第7話 振り込め詐欺
ダライ・ラマって南米山岳地帯に住む草食動物の一種かと思ってたよ、馬鹿たれが。オレオレ詐欺って怖いよね。でもオレオレ詐欺って「オレ・オ・レ詐欺」って表記したらなんかカフェ・オ・レみたいでお洒落だな。ってそんな事もねーな、別に。
「振り込め詐欺に注意」なんてポスターもよく銀行で貼っているよね。でも自分の子供の声を聞き間違えたり、荒唐無稽な金額を振り込んだりってホントにあるんだろうか? 気が動転してんだろうか? 信じられねーけどな。騙されてる本人も「まさか自分が…」なんて思うんだろうな。お年寄りを狙った卑劣な犯罪だわ。ま、でも私は大丈夫よ。
ってな事を考えながらユリコが家に帰るとりりりりりりり~ん、と1本の電話があった。
「もしもし、オレだよ、オレ!」
「え? 誰なの?」
「母さん、オレ、オレだよ、声でわかんだろ、オレ!」
「ああ、なんだ、ケンタか」
「そうだよ、ケンタだよ」
「どうしたの? 珍しいわね、電話なんて?」
「いや~、それがさ、会社で書類をやらかしちまって急にカネが必要になっちまったんだよね」
「え? 会社? あれ? ケンタ、あんた、小学校1年生じゃなかったっけ?」
「え、う、うん、そうだよ、小学生だよ、1年生だよ、いや、その、あれだな、小学校でプリントをやらかしちまって今すぐカネが必要になったんだよ!」
「え!? なんですって!? 小学校でプリントやらかしちまったのかよ! そりゃ大変だ、一体いくら必要なのよ!」
「それがさ… 2000万円なんだよ…」
「なんですって!? 2000万円ですって!?」
「頼むよ母さん、今すぐ2000万円振り込んでくれ!」
「よし、2000万円だな、仕方ない、わかったよ、ケンタ! すぐに振り込むよ!」
指定口座をケンタに教えてもらったユリコはその足で銀行に向かったんだけど今日は土曜日で休み。ほんでもってユリコの財布には2000万円どころか2000円札(懐かしいな! おいっ!)が1枚だけしか入ってなかった。でもユリコは、ま、いっか、と思いコンビニのATMで指定された口座に振り込もうとして投入口に2000円札を入れたんだけど、2000円札は対応していなくて、何度入れてもウィーン、何度入れてもウィーンの繰り返し。暖簾に腕押し。あちゃ~、どうしよう。コンビニの店員さんに
「2000円札を1000円札2枚に崩してください」なんてお願いするのもなんか恥ずかしいし、どうしようってモジモジ困っているとコンビニの前をケンタが通りかかった。
「あれ? ケンタ? ケンタじゃないの! 学校でプリントやらかしたんじゃないの?」
「え? なんの話だよ? 母さん」
その時、ユリコは騙されていた事に初めて気が付いたのである。やっぱり本当に騙されたりするんだな。振り込め詐欺は身近にある。長く伸びた自分の影のように纏わりついているんだ。みんなも絶対に油断しちゃいけないよ。なんて。
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