第2話 悪い癖


人には悪癖というものがあるという。

私の場合、洋服を畳まずにソファーに放置する……、だったけど、最近では妙に綺麗に畳まれた洋服を家で目にする機会があり、つまり癖がなくなった。

これってパーソナリティーの減少ではなかろうか。つまり人間力が下がっているというような。

ゴッホは、これでもかと色を塗りたくる。これは今でこそ受け入れられているけれど、同時代の人にはてんで相手にされなかった。生前売れた絵は、一枚だけだったという。

ゴッホの厚塗りを悪癖と呼ぶのには、抵抗があるけれど彼はそれを貫いたからこそ、後世に残る傑作を世に出せたのだろう。

傑作というのも浮ついた表現だ。時代によって評価は変わるということを教えてくれる物差しではあるけれど、過信するとゴッホをバカにした連中と大差なくなってしまう。

今に洋服を畳まないことが常識になるかもしれない。その時私は几帳面でなかった頃の私を羨むだろうか。

幸いなことに、今の本棚は整頓されておらず、雑然としている。そこには私の培った秩序があり、余人には預かり知れぬ癖が存在する。

かの牙城を崩されまいと私は奮起する。整頓というロボトミーは一歩も通すまい。

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