第10話 雨降り続く夜、彼女の涙。

 門から出たのだから一息入れるかと思えば、それでも安心できないのか大多数の民たちは更に街道を歩いていく。

 しかしそれに紛れることができたので、時折、馬で王城へと駆けて行く兵士たちに有斗たちは見咎みとがめられなかった。やがて荷物を抱えた民たちは高台まで辿り着く。そこでようやく一息つく気になったのか皆一様に腰を下ろし、何が起こったのだろうと振り返り、煙のあがる王都を呆然ぼうぜんと眺めていた。

 鈴なりに連なって逃げてくる民があげる土煙で、くすんで見える王城は、煙に混じり炎がチロチロと赤い舌をのぞかせていた。

「燃えてる・・・」

 アリスディア達は大丈夫だろうか?

 身代わりをしてくれたあの掌侍ないしのじょうはまだ逃げているのだろうか?

 無事だといいんだけど・・・

「陛下」

 燃える王城を目に有斗がそんなことを考えていると、

「ここで立ち止まっている場合ではございません」とセルノアが有斗の袖を引っ張った。

 まったくセルノアの言うとおりだった。一刻でも早く、少しでも遠くに逃げ延びないといけない。

「セルノア・・・南部っていうからには南に行ったらいいのかな?」

 太陽の位置からおおよその方角を割り出してセルノアに訊ねる。

 ええ、と有斗の質問にセルノアは目の前の街道を真っ直ぐ指差した。

「この南海道は王都と南京とを繋ぐ主要街道です。ですから脇にそれることなく、この道を真っ直ぐ行けば、やがて南京に辿たどり着くことができます」

 ならばここを進むのかと思いきや、セルノアは少し先に見える分岐を指差した。

「だけれども、しばらくはカテリナ街道と呼ばれる南海道の脇街道を歩きましょう。南海道は封鎖される危険性がありますし、ご覧の通り、歩くのもままならないほど混み合っています。山道を行くことにはなりますが、歩く距離も短くなりますし、カテリナ街道へ行きましょう」

 そう言って混み合っている南海道から分かれている幅四メートルほどの脇道へ足を向けた。

 夕刻、街道沿いに建物が固まってある集落についた。この辺りの村落の中心なのだろう、小さいながらも店舗が立ち並んでいた。

 荷車に荷物をたくさん積んでいた身なりのよい人たちが次々入っていくあれは宿屋だろうか。

 そしてさいの目を転がす音とどっとあがる歓声、そんな喧騒けんそうとともに独特の匂いが流れてくるあれは酒場だろう。

 その他にも衣装が並んだ服屋、ずらりと小物入れを並べている小間物屋、道端に荷物を広げて売る行商人。王都から逃れてきた人で賑わっていた。

 丸半日歩き詰めだから足先がしびれてきた、ということで有斗はセルノアと供に宿屋を探し、なんとか狭いながらも部屋を確保することができた。


 有斗が足を伸ばしてだらっとしているとセルノアが戻ってきた。

「あれ・・・セルノア。服はどうしたの?」

 セルノアは先ほどまでのきらびやかな典侍ないしのすけとしての衣装ではなく、地味なつぎの当たったような古めかしい衣装に着替えていた。

「あの衣装は目立ちます。明らかに訳ありに見えますし、不審に思われます。そうでなくてもあんな格好でこの先移動すれば金銭目的で襲われないとはかぎりません。できるだけ地味に、流民にまぎれて南部へ向かいましょう!」と言い、有斗に古着を渡した。

 有斗は衝立ついたてに隠れると今まで着ていた官服を脱ぎ捨て、セルノアに渡された衣装に着替えた。

 だいぶ痛んでいる着物だな・・・でも確かにこの方がいいかもしれない。

 さっきまで着ていた官服は宮廷では当たり前の服なんだけど、庶民の服に比べて色も鮮やかだし、つぎだとか穴だとかないし、王服ほどではないけど、確かに目立つ。この難民の中にいて、正直、有斗達は少し浮いた存在になっていた。誰も話しかけてこないし、たまにチラチラとこちらに視線を向ける者がいるくらい浮いていた。このままだと怪しまれて通報されるかもしれない。

 有斗が脱いだ服をセルノアは汚れを払うと綺麗に畳んだ。

「これも売ってまいります。路銀は少しでもあったほうがなにかと便利ですし」

 と言って再び外へ出ていった。

 ・・・そうだよな。南部まで何日歩かなきゃいけないのか知らないが、セルノアの話を聞いた限りでは少なくとも今日明日辿り着くような距離じゃないだろう。お金は必要だよな。

 それに自分が買った服じゃないから有斗には愛着もないし、売るのは全然かまわない。

 ・・・ただ今着ているこの服、ちょっと臭うんだけど・・・まいったな。


 初日、セルノアと宿に泊まった有斗は、窓からのぞき込むかのように朝早く昇ってくる太陽に顔を照らされて目が覚めた。

 セルノアが既に井戸まで水を汲みに行ってくれていた。その水をありがたく一杯のみ、手水ちょうずで顔を洗うと朝食を取る。

 宿が用意した朝食は御飯と汁物、それに大根だかカブだかの漬物だけの質素なものだったが、この際文句は言えない。

 とりあえず叛徒の手を逃れ、南部で助けを求めるまでは命を落とさないことを第一に考えるしかない。

 宿を出、カテリナ街道を南へと足を進めた。南から吹き付けてくる風が頬を撫で心地よい。

 昨日は反乱騒ぎで混雑していたカテリナ街道だったが、既に人気は少なくなっていた。

 ああいった反乱騒ぎは、兵士たちが混乱に紛れて襲い掛かってきたり、財貨を奪ってきたりすることが危険なだけで、一旦事態が収拾し誰かの支配下に戻れば安全になる、陛下が来る前もたびたびそういったことがあったので、王都の住民も手馴れているものですよ、とはセルノアの談。

 それでも気になる。王都はどうなったのだろうか?

 有斗の世話をしていた女官たちは? アリスディアや有斗の身代わりとなったあの背の高い掌侍ないしのじょうは? 新法派のみんなは逃げれただろうか・・・?

 有斗がそんなことを考えていると、セルノアはついと近づき、周りに聞かれれぬよう小声で、

「元気をだしてください。このセルノアがきっと無事に陛下を南部までお連れいたしますから」

 と、言った。

 表情に出ていたのかな、セルノアに余計な気遣いをさせてしまったようだ。

 セルノアには苦労をかけっぱなしだ。有斗に出来ることは限りなく少ないけれども、せめてこういったことでセルノアに心労をかけないようにしなくっちゃ。

 有斗は空元気を出して明るく前向きな話題でセルノアに語りかけた。

「ところでセルノア、南部に行くって決めたけど、行ってからどうすればいいのかな?」

「南部の諸侯を頼ってみるのです。きっと陛下を援けてくれるはずです!」

「南部の諸侯なら誰でもいいのかな?」

 といっても有斗は南部の諸候を一人も知らないのだが。

「あっ!」

 突然、セルノアが叫んだ。

「思いつきましたよ陛下! あそこなど良いかもしれません。ダルタロス家とか!」

「ダルタロス家・・・?」

 聞いたことが無いが南部の諸侯なんだろうな。

「そうですよ! 南部屈指の大貴族です。あそこならば朝廷に簡単に屈することなどありません! しかも陛下の即位にあたってお祝いを送ってきた数少ない諸侯のひとつです。勤皇きんのうの家風を持つ家ですし、まずはそこへいってみましょう!」

「ダルタロス・・・か・・・」

 この世界のことを数ヶ月経っても、まだ全然知らない有斗にとってはセルノアの知識が頼りだ。

 有斗の即位を祝ったというなら、今はともかくその時点では敵ではなかったということだ。訪れてみる価値はある。

 他の諸候のこともよく知らないし、とりあえずセルノアの言葉を頼りにしてダルタロス家とやらを訪れてみるか。


 カテリナ街道をセルノアと二人で南下した道途中、気付いたことがある。

 街道沿いだというのに広がるのは荒廃した土地、そして街道で出会う人の多くは商人でも兵士でもなく、荷物を抱えた流民の群れだった。斜めに傾いた廃墟、完全に荒廃した村。その周りには壊れて途切れ途切れになった水路や畦道があり、そこがかつて豊かな田圃だったであろうことを示していた。

「セルノア・・・」

「はい。なんでしょうか?」

「今日でこの街道を行くのは三日目だけれども・・・壊れた家、無人になった村ばかりだね。ここら辺は大きな戦争でもあったの?」

 有斗の質問にセルノアは意外なことを聞いたかのように真顔で有斗を振り返った。

 え? 今の質問どこかおかしい点ってあった?

「・・・街道と言うのは人が素早く移動するためのものです」

 ・・・いやそれは有斗でも知っている。いや小学生でも知ってることだ。

「当然軍隊が移動するのにも使われます。敵味方問わずにです。つまり軍隊がぶつかり戦が起きるのは街道沿いなのです。それにその場で戦が起きなくても、軍が通るということは略奪や暴行が起きる可能性があるということです。ですから戦国が長びくにつれ、街道沿いの村は荒廃していったのです。今や農民たちは街道から離れた村に住んでいるのですよ。もちろん城壁のある大きな町なんかは別ですけど」

 なるほどそれなら街道沿いは荒れ果てる一方だな。納得した。


「それにしても・・・荷物を抱えて、彼等はどこに行こうとしているんだろう?」

 少しの荷物なら反乱の混乱の中、逃げ戻っていると考えられないこともないけど、中には鍋や着替えを・・・いや着替えというより所持している服を全部かついでいるんじゃないかというくらい、何個もの風呂敷に服を詰めて運んでいる人もいる。

「・・・どこにも目的はありません。強いて言えば自分たちを喜んで受け入れてくれるような豊かな土地でしょうが・・・そんな土地はこのアメイジアにはありません」

「・・・元いた土地に帰ろうとしないの?」

 セルノアは首を横に振った。

「生まれた村を焼きだされたとか、領主の過酷な搾取さくしゅに耐えかねて逃げ出してきたとかなのです。決して戻ることはございますまい」

 それじゃあ彼等はこれからどうやって生きていくんだ?

「彼等は・・・これからどうなるの?」

「さぁ・・・当てのない旅ですから・・・うまくすればどこぞで人に雇われることもございましょうが・・・恐らくはどこかで野垂れ死ぬだけかと」

「そんな・・・」

 過酷な現実に有斗が愕然がくぜんとしていると、そんな難民の中をフラフラと危うい足取りで歩いていた幼い少女が突然倒れた。

 体調が悪いのか青い顔をし、小さく痙攣けいれんしていた。

 しかし誰ひとり倒れた少女に近寄ろうとしない。いやそれどころか視線を向けるものすらいない。

 そんな・・・人一人が死ぬかもしれないのに・・・何故?

「助けなきゃ・・・」

 その子に近づこうと一歩足を踏み出す有斗の腕をセルノアが掴んだ。

「おやめください陛下」

「そんな! 目の前で人が死にそうなんだよ! 助けないと!」

 有斗はセルノアの手を振りほどいて倒れている少女に駆け寄る。

 手を口元にかざす。少女は消え去りそうなほど微かな息ではあったがまだ呼吸をしていた。

 よかった生きている。疲れか空腹か熱射病で倒れただけなのだろう。

 竹筒をその口に当ててゆっくり水を流し込んだ。

「・・・う」

「大丈夫かい? 意識はある?」

「・・・はい・・・」

 少女は消え入りそうな声で有斗の問いに答えた。

「・・・炎天に当てられたようですね。しばらく木陰で休憩したら治るでしょう」

 いつのまにか背後に来ていたセルノアが少女の顔をのぞき込んでそう言った。


 日陰に連れて行き、水を飲ませて横にすると少女は幾分、元気を取り戻したようであった。

 親とはぐれてしまい御飯も水も補給できず、この暑さの中を歩いていたらしい。それは熱中症にもなる。

「一緒に連れて行こう」

 そう言った有斗にセルノアは険しい顔をして顔を横に振り拒否した。

「陛下、今がどんな時だか本当にわかっておいでですか?」

「でも・・・」

「私たちは追っ手に追われているかもしれないのです。子供の彼女と一緒に歩けば一日に進める距離が短くなり追いつかれます。それにもし刺客が襲ってきたら彼女まで守れますか? 私たち二人でも難しいのに。彼女のことを考えるのなら、むしろ同行させないほうがいい」

 そう言われるとそうだ。有斗等は命を狙われているんだった、有斗等に関わったばかりに命を落とすことだってあるかもしれない。

 一緒に旅をするのはやめたほうがいいか・・・

「そうだ! 当座の食料を上げようよ! 王都に行けば彼女だってなんとかなるかもしれない! 三日分の食料を渡すのは?」

「・・・今、持っているのは私たちの明日までの食べ物です。それにこの先、彼女と同じような難民に出会ったら、その全てに食事を渡すのですか? そんな余裕はとてもありません。陛下ここは我慢なさってください」

「でも・・・このままじゃ・・・明日にもまた倒れてしまうよ」

「陛下。今の私達には他人を助ける余裕などありません。新法の理念のひとつは難民救済だったのです。もし新法が順調にいっていたら彼女らのような人にも、差し出す手はあったのでしょうが・・・」

 今の自分たちではなんともできないとセルノアの目は暗に言っていた。

「それに今の彼女を助けたとしてどうします? この先何十何百人と出会うであろう彼女のような行き倒れを全て同じようにして救うおつもりですか? それをすれば陛下の心は満足なさるでしょうが、根本的な解決にはなっていないのでは? アメイジアではこのような者達はあらゆるところにいるのですよ。陛下が目の前で困窮こんきゅうしている者だけを助けるというような、狭い範囲で物事をお考えなさらぬようお願いいたします。本当に・・・あの者たちを助けたいとお思いなら、難民となって流浪する全ての民草を救いたいとお思いなら、一刻も早く南部へ赴き、南部の力を借りて叛徒を討ち滅ぼし、権を手にして正しきまつりごとを行ってください。それは陛下が取るべき道、そして陛下だけが取れる道なのです」

 そうか・・・この世界では行き倒れも難民も当たり前のようにどこにでもいるんだな・・・だから目の前で人が倒れているのに、誰一人助けようとしないんだ。

 そしてセルノアの言葉は正しい。目の前で困ってる人だけを助けるだけでなく、今目の前にいない同じように困っている人たちをも助けなければいけない。

 そして・・・それは王であった有斗ならできたことだったのだ。今の反乱を起こされた有斗にはできないことだけれども。


 でも・・・・・・セルノアの言葉は正しいとしてもだ、目の前で困っている人を見過ごすのは人としてやっちゃいけないと思う。それが命に関わることならなおさらだ。

「これを上げる。元気でね」

 有斗は有斗が所持していた食料を全て彼女に渡した。

「・・・!」

 セルノアがきつい目で有斗をにらみつけていた。

 少女は袋を開いて、中身が何かわかると驚いて、有斗を見上げにっこりと笑いかけた。

「・・・ありがとう」

 有斗の心に訴えかける何かを持った、心に染みとおる笑みだった。

 少女と別れて旅路を再開する。しばらくセルノアは口も聞いてくれなかった。

「今日明日一日、僕が我慢するから・・・ね?」

 そう言って謝った有斗にセルノアは大きく溜め息をついた。

「陛下を飢え死にさせるわけにはいけません・・・わかりました。なんとかします」

「ごめんね」

 よかった。やっと機嫌を直してくれたみたい。

 有斗はあの明るく温厚なセルノアが何故そこまで怒ったのかを深く考えなかった。ただ、明日の食事が少なくなることを少しばかり覚悟しただけだった。


 その後も旅は続いた。

 南部に近づくにつれ王都の周りと違い、流民と出会う頻度ひんどは減っていった。

「南部は東国や河北と違い最近は大きな戦乱がないので流民が少ないのです」

 かわりに鎧を着込んだ少人数の荒くれ者たちとすれ違うことが増えた。ただ軍人が持っている規律や秩序といったものが見られなかった。セルノアをジロジロと値踏みするようないやらしい目つきで見ていることが気に障った。

「あれは傭兵ですね。戦があると嗅ぎつけて集まってきたのでしょう。王都で反乱が起きましたからね。当然一波乱あると踏んで集まっているのでしょう」

 有斗が嫌そうに傭兵を見ているのに気付いて、セルノアは小声で「気の荒い連中です。目を合わせずに無視して進みましょう」と言った。

 しばらく進むと、珍しく街道沿いに集落があった。宿も酒場もあるくらいには大きな集落だった。街道沿いにあるということは、ここら辺りは戦に巻き込まれなかったのか、それとも治安がいいのか。魚の焼ける美味しそうな煙、酒を酌み交わす杯のたてる音、その中で遊女っぽい女がしなをつくっては旅人の袖を引っ張っていた。

 今日はここで一拍するのかなと思ったけれども、まだ陽も高いし、もう少し進みましょう、とセルノアが言うので有斗たちはそこを素通りした。

 目の前に険しそうな山脈が近づいてきた。畿内を東西に広がる黒石山脈、その日笠山と月笠山の間を通る黒石越えという難所らしい。山に近づいたせいか大気は湿気を帯び、小降りながら雨が少し降ってきた。

 これから峠を登るにはきついな・・・

 そう思った有斗だったが、セルノアも同じ思いなのか「雨も降ってまいりましたし、ここまでにしましょうか」と言った。

 ちょうどいいことに廃屋があったので、そこに寝泊りすることにする。屋根も腐って大分落ちてはいたが、それでも多少の雨風が凌げる。

「・・・陛下」

「ん? 何?」

「ちょっと先ほどの集落で明日以降の食べ物を仕入れてきます。通るついでに買ってくればよかったんですけど、うっかりしちゃって」

「じゃあ僕も着いていくよ」

「いえいえ、陛下にそんなことはさせられません。ここでお待ちください」

 でもなぁ・・・一人で待ってるのも退屈なんだけどなぁ・・・と思うんだけれども、今日は何故かセルノアが頑強に有斗を押しとどめた。

「・・・絶対にここで待っていてくださいね」

「?」

 有斗がセルノアを置いてどこにも行くわけないじゃないか・・・変なセルノア。


 日が落ちてもセルノアは戻ってこなかった。

 迷子になってるのかな? 変な事件に巻き込まれていなければいいんだけど・・・やっぱり・・・一緒に行くべきだったかな?

 うとうとと壁にもたれかかって休んでいる間に有斗は寝てしまっていたらしい。

 何かが身体にかかるのを感じて目を開けた。

 目を開けるとセルノアが有斗に毛布をかぶせようとしていた。

「すみません、起こしてしまいましたか」

 天上には雨雲の中に月が見える。結構な時間を寝ちゃっていたみたいだ。

「毛布・・・?」

「もう少し旅は続きますし、奮発して買っちゃいました!」

「そうなんだ。あれ・・・でもセルノアの分は?」

 見渡す限りこれしかないようだけれども。

「私はいいんです。陛下がお風邪を引かないようにって買ってきましたから!」

「でも・・・僕だけじゃ悪いよ」

「そのお言葉だけで結構です。陛下は大事なお体なのです。遠慮なく使ってくださいね」

 有斗だけということに抵抗はあったけど、セルノアの好意を無にするのも悪い気がする。

「ありがとう」

 有斗はセルノアにお礼を言った。


 しかし・・・さっきから気になることがある。

「なんだろ・・・この臭い」

 なんだろう・・・変な臭いがする。汗臭いというか・・・おっさんの臭いがする。毛布かな? と思い、有斗は臭いをかぐ。いや・・・違うな。まさか・・・自身の臭いじゃないだろうな。そんな臭かったっけ!? 慌てて有斗は自分の汗臭い服を嗅いでみた。違う。まぁこの服も大概臭いんだけど、ちょっと違う。

 有斗が臭いを気にしているのを見たセルノアは「え・・・あ? 臭います? やっぱり身体を洗わないとだめかな?」と言って、自分の腕を犬のようにクンクンと嗅いでいた。

「うわっ・・・ほんとだ。やだ移っちゃってますね。水を探して洗ってきます!」

 移る・・・?

 なぜ他人の臭いがセルノアにうつる・・・?

 それにこれはおっさんの臭いと言うよりも・・・その・・・男の・・・臭いだ。

 そう考えつくと同時にぎょっとした。

 最近宿場町をパスして野宿することが多い。それに・・・セルノアは最近あまり食べなかった。

「食欲が湧かなくって」とセルノアは言うけれども・・・それが同一の理由によるものだとしたら・・・答えはどうなる?

 さらには毛布にこの食料だ・・・どこからそれを買う金が出てきたんだ?

 答えは・・・有斗にでも想像できる。

「まさかセルノア・・・身体を売って・・・?」

 二人の間を沈黙が覆った。

 セルノアはひとつ溜め息をつくと、「・・・気付いちゃいましたか」とまるでなんでもないことのように軽い口調で言った。

「・・・」

「臭いでばれちゃうなんて・・・もう最悪ですね」

「なぜそんなことをした!」

 有斗の剣幕にセルノアが目を丸くする。

「ひょっとして・・・怒ってます陛下?」

「・・・いや、怒ってないよ」

 確かに怒りは感じている。でもこれはセルノアにぶつけるべきものか、自分にぶつけるべきものなのか、有斗には分からなかった。たぶん・・・どちらでもない。

「でも、なんでこんなことを!?」

「ほんとは食料を買える程度でよかったんですけれども、なんか集団で来ちゃって・・・」

 セルノアは有斗の前だからか明らかにわざと明るく振るまっている。

 そんな・・・それはこんな世界だから、貞操観念ていそうかんねんとか性に対する認識とか、有斗のいた世界と違うかもしれないけれども、でもセルノアみたいな少女が、名も知らぬ男に身体を喜んで差し出したなどと納得できるほど、有斗は馬鹿じゃない。

「その分、お代はきっちり人数分貰いましたけど」

「セルノア・・・平気なの?」

「そりゃあ、ちょっとは嫌でしたよ」

 セルノアはおどけて唇をとがらせる。

「幸いにして私は処女じゃありませんし、そう惜しむものでもございません。それに陛下を飢え死にさすわけには参りません! だからへっちゃらです!」

 その言葉で有斗はやっと気付いた。

 セルノアが身体を売ったのは有斗の為なのだ。

 有斗が飢え死にしないよう、有斗が旅で苦労しないよう彼女なりに考えたあげくの行動なのだ。

 臣下は王の顔色を見て動く。有斗が命令しなくても有斗の為によかれと思って行動するもの・・・

 そうだ。そうだったのだ。

 有斗が王であるばっかりに・・・セルノアにこんなことまで・・・!

「ごめん・・・」

 有斗は深く考えず食料を女の子にあげた。セルノアが何故あんなに怒ったのか考えもせずに・・・少なくともセルノアに理由を聞いてみるべきだったのだ。

 あの混乱の中、逃げ出したのだ。お金なんて持ち出す時間もなかった。自然、着物を売ったお金だけで有斗たちは旅をしていることに気付くべきだった。

 そう、食べ物もお金も無尽に湧いてくるわけではないのに、目の前のことに対する正義感で容易く大事な物を他人にあげて、一人だけ満足しいい気になっていたなんて・・・!

 そのせいでセルノアは・・・セルノアは・・・

 セルノアにこんなことまでさせなければ旅も出来なくなっていたことに有斗は気付かなきゃいけなかったんだ。

 有斗は泣いていた。

 セルノアに対する申し訳無いという感情と、自分の馬鹿さに対する呆れとで涙が止まらなかった。

「何故泣かれるのです。陛下。何か私が間違っておりましたでしょうか?」

 間違っているとか間違っていないとか、そういった問題じゃない。

 ただ自分の不甲斐無さに腹が立っていた。

 僕は好きな女の子一人を守ることすら出来ない駄目な男なんだ、と有斗は自責の念に駆られていた。

「ごめん・・・セルノア・・・」

 有斗は今この瞬間まで『自分が王様である』とか『反乱を起こされた』とか『南部へ逃亡中』とかを自分のこととして実感していなかったのだ。

 まるでゲームのイベントでもあるかのようにそのことを軽く見ていたのだ。

 セルノアやアリスディアと仲良くなれるからラッキーだくらいに思っていたのだ。彼女等は記号で表されるようなアニメのキャラじゃない。主人公に都合のよいように動くゲームのコマなんかじゃない。生身の一人の女の子なんだ。

「こんなことまでしなければいけないと、セルノアに思わせたのは僕の責任だ。本当にゴメン・・・」

 僕が・・・僕が今どういう状態なのか理解していなかったのが悪かったのだ。

「いいんです私の身体なんかより、陛下のほうが大事なのですから」

 有斗が泣いていることにセルノアは戸惑っていた。

 王であるべき人が、寵姫ちょうきでもない、後宮の一女官の身のことで泣いている理由が分からないのだ。

「謝られると私・・・その、辛くなります」

 その一瞬だけセルノアは本当に悲しげだった。

 でもすぐに気鬱きうつな表情を消し、なにごともなかったかのように笑みを浮かべる。

「・・・こうなっちゃった以上、私のような女が以前と変わらず陛下に近侍することは無理だと思いますけれども・・・でもこれでいいんです。陛下の為になることですから」

「そんな! 僕はセルノアに側にいて欲しい! セルノアがいないとダメなんだ!」

 セルノアが側にいてくれたから有斗は王としてやっていけた。

 日常の生活から、新法派の推挙、そしてこの逃亡中の旅の全て。

「いいえ。私の代わりなど直に見つかりますよ。天与の人である陛下とは違います」

 悲しそうにうつむくと頭を振って否定した。

「それで・・・それでセルノアは平気なの・・・?」

「陛下にお使え出来ないのは残念ですけれども・・・でも思い出があるから平気です。だって私の初めての人は陛下です。そんな幸せな女は内侍司ないしのつかさでも私だけなのですから」

 有斗は思わずセルノアをありったけの力で強くこの手で抱きしめた。

「ごめん・・・知らなかったとはいえ、僕は君を辛い目に会わせていた」

 なんて言って詫びればいいのだろう? どうやって謝ればいいのだろう?

「そんな・・・陛下に泣かれたら、私・・・」

 セルノアもいつのまにか泣いていた。

 そうだ・・・平気なわけないじゃないか。セルノアは普通の女の子なんだから。好きでもない男に身体を委ねて平気なわけがない。

 それでも・・・それでも僕のためにと思って・・・!

 僕のせいでこんなに傷ついてしまった心をどうすれば癒せる?

 どうすれば僕は許してもらえる?

 有斗はセルノアを強く強く抱きしめた。


 二人、泣きながらずっと抱き合っていた。

「しっ!」

 突然、セルノアが唇に人差し指を当て有斗にだまるように指示した。

 小雨ふる街道にぼんやりと明かりが二つ三つ現れ、かすかに話し声が聞こえ人の気配が近づいてきた。

 廃屋の壁にある隙間から外を窺う。街道に見えるのは明かりを持った鎧姿。一瞬、叛徒の追っ手かと肝を冷やしたが、どうもその口ぶり、身なりからして王師であるとは思えなかった。

「本当にこっちに行ったのかよ」

「間違いないですよ。信じてください、兄貴」

 どうやら昼間見た傭兵みたいだ。

 安堵した有斗だったが、やがて聞こえてくる彼等の会話に呼吸が止まるほど衝撃を受けた。

「しかし、ありゃあ上玉だったなぁ」

「あんなの都に行っても、そうはいませんぜ」

「しかも見かけによらず淫乱だったよな、俺にしがみついてヒイヒイ可愛い声で鳴いていやがった」

「兄貴の可愛がり方が上手すぎたんですよ」

「ちげぇねえ」

 と一斉に下品な声で笑った。

「食料とかをあれほど買い込むところを見ると仲間がいる」

「俺が思うに・・・着ているものはボロだったが話し方といい、まったく荒れていない指先の美しさといい、あれは・・・反乱騒ぎで王都から逃げ出してきた訳ありの女に違いない」

「もし高貴な出ならば、礼金もたんまりいただけるって寸法ですね」

「まぁそうでなくてもかまいやしねぇ。あれほどの上玉だ。きっと高く売れる」

「まぁ売る前にたっぷりと可愛がってやらねぇとな。たっぷりと」

 再び下品な笑い声が上がった。


 有斗の横でセルノアは真っ青な顔をしていた。

 いくらすでに話したこととはいえ、細かい描写まで入れられておとしめられるのは、・・・それは彼女にとって屈辱的なことだろう。

「セルノア・・・」

 堅く口を噛み締めていたセルノアだったが、

「えへへ、私って最低ですね」

 と茶化すようにえへへと笑った。

「そんな・・・よりによって何故あんなやつらと・・・?」

「金回りの良さそうな傭兵でしたし・・・町と違い普通の村落では金持ちなどいませんし・・・選べる選択肢がなかったのです」

 彼等は有斗等が潜んでいる廃屋を横目にさらに先に進もうとしていた。

 よし、このまま過ぎ去ってくれ。有斗は小さな声で願った。

「しかし、そろそろ追いつくはずなんだが・・・」

「そうですね。夜にあの峠を越えるのは至難の業でさあ」

 一人が山を指差すと、皆一様にその巨大な影を見上げた。

「峠の入り口まで行ったら戻るしかねぇな」

「そんな・・・あれだけの上玉ですぜ。諦めるにはちと早くありませんか?」

「馬鹿野郎、誰が諦めるって言ったんだよ」

「え、でもさっき・・・」

「そこからは帰りながら調べるんだよ」

「調べるって何を?」

「そうだなぁ・・・例えば洞窟とか廃屋とか木下とか・・・人が一晩、野宿しそうなところだな。俺等ですら躊躇ちゅうちょする峠越えだ。女が夜間に走破することはまず無い。きっとどこかに潜んでいる」

 まずい。そんなことをされては、いずれはここが見つかってしまう。

 どうすればいい?どうすれば・・・

 セルノアが蒼い顔をしたまま立ち上がった。

「陛下、これをお持ちください」

 渡されたのは財布だった。

 さらにセルノアは手持ちの食料を全て有斗に手渡す。

「これらを持ってお逃げください」

「え!?」

「幸い、あいつ等の目的は私のようです。陛下の存在に気付いてはおりません。私が村落の方へと走ってあいつらの目を惹き付けますから、その隙に陛下は道を上って逃げ出してください!」

「そんな!」

 セルノアは笑みを浮かべた。

「大丈夫。逃げ切って見せます。南部でまたお会いましょう」

 嘘だ。

 逃げ切れる自信があるなら・・・何故財布や食料を有斗に渡すというのだ?

 セルノアは犠牲になるつもりなのだ、有斗の為に身体を売ったのと同じように。

「そうだ・・・二人で逃げればいい! あいつらは鎧を着ているそんなに長い間は走れないはずだよ!」

 山に逃げ込めば周りは森、きっとあいつらも二人を見失うはずだ。

「それで陛下に万一のことがあったらいかがいたします」

「僕だって同じさ。セルノアの身に何かあったらどうしたらいい?」

 もう二度とセルノアに辛い思いはさせたくない。

「このセルノア、その一言を聞けただけで、生まれてきたかいがあるというものです」

 ならば一緒に逃げようと言う有斗にセルノアは一人で逃げて欲しいとあくまで言い張った。

 そのほうが逃げ延びる可能性が高いのだという。

「僕は君にそこまでしてもらうような立派な人間じゃないんだ。君と同じ只の人間なんだよ」

 そう説得しようとする有斗に対して何故かセルノアは怒ったような表情を向ける。

「何を言っているんですか! 陛下はあの伝説の『召喚の儀』で呼び出された天与の人なのですよ!? 陛下が死んでしまえば、この世界は終ってしまうのです!」

 それはつまり・・・この全世界の誰よりも僕の生死が重いってことか?

 そんな馬鹿な。

 誰かが誰かの為に犠牲になるとか、そんなの間違っている。同じ一つの命なんだ。

 だがセルノアは有斗の戸惑いに一向に気付くことなく、「だから・・・生き延びてください!」と言い、街道に走り出た。

 わざとであろう、木にぶつかり大きな音を立て傭兵達の注意を引いた。

「おいこっちだ!」

 峠に向かっていた男たちはそれを見て引き返す。

 男たちの目はどれも血走っていた。

「いたぞ、あんなところに隠れていやがった!」


 自分の為に囮になるセルノアを実際にその目で見て、有斗はようやく理解した。

 セルノアは一度として有斗のことなんぞ見ていなかったのだ。

 有斗のことを理解してなどいなかったのだ。

 そう、『召喚の儀で呼び出された偉大な存在』という有斗の外側にある虚像だけを見ているのだ。

 有斗は元の世界ではどこにでもいるありふれた只の学生なのに。


 セルノアが有斗のことに好意を抱いているのも、有斗と付き合ったのも、有斗に身を委ねたことも、有斗のために身売りまでしたことも・・・彼女にとっては全ては同じだったのだ。

 全ては有斗のことを伝説の王と同じ召喚の儀で選ばれた天与の人だ、そう思い込んでいるからしたことだったのだ。

 それに有斗は気付いてなかった。


 ・・・『気付いてなかった』だって?


 はは、笑わせるね。

 セルノアが自分をありえないほど全肯定することを不思議に思わなかったのか? 小さい子供でもあるまいに、それが当たり前だと自惚れていたのかい? 自分のことは自分が一番わかってるだろう?

 お前は元々頭がよかったのか? 運動神経抜群だったか? 財産でも持っていたのか? イケメンでモテていたというのか?・・・元いた世界でおまえは誰からも全肯定されていたのか? そういった待遇に相応しいような立派な人間だったのか?


 違うだろう?


 それがこの世界に来たというだけで一変したことに一切不審を抱かなかったのか?


 ・・・


 違う。


 有斗は分かっていたのだ。

 セルノアが有斗を勘違いしていることに。

 それに気付かぬ振りをしていただけだ。

 別の言い方をすれば、有斗はセルノアの勘違いに付け込み、セルノアの心と身体をおもちゃにしたのだ。

 セルノアの心を弄んだ最低の人間なのだ。

 そう・・・それは金でセルノアを陵辱したこの傭兵達の行為となんら変わりのない行為ではないか。

 傭兵達が金を払う代わりに、有斗はセルノアが勘違いをしているのを付け込むことで、セルノアの身体を得ただけなのだ。

 そして今またその勘違いにつけこみ、ここにセルノアを残して逃げ出すというのかい?

 セルノアを待っている運命がどんなものか薄々感づいているのにか?

 それは・・・人として本当にやっちゃいけない線を越えてるんじゃないのか?

 でも・・・有斗に何が出来る?

 非力な有斗にあの荒くれ者たちからセルノアを守ることが出来るのか?

 できるわけがない。相手は複数だし剣や槍を持っているんだ。しかも人を殺すことを生業としている奴等だ、殺人になんら抵抗を持っていないやつらなのだ。

 そんなの自殺行為じゃないか!

「きゃああああああああっ!」

 その時、聞きなれた声で悲鳴が上がった。


 有斗はようやく勇気を振り絞ると震える足に力を込めて駆け出した。

 本当はセルノアが有斗を微塵も見ていないとしても・・・! それでも・・・・・・!!

 有斗がセルノアを好きなことには、偽りなど微塵もない!

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」 

 大声で心にある恐怖を覆い隠して、セルノアに一番近い、その汚らしい兵士に気合とともに飛びかかった。

 倒すのが目的ではない。勇者のように救い出すことなど考えてもいない。

 有斗が作った僅かな隙にセルノアが逃げられればいいと思ったのだ。

 だが有斗の渾身のタックルを喰らっても、その男は片足を引いただけで、いともたやすく受け止めて見せた。

「へ?」

 男は想像通りにいかなかったことに戸惑う有斗の頭を、その太くて逞しい左手で抱え込んで逃げ場をなくし、右太腿を有斗の臓腑のあたりにたたきつけた。

 息ができなかった。それだけで軽く意識が飛んだ。

 辛うじて立っていた有斗だったが、今度は別の方向から違う男に顔を殴られる。朦朧とした意識の中、ふらつく有斗に次々と男たちは一方的な攻撃を加えた。有斗の身体はサッカーボールのように男たちの間を漂った。

 逃げ場など、どこにもない。

 悲鳴のような声が上がった。

「お願いします! 私はどうなってもかまいません! ですから、その人だけは・・・!!」

「健気だな」

 それが有斗の耳に入った最後の言葉だった。

 有斗は泥の中に倒れこむと気を失った。


 どれくらい時が経ったのだろう。

 有斗は口中に入った泥水で呼吸ができなくなったことで、意識を取り戻した。まさに死ぬ寸前である。口中の泥を吐き出すと周囲を見渡した。セルノアの姿も、あの傭兵たちの姿もない。

 立ち上がろうとして顔をしかめる。体中、どこもかしこもが痛い。

 だが有斗にはやらねばならないことがあると思った。震える足に力を込めて、泥に幾度も足を取られながらも、立ち上がると月明かりを頼りに街道をかけだした。

 水溜りを蹴散らし暗闇の道を走る。青い髪の女性と、彼女を連れ去った傭兵たちの姿を探して。

 全身が濡れるのもかまわず、服から水を滴らせながら、ただ走った。

『待っていて、セルノア。必ず、助ける』

深く心にそう誓いながら、有斗は闇の中を駆け抜けた。


 [第一章 完]


この世に楽園など、ありはしない。どこまでいっても戦国乱世という闇夜に閉ざされた地獄なのだ。

有斗は流されるままに南部へ、南京南海府へと辿り着く。

そこは王権の届かぬ地、諸侯が豺狼さいろうのように互いの体を喰い合う鬼哭啾啾きこくしゅうしゅうの地。

だが、そこで有斗はこの先、未来を大きく変えることになる運命の人たちと出会うことになる。

その出会いは有斗をどこへ導こうとしているのか。


次回 第二章 昇竜の章


「これは異なことを承ります」

その麗人は少し皮肉げに有斗に向かってそう言った。


─────────────────────────────────

ここからは二日に一話の更新となります。とりあえず第三部の終わりまでは改変し終終わっているので、年内は更新ペースは守れるかと!

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