第8話 セールスマン
最近のイギリスの調査によると男は1日平均3回の嘘をつくらしい。へっ、んなわけねーだろが、クソったれが! なんて考えながら俺はビバリーヒルズのプールサイドのリクライニング・チェアに凭れながらスパークリング・ワインを飲み束の間のバカンスを楽しんでいた。じりじりと焼けつくような日差し、ブルゴーニュ産のスパークリング・ワイン、まだ若いな、と噛みしめるように味わって。
プールサイドではビキニの女がこちらを見ながら手を振っている。脚で水面を蹴ると放射状に飛び跳ねる水飛沫。トランプ氏との激戦を制し大統領になった俺はスマートフォンで「カクヨム」というサイトを眺めながら面白そうな小説を探していたのであった。
「河上神楽『歩道橋の音楽』なるほどな、これ面白そうだな、とりあえずチェックしとくか。いや絶対、最後まで読んだ方が良さそうだな」
その時だった。スマートフォンに着信があったのである。見覚えのない電話番号だった。
「もしもし、脇汗メキルさんのケータイですよね?」
「はい、そうですが、何か?」
「私、何を隠そうセールスの者でして、メキルさんに是非とも、とてつもなく高額な商品をご紹介したいと思いましてお電話差し上げた次第で…」
「馬鹿か。そんなストレートな営業電話あるかよ、もうちょっと上手くやれよ、ボンクラが、やり直せ、なんで俺の名前知ってんだよ」
「いや、名簿業者から買いましてね、ええ、本名、脇汗メキル、好きな音楽はヒップホップ、趣味はSMクラブ通い、座右の銘は、人生とチムコは太く長く…」
「ちょちょちょ、待てーい、お前、俺の個人情報が少々飛躍し過ぎだぞ、馬鹿たれが。ほんでもって女性読者置き去りにしてんじゃねーかよ、クソが。で、一体俺に何の用があるんだよ?」
「いや、新製品のエアコンのセールスの電話でして…」
「あ? エアコン? そんなもんいらんわ。この前『白くまくん』買ったばかりだぞ」
「いや、ですから、もう1台、我が社の高性能エアコン『ヒグマくん』をオススメしようと思いまして…」
「2台もエアコンいらんわ、あほんだら!」
俺は電話を切った。ネット社会って恐ろしいな。勝手に個人情報がひとり歩きしてるんだもんな。石原裕次郎、美空ひばり、尾崎豊、あ、それは故人情報か。知るかっ!
イギリスの調査による「男の嘘ランキング」
1位 うん、もうやったよ 45%
2位 ごめん、電波が入ってなかったんだ 41%
3位 今そっちに向かってるよ 39%
4位 メール見てなかったんだ 35%
5位 他の女性なんて見てないさ 30%
番外編 屁?こいてないよ、俺じゃないってば 1%
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