第14話 考えても無駄

考えない。という選択肢もある。思考を甘やかすというのとは、違う。

私は虫には、なれない。虫の思考は持っていないから。アスファルトで潰れている蝉に感情移入するというのは、傲慢だ。どんなに頑張っても、虫にはなれない。

何かになれないというのは、不幸だろうか。

貴方自身の存在には、誰にもなれない。過去最高の作家も、オリンピック選手も、不可能だ。

それはまた不幸でもある。貴方は過去最高の作家にも、オリンピック選手にもなれないことになる。

成るのを諦めて、慣れろと言うつもりもない。

選択肢を絞るということを提案したい。

ならないリストを作るのもいい。公務員、政治家、広告代理店、弁護士、作家。

自分でならないと決めたら後は考える必要はない。

消去法で残ったものが、貴方ができる可能性のあること。

大したことは残らないかもしれないが、具体的ではある。

私がなれるのは、愛煙家、アル中、詐欺師。ろくなものじゃない。

素直な少年のように、成りたい夢を語る方が生産的だというのは、皮肉だ。

それに唾を吐きたくなった。ただそれだけの話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る