたくしは陛下のお考えに従います」

 王としての教育を受けたセルウィリアには有斗の言葉に道理の正しさを見たし、何よりセルウィリアが納得できたのは、ここまで有斗がウェスタの人物について全く語らず、主に政略についてのみ語ったからである。

 国家のためならば皇后である自分が我儘は言えないと一歩退いたのである。

「よかった」

 有斗はほっと安堵した。これでウェスタに酬いることができるといった気持ちだった。


 セルウィリアの手前、全ては政略のためだと言ってはみたものの、実は有斗はずっとウェスタのことが気がかりだった。

 それはある噂を耳にしたからだ。

 アメイジア中が祝福で包まれたセルウィリアが有斗に入内するという話を聞いた時のウェスタほど悲惨な女性はアメイジアにはいなかったであろう。

 とても有斗の耳には入れられないような言葉を口にしながら、止めようとする臣下相手にひと暴れした。

 やがて暴れ疲れたウェスタはじっと部屋の片隅にうずくまってセルウィリアに対して呪詛の言葉を吐いていたという。

 そんなウェスタの下には諸侯からの縁組の話が次から次へと舞い込んできた。

 先ほど、諸侯は自家の生き残りのために婚を通じると言ったが、それは平和な時代になっても変わらない。実際に槍を手にとっての戦争はなくなったが、政治の世界の権力闘争はなくならないのである。

 ウェスタは魅力的な女性だったし、結婚すればベルメット伯領という巨封も余禄としてついてくるのである。冷や飯食いの諸侯の次男坊や三男坊からの縁談の申し込みはそれこそ山ができるほどであったという。

 だがその全てをウェスタは断った。

「私は陛下という本物の男に出会ってしまった。陛下以外の男は私にとって木石のようなものに過ぎない」

 しかし虎伏城でその眷属のほとんどを失い、ウェスタが唯一の生き残りであるベルメット伯家(当時はツァヴダット伯家だが)にとっては、ウェスタが子を産まない限り、伯家は一代限りとなってしまい、家臣とその家族は路頭に迷うのである。

 自分や家族の行く末が心配な家臣たちが寄ってたかってウェスタに翻意を促した。

「それでは由緒あるベルメット伯家が途絶えてしまいます。先祖にどう申し開きするのですか」

 ウェスタは諸侯としての道理を口にし説得を試みたその家臣たちに対してヒステリーを起こした。

「陛下はいつか必ず私の魅力に気付いてくださる! 陛下が私を迎えに来てくださるまで、例え髪が真っ白になっても他の男とは結婚しない! あんな売女なぞにこの私が負けるわけがない! 負けてたまるものか!!」

 まもなく国家のナンバーツーになろうかというセルウィリアに対する暴言を諸侯という立場にあるものが発したとなれば外交的な大問題に発展する。家宰は慌ててウェスタの口を塞いだ。

 それを聞いた有斗はその話がセルウィリアの耳の入らぬようにすると同時に、大いにくすぐったかった。だがウェスタはあの通り悪戯好きで、何をしても演じている節があったから、まぁこれも演技なんだろうなと思った程度で当初はたいして気にも留めていなかった。

 だけど有斗が結婚して二年、全ての縁談を断ったとあれば、ウェスタの言葉は真実として、また違った重みを持ってくる。

 ウェスタが有斗に身を任せようとしたのは、打算や報恩の為だけではなかったということになる。

 そうなればウェスタをなんとかしてやりたいという気持ちが沸き起こった。ウェスタも有斗が幸せにしたいアメイジアの民の一人ではあるし、有斗はウェスタのことはもともと嫌いではなかったのである。

 またベルメット伯家が後継問題でごたごたするのも王としては考え物だった。越のごたごたが東国全体に波及して不安定化するのは避けたい事態である。

 現状ではアメイジア中の女人の中では、ウェスタを迎え入れるのが政治的にベストな選択ということだ。


 セルウィリアの同意を取れれば他に大きな障害は見当たらない。

 有斗は神妙な顔をしてセルウィリアの言葉に頷いた。

 といってもどこまで行っても有斗のことだから、『ウェスタは肢体もグラビアアイドルみたいなド迫力だし、なにか凄いテクも持ってそうだし、夜が楽しみだなぁ』とか内心では考えていた。

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