第38話 求賢令

 アエネアスにつねられた横腹をさすりさすり、有斗を中書に向かった。

 まず中書省から訪ねると、ラッキーにもそこで執務中だったアリアボネを発見した。

「これは・・・陛下!」

 有斗が入ってくるのを見て諸官は一斉に拝跪はいきする。一人アリアボネだけは書類の山と格闘中で王が入ってきたことも、諸官が声をあげたことにも気付かない。すさまじい集中力だ。

 有斗は皆の仕事の邪魔をしないように、そっと近づくと声をかけた。

「アリアボネ」

 だがアリアボネは無反応だった。

「アリアボネ、アリアボネったら!」

 と肩を軽く叩く。それでようやく有斗の存在に気付き、顔を上げた。

「これは陛下、失礼をいたしました」

 アリアボネは慌てて席を立つと跪礼する。話をするために、有斗は両手を取って立ち上がらせた。

「ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

「あ、はい。どうぞ」

「確か南部では畿内を平定した後は、河北に攻め込むという話だったけれども、それは今すぐやるのかな?」

「まさか!」

 アリアボネは言下に否定した。

「まず朝廷という足元を固めてからです。河北に軍を向けようにも、朝廷はいまだ軌道に乗っていません。恐れながら朝臣は陛下に信服しておらず、政治の中心たる中書、尚書はいまだこの有様」

 アリアボネはここ数日格闘している、ちっとも片付けられない書類の山を指差した。

「そんな状態で王が動けば、いつ何時変事が起こるやも知れず、せっかく掴んだ畿内をも手放す状況になりかねません。まずは内を固めましょう」

 そう言って、河北の出兵はアリアボネに反対された。

「それなんだけど、もし軍が今すぐいらないのなら、南部諸候軍は解散して、南部に帰ってもらおうと思うんだけれども、どうかな? 彼等が毎日食べる食料を確保し輸送するだけでも一苦労だって、節部省(大蔵省)や武部省から文句が一杯来てるんだ。あと彼らも、最初こそ都が珍しくて見物などして回ったけれども、それも飽きたらしい。都の水が合わないのか、収穫の時期が近いからなのか、とにかく帰りたがってるしさ」

 南部諸侯は、腕がなまるだの、身体をもてあますだの、うるさいのだ。

 南部諸候あって、今の有斗があるから無碍むげにも出来ないし、困っていた。

「そうですね。維持費も馬鹿になりませんし、河北を攻める時は王師があれば十分ですし、長い間、南部を空にすると、河東のカヒ家の動向も気になります。帰ってもらってもかまわないと思います」

「アリアボネにそう言ってもらえてよかった。さっそく彼らを帰すことにしよう。きっと喜ぶ」

 有斗がそう喜ぶと、アリアボネは申し訳無さそうに悄然しょうぜんこうべを垂れる。

「申し訳ありません、陛下。本来ならばもっと早く私が気付くべきことでした。反省しております」

「反省なんてしてもらわなくっていいよ! アリアボネに中書、尚書を兼ねてもらうという前例のない激務を押し付けたのは僕なのだから」

「陛下も頑張らなくっちゃいけませんね!」

 アエネアスだけはひとり、重責など微塵も感じさせない能天気さだ。

「ありがたきお言葉。このアリアボネ一身を賭して、難局にあたる覚悟です」

「だけど・・・まだ中書侍郎以下の官は決まってないんだね」

 がらんとした室内を見回す。中書の下官はいるものの、次官以下、三等官、四等官までいないのだ。

 新法に有形無形の抵抗を示した、以前のことを思い出して全員首にしたんだけど、少しやりすぎたかな。

「官吏の中に適任者はいないかと探しているのですが、それがなかなかおりませんで苦労しております。それに質のいい官吏を移動させようにも、今、所属している官庁からの抵抗が強いですしね」

 まぁどこの部署だって有能な人材は手放したくないだろうしな・・・

「そっかあ・・・」

 となると新規に人を集めなきゃいけないんだろうな。ネットのバイトがいっぱい載ってるサイトに連絡を・・・って、ないよな。たぶんこの世界には職業を斡旋してくれるようなところさえない気がする。

 科挙・・・だったっけ。アリアボネが二番になったという試験。あれをしないといけないんだろうな。

「それで陛下にお願いがあるのですが・・・」

 人材募集について考え込んでいた有斗に、アリアボネが一つの提案を申し出た。


 この時代、人材登用としては科挙があり、長年多くの賢才を国家に供給していたが、科挙の勉強は家に金銭的な余裕がある家でもないと難しい上、賄賂やコネが横行し、上位の成績のものはさすがに実力があるが、中位以下の合格者は結構な数、成績の良い人物よりも縁故者が受かるのである。

 よって科挙合格者の質の低下は、この時代にははなはだしいものがあった。

 そういうわけで科挙の改革もアリアボネは考えていたが、たくさんある変革すべきことの中で、今直ぐに変えないといけないほど優先順位が高い問題ではなかった。

 それに、科挙は前年に全国に開催が布告され、地方である程度の選抜を行ってから、何度にも分けて一年がかりで行われる試験である。本来ならすでに今年布告され、来年行われるべきものではあるが、四師の乱でまったく予定が立てられていなかった。

 ということは科挙が行われるのは早くても二年後なのだ。だが今現在、朝廷は深刻な人手不足であった。

 四師の乱で新法派、旧法派とも多くの官吏の命が失われた。また羽林、中書、尚書などの一部の官吏は有斗の意向で地方官に配置換えだったり、首にした。

 すなわち宮廷には多くの空席があり、急いで今すぐにそれを埋める必要があった。

 アリアボネはこの朝臣が大量に不足する現状を好機として、金やコネが無いため、才があっても科挙に落ちていた者、もしくは科挙を受ける金銭的な余裕が無く地方官に甘んじた者などの有為の臣を朝廷に入れ、王が改革を実行する際にアリアボネの手足となって働いてもらう官吏を作っておきたかった。

 だから来年度の科挙の開催を布告すると同時に、ひとつの法律を布告した、求賢令である。


 求賢令。


 それはこの世界では前代未聞の法律であった。

 才能を重視し、家柄や過去にこだわらず官吏に抜擢する。たとえ前科があっても問題にしない。ただ才だけを求めるという法律。

 地方からは地方官を含む郷里の秀才を推薦させ、諸候にもその宮廷内で王宮に仕えるに相応しいものがいれば選び、それらを集め、王が実際に会い、意見書を読んで、人材を登用するというものだ。

 科挙では人柄や家柄も重要な採点項目であった。それは貧しい出自のものは、高官になると不正を働くのでは? という見解からだった。

 実際はそれを口実にして、公卿の子弟を優先して登用するための規定であった。

 当時は王朝設立に功があり、権力をも握っていた累代の貴族たちに配慮する必要があったので、入った一項と云われている。

 現実は三代に渡って公卿を出しているような家柄の者であっても、汚職を働くものは後を絶たなかったのであるが。


 一応、科挙受験者や既得権益を守りたい高官にも配慮し、朝廷でもあまり日の当たらない、非出世コースの官位の低い官職に就くことを前提に募集をした。

 都合のいいことに新法派が占めていたため、そういった官職は大量に欠員を生じていたのだ。それにそういった不人気ポストは、皆成りたがらなかった。だから求賢令自体には反対する官吏もいなかったのだ。

 だが一度宮廷に入れてしまえばこっちのものである。アリアボネは将来的にその中から良吏を選抜し、出世させ、ゆくゆくは国家を運営するに相応しい者として抜擢ばってきするつもりだった。

 その実施にはアリアボネが担当し、不正が入り込まないように配慮する。

 しかも最終試験は王自らが謁見するということまで決定するという力の入れようであった。

 全国に大々的に交付し、南部諸侯へと早馬を走らせた。


「しかし優秀な人材が来るかな?」

 アエティウスはそこに不安を感じる。確かに官を募集すれば人は来るだろうが、官に就いて財産を肥え太らせようとする三流の人材が多いのではないかという懸念だ。

「来ますよ。関東は長年兵火に会っていただけでなく、宮廷内でも政争が絶えず、腐敗もまた多い。それを嫌って心ある士は隠者となり、地方の片隅でひっそりと暮らしております。そういう人たちに国政に参画してもらう。それが狙いです」

「しかしなぁ・・・もしそういった人物が一人も来ず、ろくでもない愚者しか来なかった時はどうするのだ? 一人も採用者無しとかだと、ここまで大々的に発表した手前格好がつかないぞ」

「・・・合格者はいますよ。少なくとも二人はね」

 アリアボネがまだ一人も受験者を見ていないうちからそんなことを言い出したことにアエティウスは不審に思った。

「まだ一人も来ていないうちにか? いったい誰だ?」

「ダルタロスの家宰ベッソス殿と家司マザイオス殿」

 アエティウスは一瞬言葉を詰まらす。

「・・・確かに才能に文句のつけようはないが、その二人を持っていかれるのはダルタロスの家長としては辛いな」

 アエティウスが長期間本拠を留守にしても安心できるのはその二人がいるからだ。二人とも政務をやらせても、軍事に携わらせても、そつがない。得がたい人物である。

「そこをげてお願いいたします。天下国家のために是非にも」

 アリアボネはアエティウスに大きくお辞儀した。

「まぁ・・・一人も適正者がいない可能性もあることを考えると、出さないわけにはいかないか・・・」

 それに王朝内にダルタロスの息のかかったものを一人でも多く入れておくことはアエティウスにとっても先々、損な話ではない。

「わかった、直ぐに南京南海府に早馬を飛ばそう」

「ありがとう存じます」


 一ヵ月後、畿内と南部を中心に集まった受験者数は三百名を越えた。来年の科挙を受験するものは回避するであろうことを考えると集まったほうである。

 アリアボネの見るところ、有斗は偉大な賢君になる可能性を大いに秘めているが、王としてはまだまだ足らないところが多すぎる。

 世間の評判はアリアボネの見かたなど甘いほうで、もっと酷くて、反乱を起こされ政治能力に疑問符のつく王と見られている。四師の乱を乗り切ったことで武断の王としての評価は多少上がったが、それがかえって、文人たちを遠ざけかねない。

 つまり下級官吏の募集に三百名も集まった今回は、むしろ出来すぎであるとさえ言えよう。しかも少なくとも諸侯か地方官の推薦がある以上、この三百人は文章の読み書きや計算ができるという最低限のレベルを保っているはずだ。

「意外と集まったな」

 アエティウスはアリアボネの机の前にどん、と山のように積まれている推薦状を見て言った。

「ええ」

「ある程度ふるいにかけるとして、何人程度選ぶつもりか?」

「朝廷の欠員は甚だしく、有能な朝臣は少ない。その数少ない優秀な朝臣が集まっていたのが中書省と尚書省なのです。陛下はそれを全員地方へ飛ばしてしまわれた。陛下のお気持ちは理解しておりますが、私は中書と尚書、二つを一人で勤め上げる自信がない。中書や尚書は政治の中核、有能な人材が何人も集まってようやく動き出す。労咳ろうがいの女一人ではとても無理です。もちろん身命を賭して当たるつもりではおりますけれども。朝臣の中から何名かは選抜いたしましたが、まだまだ足りません。朝廷の中に中書や尚書が勤まるほどの人材はもう少ない、いや正直に言うといないのです。だから本当は全員採用したいと言いたいところですけど、私が欲しいと思える人材は五十人いれば良しとしなければならないでしょうね」

 もはや新法で企図していた冗官の整理云々という話では無くなっていた。

 内乱で良くも悪くも大勢の官吏が死んでしまった。どの官も絶対数が足らないのだ。

 それも本来ならば官僚になるレベル未満の人材も含めてだ。

「前途多難だな・・・」

「それは覚悟の上です」

 これからも無理難題はきっとアリアボネの上に降りかかってくるだろう。だけどアリアボネはめげなかった。

 やまいで一度何もかも失ってしまった彼女にとっては、何も無い無為の日々をただ過ごすだけよりも、いかに苦労があろうとも今の状況のほうが何倍もマシだった。

 王が自分を必要としている。自分が必要とされている場所がある。それだけで彼女は満足だったのだから。


 求賢令に集まって来た三百人には、まずは意見書を提出させることにした。受験者たちの文章力や見識を試したのだ。

 現在の関東の朝廷の抱える問題、戦国について、治世に対する見解など、いかなることでもいい、進言として実のあるであろうものを求めた。

 そんなある日、

「陛下。我が領内からベッソスとマザイオスが到着しました。是非お会いしていただきたい」

 アエティウスが有斗に挨拶するやいなや、そう言った。

「あ、来たの? 陛下会いましょうよ! 私も久しぶりだし、会いたいから!」

 アエネアスも賛成する。

「アエネアス、二人が来たのは遊びじゃないぞ。アリアボネの手助けをしてもらうためだ」

「あ、そうだった! ・・・陛下、二人とも有能なダルタロスの家臣です。宮廷でもきっと役に立つ働きをするに違いありません!」

 ああ、アリアボネがいつか言ってた人たちだな。求賢令で彼等のような有能な人が一人でも来てくれればいいとか言ってたな。


「どうぞ、お茶です」

 女官がいつになく丁寧な態度でお茶を出して回る。アエティウスの前でだけ特別ににこやかに笑ってみせる。それを見てアエネアスはむすっと嫉妬を顔に浮かばせる。これが最近の王の部屋での日常的な光景だ。

 最近、宮中の女官は王のお付きになることが何よりの望みだという。

 こういうといかにも有斗がもててるような書き方であるが、実際は当然違う。王の部屋に出入りするアエティウスがお目当てなのだ。

 アエティウスがこちらに来てからというもの、宮廷の女官たちは一目見るなり一斉に入れあげたのだ。姿がかっこよく、剣術も強い、ダルタロスという大豪族の長、王の信頼厚い腹心、しかも独身ときたら、宮中の女性が見過ごすはずが無かった。

 その分、有斗は内心『いいなぁ』とか思っていじけてしまう。

 有斗だって王様で独身なのだ。もうちょっともててもいい気がするんだけど。

 セルノアのことがあるから、手は出したりはしないけれどもさ。でもちょっとくらいチヤホヤされたい!

 あれか? これが有名な『ただしイケメンに限る』とかいうやつか!?


 まぁ、いい。とりあえず暇をもてあましていた有斗はアエティウスの願いを一も二も無く受け入れた。

 アエネアスはともかくアリアボネとアエティウスが認める人物だ。間違いがあるわけない!

「陛下に拝謁いたします。ベッソスと申します」

「マザイオスと申します」

 ベッソスという中年の男は、南部で何回か見た顔だった。有斗にとっては食事の手配や部屋の手配をやっていた人だ。もっともそれは彼の仕事のほんの一部ではあろうけれども。

 顔を伏せている二人を前に、横に控えていたアエティウスが彼らのことを有斗に説明した。

「この二人はダルタロスの家政を与っている辣腕らつわんの人物です。例えば今回ダルタロスの兵を集め、集結する諸侯の住まいの手配をし、兵糧を手配し、私たちが出兵した後のダルタロス家を大過なく守り抜いていたのは彼らがいたからです」

 それはなかなか有能な人材である。

「アリアボネとも面識があるんだって?」

「はい」

「ちょうど中書や尚書に人手が足らないところなんだ。アリアボネもきっと見知った君たちが手伝うほうがやりやすいだろう。よろしく頼むよ」

 それは好都合だとばかりに有斗はさっそく採用することに決めた。これでアリアボネの労苦も少しは削減されるだろう。翌日から彼等は中書に配属された。アエネアスの下で一刻も早く実務になれてもらうためだ。

 だがそのことはどういうわけか外部にれた。


 求賢令で集められた者たちは、一同に奨学館という建物に宿泊し、その間の宿や食事を保障されるという形になっていた。

「聞いたか?」

 南部から来たという小太りの男に、畿内出身だという一人の男が側に寄ると話しかけた。

「ああ、あの話だろ。ダルタロスから昨日来たばかりの者が、王に面会していきなり中書の官に任じられたというぞ」

 もはや奨学館にいる者でそれを知らないものはいなかった。

 二、三人集まるとすぐにその話題になった。

「我らの中にはもう二十日以上も前に来た者だっている。意見書もすでに提出したと言うのに、なしのつぶてだ」

 二人の会話に割って入るように次々と受験者たちが集まって来た。

「異世界から来た王だと言うから、少しは期待して来てみれば、縁故採用とは・・・今までの愚昧な王とどこが違う?」

 最初にこの話を始めた、畿内出身だという男が立ち上がり皆をきつけた。

「所詮は反乱を起こされるだけのことはあったということさ。この分だと失政してまた反乱でも起きるに違いない。巻き込まれるのはゴメンだ。帰るとするか」

「そうだな。ここにいる意味は無くなったしな。一刻も早く立ち去ることにしよう」

「そうだそうだ」

 一斉に賛同の声をあげる。

 そして彼らは荷物を手に持つと、立ち去ろうと奨学館の出口へと向かった。

 それを見て、奨学館で彼らの接待を仰せつかっていた役人が、急遽彼らを引き止めようと前に立ち塞がった。

「お待ちを。一寸お待ちを!」

 大きく手を広げて、出て行こうとする人々を必死で食い止めようとする。

「せっかく試験の為に遠方から来られたというのに、何ゆえ諸兄らはここを出て行こうというのですか? せめて試験だけでも受けていかれてからでも遅くはないのでは?」

 このまま彼らがここから立ち去ると、新政権にとって大打撃だ。求賢令という前代未聞の法令を出して、各地から賢人を集めたのに、試験の前に王に失望して全員出て行ったということになれば、とりかえしのつかない失点になるだろう。王はアメイジア中の笑いものになるだろう。

 それに四師の乱はまだ一度目の失政だから、という言訳が使えたが、さすがに二度目の失敗は言訳のしようがない。

 アメイジアの住人は全て、有斗のことを政治手腕の無い王、いや違う、王失格の人間としてみることだろう。

「仕えるに値しない王だからだ!」

 一人の受験者が吐き捨てるように言葉をぶつけた。

「何があったか知らないが、陛下は素晴らしいお方です。それは諸兄らの勘違いというものだ」

「ならば何ゆえ、昨日来たばかりのダルタロスの二人は直ぐに謁見でき。我々はできないのだ?」

「それは・・・色々と事情がございまして・・・」

 何が事情だ、と受験者たちは食って掛かる。

「しかも、その二人はすでに中書省で働いていると言うではないか。試験など見せ掛けのまやかしで、試験の前に縁故あるものが既に合格すると決まっているのでは? 我らのような頼る術の無い貧乏学生は、はなから相手になどしていないのだろう」

「我々は公平に試験をしたと世間に見せかけるための空クジにすぎぬのだろうよ」

「もう帰ると決めたのだ。ここまで馬鹿にされてまで残る者などどこにいるというのだ? 邪魔をするな」

 役人の肩を突き飛ばすように押して、出口の門戸を開く。だがその役人はすぐにしがみつき、なんとか彼らが出て行くのを止める。

「すぐに・・・! すぐに陛下に話を通しますので、なにとぞ、なにとぞお留まりください! それまでの間、暫時ざんじお待ちを!」

 出て行こうとする彼らを何とかなだめると、王に事態を告げるべくその役人は奔走ほんそうした。

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