1~2

「わ〜、可愛い〜!」


「うお、東堂!お前こんなドラゴン従えてんのか!お前らしい可愛いドラゴンじゃん」


「ちょっ、やめなよ男子ー!夏紀ちゃん、私は可愛いモノが好きな夏紀ちゃんが変だとか思ってないからね!?ギャップも大事だよ!」


……揃いも揃って酷いことを。


「あはは、ごめんね…つい鞄の中にいるってわかってたから触りたくなっちゃって」


いや、香織が悪いのではない。勝手に鞄の中から出てきたコイツが悪いのだ。


「まぁ、バレちゃったもんはしょうがないけどさ…」


ため息をついていると、担任が教室のドアをガラガラ!と勢いよく開けた。


「お前らなに集まって……なんだドラゴンか。まぁ珍しいがそんなことで騒がしくするんじゃないぞー。今日は検査の日だからな!もしかしたらそのドラゴンの持ち主の東堂は能力発現してるかもな!ははは!」


クラスがドッと笑いに包まれる。


……おっと?聞き間違いだろうか?そして日常とはなんだったのか。思いっきり非日常ではないか。


いやまて、少し落ち着こう。つまり……これはあのポンコツが言ってたドラゴンのいる日常ってことか。


ああ、なるほど。


なんだかあのポンコツのポンコツレベルを考えると有り得る気がしてきた。そして、そんな非日常的なことに慣れてきた自分がなんとももどかしかった。


「検査って、何時間目だっけ…」


「え?夏紀ちゃんにしては珍しいね、把握してないの。えっとね〜…確かお昼の次だから、五時限目!」


香織はキョトンとした顔で答えてくれた。嗚呼、そんな日常的な顔をしていた頃の自分に戻りたい。


その後特に何事もなく授業は進んでいった。隣の香織が、問題を解けずに唸っていた事以外は。まぁこれも、いつものことなのだが。


昼休みが終わる、チャイムの音が鳴り響く。ザワザワ、と教室から皆が出ていく。


「夏紀ちゃん、早く行こ〜!」


「はいはい。ちょっと待ってて」


更衣室で運動着に着替えてから、香織にまだかまだかと声をかけられた。そんなに焦ってもいいことはないと思うのだが。


一応、ポンコツを連れていく。余談だが、ケイオスって呼ぶのはなんだか中二病みたいで恥ずかしいので、ポンコツと呼ぶことにした。


どうやら例の検査とやらが出来たのはここが異世界だというのは間違いないようで、それに伴いステータスルームなるモノが出来たようだ。


いや。


正確には、元からあると言うのが正しいのだろうが。


そのステータスルームは体育館の隣にドドンと大きな建物として学校とは別にあるらしい。そんなもの作ってるお金があったらほかのことが出来るだろうに。


なんとなく悟られないように、二人でステータスルームへと行くと、そこは近未来的な、とても頑丈!セキュリティ対策バッチリ!という感じの建物があった。


「あれ?ドラゴンちゃんは指紋とかないよね〜。どうするんだったっけ〜」


指紋、だと…


どんなセキュリティしているんだ、ここは。と言うか、この世界の私と今の私は指紋が違うなんてことないだろうな。


仕方ない、怪しまれても困るし…その場の流れに乗ろう。


「今日は楽しみだな〜!」


ピッ。


前にいた香織が認証をして入る。


……ゴクリ。と、喉の音が鳴る。


ピッ。


良かった、普通に入れるんだ。


ちなみに、ポンコツは他のルートから先生達によって安全確認されて入れたようだ。


「えーと…今日はどこだっけ?」


当たり障りのない発言だ。これはいける。


「え?いつもの広場しか検査するところはないよね?」


……。失敗した。まぁいい。ぼけていたことにしよう。


「あはは、そうだった〜。なんちゃって」


も〜、びっくりしたよ〜!と、おどけてみせる彼女。ちょっと可愛い。


そのまま人の流れに乗って広場とやらへ向かうと、そこはなんだか射撃場の仕切りをすべてとっぱらって一つの大きい的に当てに行く…まるで巨人用の射撃場だった。


既に検査は始まっており、私達は駄弁りつつ、順番を待った。


次はー…東堂だな!と、体育の教師が点呼を行っていたので、被験生徒用の、バッターボックスのようなところに入る。


なにやら近未来的でなんだか少し楽しみだ。


すると、何処からともなくアナウンスが流れてきた。


「これから適正確認検査を行います。まずこの検査は…」


……簡単にまとめると、身体をサーチして、なんらかの力があると検出されたらその能力を引き出すためになんらかの活性音声が流されて、後は様子見というなんとも適当な検査である。


「まぁ…こんなもんだよね、あのポンコツの考えている世界なんて」


一応、私にも能力はあるだろう。望んで手に入れた力ではないが…身構えるだけしておこうかな。


アナウンスの只今検査中、というループ音声は割と早く終わった。もしかして検出されたのだろうか。


と、身構えていると、扉が開いた。


「次ー!」


えっ。


あれー…能力とかそういうの、出てないの?


なんか無駄に悲しくなってきた、元は要らないと思っていた能力がほんとに無いって、なんだかなぁ。




帰宅後、ポンコツに聞いたところ…どうやらまだ制御出来ていないから、たまたまあの時能力の波が眠ってたんだろう!


ということらしい。なんだそれは。


「まぁまぁ。ないに越したことはないでしょ?」


このクソポンコツドラゴンめ。あの後割と残念な目で見られて恥ずかしかったってのに。


「今日はお前の肉でステーキにしてやる!このポンコツー!」


「やめてやめて!?ごめんなさい!!」


こうして、晴れて日常生活(?)へと逆戻りすることとなった。

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異世界的な非異世界! らびっといちしろ @ichi-shiro

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