第6話 飲酒検問
「ああ、もしもし俺だけど、ジェニファーかい? いつものブツは手に入れたよ、ん、ああ、うまくいった、そうだ、ジョージから買ったよ、いつも通りね、末端価格はグラム5000円でな、うん、うん、あ、ごめん、なんかパトカーいてるから切るね」
俺が運転するランボルギーニは夜の暗闇の中で真っ赤に光るライトセイバーによって制止された。
「はいはい、君、止まりなさい」
「ほへ? なんで俺、止められたんですか? 保安官さん」
「今ね、飲酒検問をやっているんだよね」
なんだ、飲酒検問か。なら大丈夫だ。なぜなら俺は酒を飲めないからだ。
「はい、この機械に向かって息をハーって吐いて下さいね」
懐中電灯のような機械に向かって俺は思いっきり息を吐いた。
「ふわ、くっさー、お、お前、飲んだだろ、くっさー」
「はい、すみません、飲みました、保安官さん」
「全部、飲んだのか?」
「はい、全部飲みました」
「くっさー、だろうな、ニンニクラーメン太郎丸のスープ全部飲んだのか?」
「はい、飲みました、美味しかったもんで… つい魔が差して…」
「だろうな、どおりで臭いはずだ」
「あの~、すみません、保安官さん、これってやっぱり違反になるんですか?」
「ん~、飲酒検知の機械が反応してないからね、今回はギリギリセーフだな」
「ありがとうございます、保安官さん!」
「でも、君、ちょっと待ちなさい。さっき何か手に持っていたね、股の間に何か隠したのを私は見逃さなかったぞ!」
「あ、い、いや、これは、その、別に、何も隠していません…」
「君、怪しいね、運転中の携帯電話は違反だぞ! さあ、見せるんだ早く!」
「はうああ、やめて下さい保安官さん、はうああああ、恥ずかしいいい」
俺は股の間に隠していた物を取り上げられてしまったのである。とんだ失態だ。
「おい、君、なんだ、これは。マルボロライトの箱、しかもフィルムの部分だけ下に伸ばして… 君、まさか…」
俺は手のひらにびっしょりと汗をかいていた。ごくりと唾を飲み込んだ。背筋が凍るような緊張が走る。
「君、まさか、柳沢慎吾の名人芸の練習をしてたんじゃないだろうな?」
「すみません… そうです… ヤナギの練習をしていました」
「君、ダメじゃないか、運転中に柳沢慎吾の名人芸の練習しちゃ危ないだろう」
「すみません、保安官さん、ヤナギが好きなもんでして… つい魔が差しまして…」
「そうか… なら仕方ないな。あと柳沢慎吾の事をあんまり『ヤナギ』とは言わないぞ、まあ精々言うとすれば『慎吾ちゃん』が適切だな。それと、私は保安官じゃない、警察官だ!」
「すみません、保安官さん、やっぱり運転中のヤナギは違反になるんですか?」
「ん~、君、全然、人の話聞いてないね、まあ、前例がないからな、ちょっと本庁に確認取ってみるから」
警察官は携帯された無線機で本庁に連絡を取った。ああ、本物の柳沢慎吾の名人芸が見れる。俺はくすりと笑った。
「よし、今、本庁と連絡を取った結果、今回はセーフだ。だけど、運転中に柳沢慎吾の名人芸の練習は危険だから、今後は家で練習するんだぞ!」
「はい! ありがとうございます! 保安官さん!」
事なきを得て俺はランボルギーニを発車させた。小気味よいエンジン音が夜の漆黒に響き渡った。
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