第2話 見守り隊

 いつもよりも厚化粧をしてユリコが学校に向かうとちょうど国語の授業の真っ最中だった。今日はケンタの授業参観日。ケンタは眼他理科めたりか小学校の1年生になったばかりだ。ケンタは先生の質問にも積極的に手を挙げ

「はい! ジェロム・レ・バンナです!」

 と元気良く正解を答えていた。そんな息子の成長にユリコは目を細めていたのであった。授業参観が終わるとPTAによる会議が行われた。ユリコは一抹の不安を抱いている。それはケンタの通学路が徒歩で10kmもある、という事だ。田舎町では仕方のない事だけど。悪い人に連れ去られないかしら。担任の本田先生はそんなユリコの不安を和らげるように親切に声を掛ける。

「お母さん、心配しなくても大丈夫ですよ。我が校には『見守り隊』というボランティアのおじさんがいましてね、ちゃんと家まで一緒に送り届けてくれるんですよ。だから安心して下さいね、お母さん」

「じゃあ、先生、その見守り隊の人に任せたら大丈夫なんですね」

「そうですよ、もちろんです。その為のボランティアですから。それにこの町は比較的、治安がいい方なんで、心配要りませんよ」

 ユリコはホッと胸を撫で下ろした。


 下校の時間になるとケンタの元に見守り隊の男が現れた。

「ケンタ君、私が見守り隊の鈴木です。よろしくね」

「よろしくお願いします。鈴木のおじちゃん」

「よし、じゃあケンタ君、一緒に帰ろうか」

「はい!」

 ケンタは鈴木と手を繋いで肩を並べながら歩いた。坂道を下っていると、茂みの中に潜んでいたスナイパーが鈴木の足を撃った。鈴木の太腿が鮮血で染まる。自動販売機の前で立ち止まった鈴木はケンタに尋ねた。

「ねえ、ケンタ君、喉渇いたね、ジュースでも飲まないかい?」

「え? いいんですか? じゃあ、僕、ポカリスエット飲みたいです」

 自動販売機で買ったポカリスエットを飲みながら2人が歩いていると、鈴木の背後から通り魔が襲いかかった。鈴木は背中を2ヶ所刺された。

「どうだい? ケンタ君、ポカリは美味しいかい?」

「うん、美味しいよ、ありがとう、鈴木のおじちゃん!」

 さらに腹部も刺された鈴木は1台の軽自動車の前で立ち止まった。そしてケンタの耳元に手を当てがって小声で囁いた。

「ケンタ君、お母さんには内緒だよ。実はね、鈴木のおじちゃんね、マイカーに乗ってきたんだよ。ここからは車に乗ろうね。その方が速いからね。でも、お母さんには内緒だよ」

「うん、わかったよ、鈴木のおじちゃん!」

 ケンタは助手席に座った。後頭部にボーガンの矢が刺さった鈴木は猛スピードで車を発進させた。山道を鈴木が運転していると、バックミラーに映る真っ黒いベンツが追跡してくる。ベンツの助手席にはライフルを構えた男が銃口を向けている。発射された弾丸はバックドアのガラスを突き破り、鈴木の頬をかすめた。鈴木はドリフト走行しながら銃撃をかわし、カーチェイスが始まった。四方八方から銃弾が飛び込んでくる。そして銃撃戦の末、鈴木の車は横転した。その時、上空にはヘリコプターが旋回していた。

「ケンタ君、相棒が用意したヘリがあるから、それに乗ろうね」

「うん。ありがとう、鈴木のおじちゃん!」

 ケンタと鈴木がヘリコプターから降ろされた梯子にしがみつくと、空高く舞い上がった。そして2人はヘリコプターに乗り込んだ。空中戦では3機の戦闘機がミサイルを発射してきたけれど、すべて避け切ってパラシュートで降下し無事、ケンタは家に辿り着く事が出来た。

「ただいま、母さん!」

「大丈夫だった?」

「うん、何も問題はなかったよ!」

 それを聞いてユリコは安堵の表情を浮かべた。ケンタはユリコが用意したシチューを食べながら舌鼓を打った。やっぱり、母さんのシチューは美味しいな、と。






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