第9話 変わらない姉妹変わっている兄妹

 「ああー、りゅうーーターン。可愛いでちゅねえ、良い子でちゅねえ、スリスリしてあげましゅね」



 レミィに怨霊のごとく憑かれること、かれこれ一時間と言ったところ。リンデの部屋での一件で俺の中でのレミィの好感度がぐっと上がったので短時間なら悪くもないんだが……、いや、むしろご褒美とすら思えるのだが……。流石に長すぎるだろ。


 「あらあら、レミィタンはお元気でちゅねえ」


 「なっ!」



 そこへ私のジョセフィーヌ、リンデの登場。


 「いつから聞いてたのよ?盗聴癖女」


 「10分前くらいかしら、リュウの姿が見えなかったから探していたの」



 リンデに探してもらえるなんて歓喜だ。これってつまりリンデと俺は互いに互いを求めあってるってことで間違いないよな。明日にでも結婚したい。


 「リュウは姉様のじゃなくて皆のリュウなのよ」


 「分かってるわよ、無理に取り上げたりしないわ」


 別にこちら側としてはリンデの物に喜んでなるのだけれども。



 「でも、こうしてると昔を思い出すわね。確か、一か月くらいだったかしら。市場に捨て犬がいたのを私たち二人で世話してたんだっけ?」


 「はい、お母様が動物嫌いでしたから飼えなかったんですよね、だからお屋敷から食べ物を持ち出して……」


 「確か、名前も付けたんだよね。確か……」


 「ジョセフィーヌです。私がつけてあげました。姉様が”ブロッコリン”なんて名付けようとして……ホント困りました」


 「だって、もしゃもしゃしてたんだもん」


 「その擬音からセンスのなさが窺えますね」


 「そんな事ないわよ。でも、ある日突然いなくなってたんだよね、あの子」


 「はい、きっと誰かに拾われたんでしょう」


 「今も元気にしてるかしら?」


 「そうだといいですね」


 へー、俺の前にも可愛がってる犬がいたのか。このころから姉妹とも犬好きで仲が良かったんだな。でも、一番意外だったのは二人のお母さんが動物嫌いってところだな。父さんも一度も俺を触ったことがないしこの二人の動物好きはどこから遺伝されたのか謎だ。いや、むしろそのジョセフィーヌのおかげで動物好きになってくれたのかもしれない。となればジョセフィーヌに感謝しなくちゃ。


 「フフ……」


 「な、何よレミィ……こっち見て」


 「いえ、あの頃から変わってないですね、姉様は」


 「何の話?」


 「ジョセフィーヌがいなくなった時、私が寂しいって言ったら姉様が拾ってもらえたんだから良い事でしょって言って怒って自分の部屋に閉じこもっちゃって。よく耳を澄ますと姉様が泣いてたんですよね。それがこの前みたいって言ってるんです。本当に何も変わってないです、姉様は」


 「もう、そんなこと思い出さなくていいわよ、恥ずかしい……」


 この前っていうのは殺せコールの後の屋敷での事だろう。レミィは何故かリンデが泣いているのが分かったみたいだし。互いの事が分かっている兄弟姉妹なんてそうそういるもんじゃない。それは純粋に凄い事だと思う。あと、リンデの幼少期の頃を一度見てみたいなあ、きっと可愛いんだろうなあ……。まあ、今のリンデの恥じらい顔も最高なんだけど。



 「離すのよ! この変態野郎」


 「いや、しかし今日は誰も来客される予定はありませんから」


 「うるさいのよ! リンデという奴を出すのよ!! 私のお兄ちゃんは渡さないのよー!!!」


 どうやら、玄関で一人の赤髪の少女が暴れているらしい。それをアルトが必死に取り押さえている。にしてもあの赤髪、グリと同じなんだが……まさかな。まさかそんなグリの家は変人だらけなわけないよな。


 「姉様、お呼び出しされていますわよ」


 「うう……、嫌な予感しかしない、でもアルトも困ってるし……仕方ないか」


 「いってらっしゃい、お姉さま」


 リンデが少し駆け足でレミィの部屋を飛び出す。


 「よし、これで私とリュウちゃんの二人きり……っていないー」



 危ねえええ。嫌な予感がしたからリンデと一緒に出てきてよかった。あいつ、一時間べっとり触りまくっても満足しねえとかどれだけ欲求不満なんだよ。





 「あの……私がリンデよ。あなたは?」


 「ふふ、私は何を隠そうエステル家の長女であり、兄のグリストロフの保護者でもあるアイリス・エステルなのよ」


 ああ、やっぱりそうなんだ。予想しかできなかったなあ。似た者兄妹だなあ。


 「ああ、グリの妹さんね。今日はどうしたのかな?」


 「どうもこうもないわなのよ。あなたがグリの結婚相手なんて絶対に認めないなのよ!!」


 「うん、私もそんなつもりないわよ」


 「………………え、うそ。そんな……でも、兄様は……」


 彼女、アイリスは突然驚いたような顔になり、ブツブツと独り言を言いだす。こうやってみると本当にこの兄弟は変わっている。リンデとレミィが大して変じゃないように見えてくる。……ってあれ? こっち見てにやにやしてる、ヤバい、何かヤバい、嫌な予感というより百パーセント嫌なことが起こる。


 「分かったなのよ。今日は引いてあげるわ。その代わり五分だけその犬を貸して欲しいなのよ」


 ちょっと待った。それはダメだ。俺の命が危ない気がしてきた。リンデに精一杯嫌だってことを主張しないと。


 「クウン、クウン……」




 「分かったわ」


 伝わらなかったあ!! 人生終わったあ!!! あ、犬だから犬生になるのか?




 俺はその少女に森の奥に連れていかれる。今のところはまだ何もされていない。



 「何もしないなのよ」


 え?


 「あなたは何者なのよ?」


 ん? どういうことだ?



 「あなた本当は犬じゃないんでしょ、いったい何者なのよ?」




 こいつ、何でその事知ってんだよ! こいつ何者なんだよ?



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異世界では人間ですらなかった 沖田和雄 @OKita

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