異世界的な非異世界!
らびっといちしろ
プロローグ
「よォ、嬢ちゃん。何がなんだか分からねェ顔をしているな」
そこに佇んでいた、何もかもを真っ黒なオーラで塗りつぶしてしまいそうな、この場にいると胸を圧迫されそうな、圧倒的なオーラを放つ「龍」のようなものは、そんな事を告げてきた。
そんな事を突然告げられても、言われた通りだ。何がなんだか分かりっこない。
と言うか、完全に天井を突き破ってしまっているではないか。この龍のようなヤツは。
なんなんだ。このまま帰られたらたまったもんじゃない。……が、こんな得体の知れない龍のようなヤツはこのままココに置いておくわけにもいかない。
もしも伝説の龍というものが復活して、たまたま自分の家が復活するのに選ばれた座標なのだとしたら、なんと運の悪いことだろうか。きっと飛行機に乗ってそのまま墜落、その次の日に宝くじの一等が当たって才色兼備なイケメンとお付き合いが出来た、と言うくらいの確率なのではないだろうか。
そんなこちらの気持ちはつゆ知らず、目の前の龍のようなヤツはどっしりと構えている。
小さい頃、同級生の男の子が持っていたドラゴンのフィギュアにそっくりな風貌。
よく見ると、鱗のようなもので出来た体は、ところどころボロボロになっていた。
真っ黒で、艶のある体から、芯の通った髭が二本、ユラユラと揺れている。
よく見るとつぶらな瞳をしている龍のようなヤツは、こちらをじっとみつめていた。
私は、先程起こった状況について今一度、心の中で整理を行ってみた。
私は、自慢じゃないがごく普遍的な女子高生だったと思う。
多少周りに流されやすいタイプだし、余計な一言で友達と大喧嘩したこともあるが、そんな事誰しもが起こりうることだろう。
そんな普遍的な女子高生の私は、今日も普通に学校へと登校し、普通に授業を受け、普通に放課後は友達と遊んで、普通に帰宅をした。
夕食を食べ、お風呂に浸かり一日の疲れを癒して、アイスでも食べつつテレビをみようとお風呂からあがって自室を扉を開けた、その時だった。
ドカン、と。扉を開けた音にしては些か大きすぎるのでは、とやけに冷静な判断をしたと今になって思う。
砂煙にむせていてよくわからなかったが、部屋の床に着地したような音。
バサバサと風を生み出していたのは翼だろうか。
それの正体は、砂煙が晴れると嫌でも目に入る、この世界に存在するはずのないものだった。
「………ちょっといい、ですか?」
私が質問すると、その龍のようなヤツはゆっくりと頷く。
「何だ」
「私は、異世界に飛ばされたのでしょうか……」
やけに冷静だった。いや、寧ろ一周回って冷静にならざるを得ない状況だと思う。
「……嬢ちゃんよォ、何がなんだかって顔していた割には…勘が鋭いなァ」
やはり異世界だった。この時私は、普遍的な女子高生から外れてしまったのだという焦燥感と、それと同時に一つの疑問を抱いた。
それを感じ取ったのか、龍のようなヤツは髭を、さっきとは違った感じで揺らす。
「まァ……異世界なんだが……これがまた、少々ややこしくてな」
それは、どういう…?と尋ねると、
「異世界っつーと、全く別の世界……まぁ戦いが日常の世界だとか、そういうのをイメージするだろうなァ。だがそういう戦いとか、そんなの古いと思わねェか?……時代は日常だろォ!」
コイツ何言ってるんだ。
あぁ、どうしよう。このまま帰れって言ったら帰りそうなヘッポコドラゴンに見えてきた。
「でさ、とりあえず後で部屋を直してもらうとして……なんで現れたのかをまだ聞いてないんだけど」
「えっ!?だからさァー……まァ、簡単に言うとだな……」
………。
まとめると、つまりはこの龍…もとい、ケイオスドラゴンはこの世界の者を異世界へと招き入れる継承龍と呼ばれるドラゴン、らしい。
そしてその継承龍とやらはある特定の人間を一度だけ異世界へと連れていけることがあるそうな。
つまり私がそれに選ばれたらしいのだが、ケイオス曰く『普遍的な異世界ファンタジーとかァ!?マジで面白くないから日常的なのがいいだろォ!』らしい。
何を言っているのかさっぱりだが、要は勝手に異世界転生への犠牲として選ばれたが、運良く(?)ソイツは日常モノが好きだったので実質転生せずに済んだ…
「って、はた迷惑な!?」
「なんだよォ、カッコイイドラゴン様と一緒なんだからいいじゃねェかよ」
なーにがカッコイイドラゴンだ。私はそんなモノよりかわいいお人形さんの方がいいって言うのに。特にうさぎ。
「まァ色々言いたい気持ちは分からんでもねェんだ。急に部屋をめちゃくちゃにしておいて日常を謳歌しよう!だなんてそれこそ日常じゃァねえだろって思うだろ?だからそのお詫びにこの部屋を直す!……のと、もう一ついい話があるんだ」
なんだろう、本末転倒なことを言われた上に物凄く胡散臭い話を振られた気がする。
そしてその予感はバッチリ的中した。
「お前に寄生させて貰うわァ」
ケイオスが言うには、こういう事だ。
契約龍はその名の通り、人間と契約をすることで異世界へと旅立つことが出来る。
そして、その契約の為には契約主の身体の一部を犠牲にして宿らなければならない。
犠牲と言っても見た目には変化がない。精神エネルギーとして、契約主と他の同じような人間にしか見えないらしい。
コントロールが効かないうちは、感情の起伏によって具現化してしまいうということ。
「なんで契約なのかってさ、俺らドラゴンは有り余る魔力を使う機会なんて日常系だとないわけよォ。でも魔力を消費しないと最悪死んじまうわけ」
当たり前だ。普通に過ごしていれば戦争的な戦いなんてまず起こらない。
「で、どうしたら魔力を使えるかなァって考えたわけだ。そうだ、契約しちゃえと。契約主はこの世のどんな人間よりも強くなれるし、俺らドラゴンはバンバン魔力を使えるってわけよォ。どうよ、悪くない話だろォ?」
悪いだろ、と突っ込みたくなる。だけど自分が契約しなかったらこのドラゴンは、もう二度と転生の機会を与えられずに死んでしまうのかと考えると、何故かそうも言えなくなるこの性格を憎みたくもなった。
まぁ一応、どんな感じなのか気になるので。
「えっとさ、その契約ってのは具体的にどういう風に…?」
「あァ、簡単だ。お前はただじっとしていればいい。勿論身体に影響なんてもんもねェ。契約自体は俺らの仕事だからな。まぁ場所はランダムで決まるから、何処になるかわかんねェがな」
「おい、ちょっと。それひどい場所になるとかないよね?」
「何のことだ」
「おいコラ」
……多少の不安はあるが、仕方ない。最悪、他の人間にはまず見えないのだからという理由をこじつけて、条件を飲み、契約することにした。
「じゃあ適当に椅子にでも座ってなァ。」
言う通りに座り、待っていると左腕が眩しく輝き出す。もしや、左腕がドラゴンになるのだろうか。
「お、左腕か。腕ならお前らも使いやすいだろうな。んじゃこれから切り落とすから、まぁ我慢してなァ」
え、今なんて?
そんな一言を言う間もなく、ケイオスの一撃が容赦なく私の左腕へと斬りこまれる。
「う……うわああああああ!?なにこれ!?ってか、いた…痛い、痛いんですけど!?ああああああああ!!」
あ、ごめん。とか。そんな小さい言葉で治るなら医者はいらないでしょ!
「よし、準備完了だ。それっぽいこと言った方がいい?」
言葉にならない。尋常ではない痛みが襲ってきているのに、意識は途絶えないし、最悪だ。なんでもいいから終わらせて欲しい。
そして、じゃあやるか、というケイオスの一言の後に。
「異界の血より契約せし、人間よ。汝の隻腕を犠牲に我、黒龍を宿す!」
「だ、ダサいでしょー!?」
辛うじて出たツッコミが響く中、私の日常が終わりを告げた。
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