涙のものがたり

@seiun

青の若者 緑の若者

 昔々、とある国の人里離れた丘に一人の仙人が住んでいました。仙人はいつまでも長生きできる不老不死という力と、どんな遠くの場所や人でも見通せる千里眼という不思議な力を持っていました。


 その仙人のもとにある日、二人の若者がやって来ました。青の若者と緑の若者です。


 二人の若者は言いました。

「どうか僕達に仙人の力をください」


 仙人は二人の若者に言いました。

「沢山の人に涙を流させなさい。より多く涙させた者を私の弟子にしよう」


 青の若者と緑の若者は必死になって考えました。そして。


 青の若者は本を書きました。読む者すべてが涙を流すような美しいお話でした。青の若者は自分の家族と友達に本を読ませました。


 緑の若者はその国の王を殺しました。王の訃報に国中の人が涙を流しました。


 仙人は緑の若者に力を受け渡しました。



 それからしばらくの時が経ちました。緑の仙人が千里眼で国の様子を見ています。


 その国ではある本がみなに親しまれていました。誰が書いたかも分からない。いつ書かれたかも定かでない。けれど読んだ人はみな涙を流しました。その国では一家に一冊その本がありました。そして自分の子供たちにも読ませていました。


 こうしてその本はいつまでも受け継がれています。


 そうして緑の仙人はいつまでもその様子を眺めています。

 

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