第22話 魍魎創作動画
廃墟のような部屋に、一人の女性が監禁されているようだった。
手足は鎖で縛められ、壁にまるで磔のような姿にさせられている。
まだ若く、美しい。
ひどく薄汚れた衣服をまとっていたが、見事に発育した肉体の女性的な魅力は隠しようもない。
ただ、長い黒髪をもつれさせた女の額には、おぞましい印が刻まれていた。
「魍」とただ一文字、刻印されている。
彼女の正体は明らかだった。
かつては人であったが、反人権的な行為の罰として、人権を剥奪されたものである。
すなわち、魍魎だ。
魍魎はもう人ではないのだから、なにをしてもよい。
人権がない相手にどんなことをしようと、反人権的とは言えないのだ。
何人もの男たちが、下卑た表情を浮かべて魍魎の女に近づいていった。
『やめて下さいっ』
動画のなかの魍魎が悲鳴じみた声をあげた。
『あなたたち……それでも、人間ですか』
『当たり前だ』
男の一人が言った。
『俺たちの額には、お前みたいな印はない。つまり俺たちには人権がある。だがな、怪物……お前はもう人間じゃない。ただの社会に害をなす怪物だ』
しかし、画面のなかの魍魎はどうみてもひ弱な人間の女性にしか見えなかった。
よく出来た動画ではあるが、電脳で造られた映像だということは等にもすぐにわかった。
電脳動画はどんなに現実的に作られていてもどこかに違和感があるものだ。
そうしたものを見慣れているので、すぐに区別がつく。
それでも、等の股間はすでに反応を始めていた。
画面のなかの魍魎の女性の架空の肉体に反応してしまっているのである。
つい近くにある、光の、本物の少女の若々しい肉体を意識してしまった。
むこうは黙って画面を見つめているが。
『いやああああああああああ』
魍魎の女性が悲鳴をあげた。
男たちが彼女のボロ布のような衣服を破り始めたのだ。
それから動画内で起きたことは、あまりにも衝撃的なものだった。
保健体育の授業で成人した男女がどんなことをするかは習っているが、それでもこうした動画だと迫力というものがまるで違う。
「これは性的娯楽の一種だから」
そうしたものが存在することは一応、知っている。
閲覧が許されるのは成人だけのものだ。
ただし反人権的な内容はもちろん禁止されているので、愛しあう男女が互いの意志で性行為を行うものが多いらしい。
しかし、これは明らかに違う。
まず相手を無抵抗にさせるために鎖で拘束している。
もうこの時点で反人権的だ。
そして女性が嫌がっているのに、無理矢理、性的な行為を強要している。
こんな動画をたとえ成人向けとはいえ、製造したらただではすまない。
製作者は反人権的動画をつくったということで、絶対人権委員会に身柄を拘束されるはずである。
「言っておくけど、これは別に反人権的じゃないからね」
光が苦笑した。
「絶対人権委員会の理屈だと、これはあくまで『魍魎』であって人間じゃあないんだから。男どもがどうしようと自由」
露骨な性行為の動画に性的に興奮してはいるが、同時にひどい不快さも感じていた。
額に「魍」の字が刻印されているだけで、実際には人間の女性が悲惨な目にあわされているだけとしか思えない。
だんだん気分が悪くなってきた。
「こっからしばらくいろいろやっているだけだから、ちょっと時間飛ばすよ」
再生時間が二時間ほど飛ばされた。
すでに魍魎の女性の目は、魂が抜けたようにうつろになっていた。
二時間もの間、男たちの性欲のはけ口になっていたのだろう。
もはや全裸の体のあちこちに、男たちが吐き出した欲望の証がこびりついている。
もしこれが本物の人間だったら、と考えるだけでいやな気分になった。
「問題はむしろ、ここからなんだよね」
光の目が一瞬、愉しそうに見えたのは気のせいに決っている。
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