第118話 白鷹の乱(Ⅴ)

 有斗は慌てて腰に手をあてた。しかし手はむなしくくうを切る。

 しまった剣を持ってきていない・・・

 まぁ剣を持っていたところで、有斗に人を切れる技量も度胸もない以上、残された選択肢は『諦めて斬られる』か、『抵抗して斬られる』しかないわけだが。

 残る羽林は四名。敵は・・・十二名。両方共に剣と鎧姿だから、武装の差は無い。数だけが純粋な差になる。つまり圧倒的に兵力差があるということだ。

 だが突然の奇襲を受けた先程とは違い、こちらも相手の存在を認識している。羽林の兵はダルタロスの中でも精鋭だ。

 なんとか・・・なるか?

 でも、と目の前の男たち、特にひときわ目を惹く銀髪の美形に目を向ける。さっき、関西のお姫様は『バアル』と言っていた。となると彼が名高いバルカとか云う将軍か。関東に幾度と無く苦渋を味あわせ、あのアエティウスをも破った男。王家に次ぐ名家の出で、関西の武の柱、そして関西宮女の憧れの的。アエティウスに負けず劣らずの男だとは聞いていたけれども、まさにそのとおりだ。風格がある。

 有斗は口をだらしなく半開きにしてぽかんと眺めていた。

 だがバアルも有斗を見たその瞬間、驚きで目を丸くした。

 これが・・・王だ・・・と・・・? これが関東を統べる覇者だというのか?

 召喚の儀により選ばれた男。内乱を打ち鎮めたものの、それに飽きることなく戦争に次ぐ戦争を民に強いる、魔王のような王だと言われている。

 バアルはその経歴から、さぞかし厳しい岩のような屈強な巨人を想像していた。

 だが目の前にいたのはまだ少年と呼ぶのが相応しい年頃の人物だった。それも外見だけでなく、内面までひ弱そうな、とても兵を死地に向かわせることもできぬであろう少年。いや、命令を出すことすらもできぬような柔和なつらだった。

 だがセルウィリアが関東の王であると言った以上、これが間違いなくバアルの敵なのだ。憎むべき覇王。油断も同情もしてはならない。

「かかれ」

 バアルの声を合図に刺客たちは手に手に剣を持って、有斗たちに襲い掛かってきた。羽林が有斗に向けられる剣刃を逸らす。だが敵も凄腕ぞろいの上、数も多い。羽林たちも防ぐだけで手一杯のようだ。有斗は逃げ場を探して右往左往する。

 一瞬、関西のお姫様を人質に取るか、とかちょっと姑息こそくな手段を考えたが、そちらも既に当然のごとく敵の手のものに塞がれていた。

 とはいえそちらの方が敵の数は少ない。隙あらば王女の身柄を確保したい。

 そういう考えは羽林の兵たちも思っているようだ。敵の刃を防ぎつつも少しでもそちらのほうに近づこうと移動する。

 だけどそれは同時に入ってきた入り口から離れることになるので、実際は追い詰められているのはこちらのほうだと言える。

 一人斬られ、二人目が倒れると、もはや数の差は覆せない。心の中では来ないとわかっているのに、味方が来ることを念じ、有斗の為にひたすら攻撃を防ぐ。焦りは隠しきれない。

 死に逝く寸前まで彼らは必死になって有斗の盾となり、奮戦した。例え一秒であろうと長く戦い、例え一人であろうと敵を道連れにしようとした。

 だが敵も凄腕ぞろいだった。傷を負った者はいるが、あれだけの斬りあいをしたのに、一人の死人も出なかった。

「陛下・・・お逃げを・・・!」

 有斗は足元に崩れ落ちた、名も知らぬその羽林の兵にひざまずくと、その手を握り締める。

 だが何の反応も返ってこない。もう既に事切れていた。

 これで一人きりになった有斗は顔を真っ青にする。遂に完全に囲まれてしまった。

 あれ・・・これ詰んでないか・・・?

「素直に降伏すれば、お命までとは申しません。だが、もし抵抗するというのなら・・・」

 そこには贅言ぜいげんは無い。

 一瞬、命乞いをしてでも生き残るべきか、とも有斗は思った。でも降伏したからといって、命が助かるとは限らない。取引の材料にされた挙句、殺されるのではとも思う。

 それならば、いっそ・・・

 いや、駄目だ。

 まだだ。まだ終わっていない。最後の瞬間まで諦めず、足掻あがくべきだ。

 セルノアと約束したんだ、このアメイジアに平和を取り戻すと。僕の命はもう僕だけのものではない。

「・・・」

 返答をしない有斗に業を煮やしたバアルたちは、じりじりと逃げ道を塞ぐように近づいてくる。

「どうやら、命は惜しくないようだ。かまわん。無理にでもその身を確保しろ。傷をつけることを恐れるな。相手は偽王だ。天与の人などでは決して無い。それに腕の一本や足の一本無くしても人はそう簡単に死なん。最悪の場合殺してもいい。逃げられるよりはマシだ」

 バアルは顔に似合わず物騒なことを言って、有斗をぎょっとさせる。

「しかし人質にしないと、脱出できないのでは・・・?」

 有斗を囲む者たちは少し動揺した。ここまで時間が経ったのに味方がまったく駆けつけてくる様子は無い。

 もし計画通り、味方が王宮を完全に制圧できていたならば、今頃ここも関西の兵で溢れかえっているはずなのだ。つまり彼らの中には、実は自分たちは孤立しているのではないかと言う思いがあったのだ。

 そんな兵たちをバアルは落ち着かせようとゆっくりと話す。

「大丈夫だ。脱出口はある」

 その言葉に安心したのか、剣を構えてさらに近づき、三方から有斗に切りかかろうとする。

 死を覚悟した有斗だったが、その者たちの剣は有斗に振るわれることはなかった。あと一歩のところで届かなかった。


 キイイイイイイン


 金属が弾けあう高い音が響き渡った。

「曲者!」

 大きく声が上がると同時に、有斗を囲むようにじりじり近づく敵の横、いや下から、突然飛び出すようにアエティウスが現れた。

 西宮の建物は高床式の建築物だ。どうやら敵に見つからぬように床下をかがんで近づいて来たのだろう。

 剣を電光石火で振りぬくと、一人、二人、そして三人と、切捨て、切り裂き、そして刺し貫いた。

 床にはあっという間に三つの死体が転がっていた。

 そして有斗を背中に背中に隠すような形で守ろうとする。

 有斗を探して後宮を走り回ったのだろう。その息は荒い。

「陛下、ご無事で」

「ありがとうアエティウス。助かったよ」

「これ以上、好きにはさせんぞ」

 剣を勢いよく振って、血を振り落とす。

「どこの馬の骨かは知らぬが・・・そなたたちもダルタロスの名くらいは聞いたことはあろう? それでも立ちはだかるか」

 だが、敵は仲間の死にも、そしてアエティウスの言葉にも怯むことなく、もう一度、有斗を取り囲むような半円を描いて無言のままじりじりと近づいてきた。

「それも覚悟の上か・・・戦で負けたことを謀略でひっくり返すのが関西の流儀と言うわけか。死んでから後悔しても遅いぞ?」

 新しく現れたアエティウスが強敵であることを悟ってか、敵は声を発せず、ゆっくりと再び半包囲しようとする。

「よかろう相手になってやる」

 ああ・・・カッコイイな、アエティウス。アエネアスじゃなくてもこれは惚れる。


 敵は目線を交わすと再び動き出す。

 一人がアエティウスの首元を狙い、横に切り払った。

 ギャリリリリリリリリリンンンン。

 からまるような金属音が響き渡った。寸でのところで剣で払い上げ、首を傾け受け流す。そして手首を返すと一歩踏み込んで剣を切り下ろし、またひとつ死体を増やした。


 おお・・・と有斗はうなる。有斗には何をしているか見えないくらい速い。

 さすがは武のダルタロス。ヒュベル戦でその一端は見せたけれども、采配だけでなく剣技も一級品だ。

 続いて襲い掛かった一人の剣を柄で受けると、手を交差させるようにねじり上げて剣を跳ね飛ばす。だがそれらは牽制、反対に位置する者が少し時間差をつけて有斗に襲い掛かった。その瞬間、アエティウスは有斗を左手で『どんっ!』と押し後方へ追いやり、敵の間合いから有斗を遠ざけた。

「若!」

 大きな声が西宮に響き渡った。

 あれはプロイティデスの声だ。喜びで有斗が顔を向けると、向こうから多数の胸甲を着た武者たちが走ってくるのが見えた。

 一際ひときわ大きな巨躯も見える。ベルビオだろう。

 普段はあのあらゆる意味で体育会系である彼らの暑苦しさに、少し辟易へきえきとする有斗だったが、こんな時にはありがたく感じるものである。人間って現金なものだ。しかしよかった。これで助かる。

 アエティウスだけでなくプロイティデスもベルビオも一騎当千の人物だ。負ける要素はない。有斗以外は。

 それに後続の兵たちも含めると人数でも逆転できたことになる。最初はどうなることかと思ったけど・・・よかった。本当によかった。

 ベルビオは両手に戟を持ち、左右交互に振り下ろす。

 大力のベルビオがふるうと、戟は戟でなくなり巨大な鉄の塊となって暗殺者たちに襲い掛かる。で心臓を突き刺し、ぼうで頭を叩き割った。

 ベルビオの大戟は一つ十五キログラムはある。一度持たしてもらったことがあるが、有斗では両手でもコントロールできない代物だった。それをベルビオは右手でも左手でも軽々とふるっている。

 その隙にプロイティデスが有斗の側に駆け寄り、アエティウスと共に壁を作った。

 しまった時間をかけすぎたか。バアルはほぞをかむ。

 だが王女殿下の身柄は確保した。これ以上望んでもしかたがない。

「退くぞ!」

 バアルのその言葉を合図に、セルウィリアを守るように囲んで退こうとする。

 王女を連れ去られたら厄介なことになる。追うか、と一瞬考えたが、有斗の側を離れないほうがいいだろう、とアエティウスは判断した。

 ならば・・・

「追え! ベルビオ! 王女は殺すなよ!」

 こういうことに向いているやつに任せるべきだろう。

 アエティウスの指名にベルビオは戟を手にして奮い立った。

「承知!!」

 ベルビオは体に名合わぬ素早さで、逃げる敵を追いかけた。その後に二十人ほどの羽林が続く。

 バアルたちは後ろから追っ手が掛かることは想定済みだった。一刻も早く王城の外に出なければいけない。当然元は自分たちの城だったのだ。彼らはどこをどのように行けば、敵の目から逃れて逃げることが出来るか知り尽くしていた。

 まずは一刻も早く西宮から抜け出すために、と南西の塀に到達する。

 塀の上に登った者と下の者が協力し、素早く、だけど確実に一人一人引き上げる。一瞬しり込みしたセルウィリアを急かし、バアルは壁の上に押し上げて、次は最後である自分が登ればとりあえず逃げ切れる、そう思った時だった。

 背後に熊のような巨大な何かが立った。それは塀に移る巨大な影でわかる。

 こんな時に後ろから襲い掛かられたら一たまりも無い。体をひねりつつ塀の上で座るような形で身構えた。

 だが、その影はバアルを襲わなかった。

「きゃっ!」

 王女のスカートのすそを掴むと、ベルビオは塀の上から王女の身を引きり下ろした。

「王女殿下!」

 バアルは慌てて壁の上から手を差し出そうとする。

 だがその手目掛けて巨大な戟が轟音を立てて襲い掛かった。

 バアルは手を引っ込めて間一髪避けえた。

 戟がぶつかった土壁は衝撃で瓦が落ち、しっくいが剥がれ、大きく削り取られる。その衝撃で、バアルは一瞬バランスを失いかけたほどだ。

 戻ってセルウィリアを助けるべきか一瞬迷う。だが、その視界にベルビオを追って来たと見える複数の羽林の姿が映る。それら全てを一人で片付けて、逃げきることができるだろうか。

 躊躇ちゅうちょするバアルにセルウィリアは首を振って、来ないようにと叫んだ。

「行って! バアル!! わたくしに構わずに!!」

「ちっ!」

 それではせっかくここまで追いかけてきたベルビオは面白くない。

 王女をバアルからさらに離すにも、髪の毛を掴んでわざと手荒に扱う。途端、バアルの四肢から怒りが噴出した。

 駄目、バアルをこちらに来させては駄目! きっと殺されてしまう・・・!

 このままではバアルは関東の者に捕らえられてしまう。関東の兵は今も次々とこちらに来ているのだ。早く彼を立ち去らせないと。

「行きなさい! 命令です!」

 セルウィリアが絶叫した。

 バアルは下唇を大きく噛み締めると、

「王女殿下・・・! 申し訳ございません!」

 と、一礼し壁の向こうへと飛び降り、消えた。

 ベルビオが塀の上によじ登った頃には彼らの姿は視界から消えうせていた。


 カチリ。

 血をぬぐい、アエティウスは剣を鞘におさめた。

 羽林は一体一体死体を探って何者なのか調べていた。端では王女について行きそびれた女官が二人、肩を寄せ合って震えていた。

「コイツらの目的はなんだ?」

 死体に深々と食い込んだベルビオの戟を引き抜いてプロイティデスはつぶやいた。

 目的は・・・あのお姫様の救出、そして有斗の誘拐か殺害といったところか。

 さすがにあのお姫様が無関係・・・と考えられるほど、有斗も馬鹿ではなかった。

 っていうか、絶対主犯は彼女しか考えられない。有斗をここまで誘ったのはお姫様だし、有斗が死んで一番利益を受けるのもどう考えても彼女だし。

「そこまでしてまで王座にしがみつきたいものなのかなぁ・・・」

 正直、最近の有斗は王様という椅子は座り心地のいいものではないと思っていた。

 始終廷臣の顔色を窺い、かと思えば廷臣を見張り、その一方で廷臣を疑う。顔色を窺うたびに、見張るたびに、疑うたびに、そう行動する自分の心のいやしさを感じて、たまらなく嫌だった。そう考えれば、あの退屈な学生生活のなんと幸せだったことか。

 そりゃあ少しは気を使ったりもしたさ。それに友達についてもここは好きだ、でもここは嫌い、とかその程度の感情のぶつかり合いはあった。でもみんなほとんどが素だった。

 少なくとも人を利用しようとか、人を失脚させようとか、人を暗殺しようだとか、そこまでのマイナス感情は持ち合わせなかった。

 王になるよりも学生のほうがどんなに気楽なことかと思うんだけどな。

「それはそうでしょう・・・誰だって王になりたいものです。しかもあの女は生まれついての王。自分が所有しているものを他人に取り上げられるのは誰だってしゃくでしょう」

 そんなものなのかな・・・

「・・・じゃあ僕の代わりに王になって、この世を平和にしてくれればよかったのに」

 それはなかば本音。有斗なんかより、この世界で生まれ、王としての教育を受けた彼女の方がよっぽど相応しいと思うんだ。

 それに・・・もし有斗が来る前にアメイジアが平和になってさえいれば、きっとセルノアは死ぬことはなかったのだから。

 でもその言葉にアエティウスは少し怒ったふうだった。

「冗談でもそんなことは言わないでいただきたい。陛下が言う『天下安寧』に全てをかけて、命がけで戦った私たちのために」

 そう、有斗がアメイジアを平和にする、その夢の為に大勢の兵が死んだのだ。現に目の前には有斗を守るため命を落とした五人の羽林の死んだ姿がある。

 彼らが命を失ったその夢が、束の間に口にしただけの気まぐれな紛い物だと知ったなら、死んでいった者たちは浮かばれはしない。

「ゴ・・・ゴメン」

「だから王が謝らないでいただきたい。王は過ちを悔いることはあっても謝ってはならない。教えましたよね?」

「う・・・うん」

 しょぼくれる有斗に笑いながら、気合を入れるように背中を軽く叩いた。

「本当にあの女にそういった理想の一端がありでもすれば、とうの昔に関東に兵を向けているはずですよ? あの女は女王という甘美な椅子が好きなだけで、王として背負う責任や義務などは興味がないのです」

 アエティウスはあのお姫様に対して、やけに辛辣しんらつだった。

「これからも頼みます。陛下」

「う・・・うん」

「陛下!」

 死体を確認していた羽林の一人が叫んだ。

「陛下、この男は見覚えがあります。たしか伯の一人です」

 有斗は伯の一人だと言うその男を見ようと顔を右後ろ側に向けた。


 女官二人は端でふるおびえていた。一人は目の前で起きた反乱劇に対する恐怖で、もう一人はおのれがするはずだった役目を失った慙愧ざんきで。

 ・・・計画が失敗したのだ。

 武器を用意し、関西の重臣むのうどもを結びつけ、その心をきつけ、反乱を起こさせたのは彼らだった。

 そしてあの方から頂いた彼女の役目は、王女に反乱を起こさせて関東の王を殺し、その後、近侍している彼女が、王女を殺すという計画だった。

 計画は狂った。ここまで総力をつぎ込んだのに。だが、まだ計画の全てが破綻したわけではない。

 王女は殺せなくても・・・・・・王がいるではないか。

 もしここで関西の侍女である彼女が関東の王を刺し殺したら・・・?

 それはきっと関西の王女が命じてやったと誰もが思うだろう。東西は再び争いあい、和平など消えうせるだろう。そうなれば乱世はますます混沌と化す。

 ならば、当初の計画に近いものになるのではないだろうか・・・?

「これも──────の御為」

 彼女はひとこと呟くと、床に落ちていた短剣をそっと拾ってたもとに隠し、ふらふらとおぼつかない足取りで歩き出した。


「うーん・・・こんな顔いたっけかなぁ・・・」

 伯の一人だというその男の顔を何度見ても、有斗には心当たりが無かった。

 と、突然、アエティウスの左手が有斗の左手を掴み、有斗を前に引き倒した。

 突然のことに有斗は左肩を下に落ちるように倒れる。その後、頭を強打しながら半回転して地面に仰向けに叩きつけられた。

「!!???」

 何が起こったかわからない有斗が目を開くと、さらにショッキングなものが飛び込んできた。

 王女と共に付いてここまで来ていた侍女が目の前に立っていた。その手には短剣が握られている。

「クソッ! 侍女まで反乱に加わっていたのか!?」

 プロイティデスが突進するが、この距離では・・・間に合わない。

 このままでは刺される、と思った。

 が、その侍女は胸部から血を噴出しながら横に倒れる。

 アエティウスが有斗を左手で引き倒すと同時に、右手で剣を鞘から振り抜いて、そのまま切り捨てたのだ。居合いなど、この世界にはないと思うのだが、それは居合い切りの要領だった。アエティウスの剣は一撃で肋骨を砕き、心肺に突き刺さった。


 だが・・・

「アエ・・・ティ?」

 有斗はそこで声に詰まった。

 有斗は前に引き倒された。それは有斗をアエティウスの背中へ隠すような動きだった。有斗が前に倒れるのと同じ力が真逆の方向に働き、アエティウスは前へつんのめるような動きになった。

 つまり先ほどまで有斗の体があったところにアエティウスの体が入れ替わりに入ったのだ。


 アエティウスの腹部には短剣が根元まで深く、深く刺さっていた。

 アエティウスはゆっくりと膝から崩れ落ちた。

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