第一章「日常的な契約龍!」
1~1
けたたましく鳴り響く目覚まし時計が、朝の知らせを運んでくる。
「……うるさいなぁ」
午前六時。いつもと同じ景色を寝ぼけ眼で感じつつ、左手を見つめる。
……昨日のことは本当にあったのだろうか、と言うくらいに綺麗な左腕だ。
「……歯、磨こ」
私の家は寮だ。実家は東京にあるのだが、通っている高校の本校が北海道にあるというので、わざわざ寮に住んでまで来ている。……自分から入っておいてなんだその言い草は、という感じなのだが。
洗面台へ向かうと、これまた大きな音が聞こえてきた。今度は声だ。
「おはよう、夏紀ちゃん!あぁ〜、夜更かししてたでしょ〜?目にクマが出来てるもん!」
この子はルームメイトの吉永香織だ。
同級生である。
まっすぐ伸びたストレートヘアーからはなんだか女子高生特有のいい匂いがしてくる。スラッと伸びた背丈に、長い脚が映えている。自分とは違って、なんだか大人びた感じだ。
「あはは……まぁね。香織は……言わずとも、って感じかな」
流石に昨日のことを言うわけにもいくまい。と言うか、言ったところで信じてもらえるはずもないだろうが。
「夏紀ちゃん夏紀ちゃん、今日国語の小テストだったっけ〜?」
「数学。それすら覚えてないって、どんなスポーツ馬鹿だっての」
可愛い。でへへ〜と笑う彼女に、そんなんだと赤点をとるだろうに。とツッコミを入れる。
ちなみに彼女…吉永香織は、二年生にしてバレーボール部のエースだ。高校にはスポーツ推薦で入ってきたようで、勉強はイマイチな様子だ。
「まぁ私は大丈夫だから、学校行ったら教えてあげる。ちゃ〜んと覚えなよ?」
「流石、夏紀ちゃん!」
まったく、調子がいいんだから。
けどこの人懐っこさには負けてしまう。
その後身支度等をして、さぁ出発!と部屋を出ようとドアノブを左手で掴もうとすると、バキッと。
……え?
なんだろう、これ。目の前でドアノブがまるで木の枝のようにポッキリ折れてしまった。
「うーんと……まず部屋から出られないのは置いといて……これはアレだな」
確実にドラゴンの仕業だ。と言うか、制御できないってこんなレベルだとしたら割と日常生活に支障が出るレベルなんですけど。
玄関の方で香織が呼んでいる。マズイ、ドアノブが壊れてしまった今、部屋から出られないではないか。申し訳ないが、外から開けてもらおう。
「香織ー?ごめーん、ドアノブが壊れちゃったみたいで、開けられないから…そっちから開けてくれない?」
「えっ、壊したの!?いつの間にそんな握力に…」
ないでしょ。どうしてそういう発想になるんだ。
香織の手助けにより無事(?)部屋から脱出した私は、既に非日常のような雰囲気を感じつつも、とりあえずは学校へと目指すことにした。
通学路とは学校へと行くための決まった通り道のことである。
そんなこと誰でも知っているのだが、普通はそんな通学路にドラゴンが落ちているなんて思いもしないだろう。
「……よっ!」
「なにが、よっ!なの!?」
しまった。他の人にはみえていないんだった。こんな反応してしまったら変な人と思われて……
「わぁ〜!可愛いドラゴンさんだね、夏紀ちゃん!……夏紀ちゃん?」
なんでだ。なんでそんな簡単に馴染んでるんだ。と言うかなんで見えてるんだ香織は…
ちょっと貸して。と、ドラゴンを半ば強引に奪い取り、事情を問いただすことにした。
「ちょっと、どういうこと?」
「いや、だから昨日契約した後説明したじゃん。」
どうやら、このヘッポコドラゴンは、私が気絶しているのに気づかずに説明したようだ。要は、契約後もドラゴンはこの世界にとどまり続けるらしい。それも、環境に応じて姿を変えるんだとか。
「だからチビなんだ……ヘッポコ度に磨きがかかってるね」
「えっ、酷いよ…」
それに口調も柔らかくなっている。少し可愛いと思ってしまう自分が憎い。
で。もう一つ重要なことがあって、ここは以前とは違う異世界なんだそうだ。どう頑張っても同じ世界へは転生出来なかったらしい。このドラゴン、やっぱりポンコツだ。
と言っても、ほんの少しの違いがあれば異世界認定されるんだそう。異世界の人達も適当だなあ…と呑気に考えていると、
「ちなみに元の世界との相違点は、ドラゴンが日常的にいることだ!」
……は?
コイツ、ポンコツレベルMAXどころかメーター振り切ってるよ。
「どうしてそんなことしか考えつかないわけ!?ほら、自分の存在が元からあって珍しくない世界、とか出来たでしょ!」
「ハッ!?夏紀、お前頭いいな!」
ぶん殴ってやろうか、こいつは。と思ったのだが、時間が危ういし、何よりこれ以上香織を待たせてはいられない。
「いい?とりあえず鞄の中にでも入って出てこないでね?絶対だよ?」
つまんないの、と呟いたケイオスは、そのまま鞄の中へと頭から突っ込んだ。もぞもぞとお尻をくねらせて鞄の中に入ろうとする様は、なんだか愛らしい。
「じゃあ行こっか〜?って、ドラゴンちゃんしまっちゃったんだ〜。残念だよ〜」
あはは、と愛想笑いをしつつ、学校へと向かっていく私達だった。
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