ノウハウ編 第3話 誰も幸せにしない狭い箱

これまで書いてきたように、日本社会の性は歪んでいて、そしてとても窮屈だ。


芸能人の恋愛結婚不倫ネタが出てくるとソーシャルメディアやゴシップメディアで顕在化するが、自分の生活には何の関係もないのに他人の性関係に関心を持ったり、表に出たゴシップだけを聞いて憤慨したりする人がたくさんいる。


特に不倫に過剰に反応する人は常に欲求不満で、彼ら彼女らは自由な性関係そのものに敵意を持っている。


独身男女の恋愛に嫉妬すればただの僻みだと笑われるが、不倫なら道徳を傘に着ておおっぴらにバッシングできるから、そういうネタを探してきては大騒ぎする。



しかし、自分でリスクを取って生身の異性と性関係を作ってきた人は、そうしたネタに反応する時、一様に「ははは、馬鹿だね〜」と一笑に付して終わる。


性とは当事者の問題であることを知っているからだ。



自由な性の関係を作る上で大事なのは、倫理ではなく信頼関係である。


性は悦びと快楽をもたらすが、それは人生における逃避の場にもなる。


成長か逃避かを選ぶのは個人の選択だが、逃避がもたらす心の重荷としての怠惰や心を焼く他人への嫉妬を抱え続けるのを避けたければ、多少の痛みを堪えても成長するしかない。



男女は恋愛とセックスでお互いを癒し、また傷つけ合いながら内省を繰り返し男性性と女性性を育んでいくが、それには中長期的な信頼関係を作ることが不可欠だ(第12話参照)。


そして、その信頼関係は二人の間で成立するものであって、第三者にどう見えるかとは関係がない。


これまでのエピソードで紹介したように、不倫やセックスフレンドというような関係でも信頼関係は成立しうる。


愛も信頼も悦びもない形だけの夫婦よりも、不倫相手のほうが人間として信頼できるということは普通にあり得るからだ。


もちろん、そうした関係を持つのであれば、現実的なリスクや既にある人間関係についてどうするかは当然考慮しなければならないが。



倫理や道徳とは人を正しい側と正しくない側とに色分けして裁くものであって、人を幸せにするものではない。


日本人の強すぎる道徳観は自分達を狭い箱の中に閉じ込めているが、その「誰も幸せにしない箱」の存在に気づけるかどうかが、豊かな性の悦びを得て成長していけるかを決める。


人生は長く、また出逢う異性も多様なので、倫理や道徳の箱の外に自分の必要な出逢いが落ちていることもあり得ることだ。



異性に限らず、縁がある人と信頼関係を作る際において最も重要なのは「敬意」だ。


自分は50人ぐらいの女性と関係を持ち、多股なども経験してきたが、男女のトラブルとして揉めたことは一度もない。


それは、相手の女性に対して常に敬意を持って接してきたからではないかと思う。



よく、付き合っている相手の心を繋ぎ止めたい一心でウソを吐いたり、金銭を渡す(女の子の場合は抱かせる)などの具体的なメリットを与える人がいるが、そういうのは相手への敬意を欠いている行為だ。


夫婦でも、結婚生活を維持したいがために経済的に依存させることで「妻の性や生活を買っている」男はたくさんいる。


相手を見ず、敬意を欠いた状態で形だけの関係を作るから、どちらかの心が離れた時に「そんなはずじゃなかった」とトラブルの火の手が上がるのだ。



目の前の相手がどういう人生を送ってきて、何を考え、何を大切にして、これからどんな人生を送りたいのか。


そのことをいつも考えて自分なりに精一杯対応してきたから、本当の望みを叶えてあげられなかった不完全な自分でも、女の子達は許してくれたのではないかと思っている。


相手のことを考えている振りをして自分のことしか考えていない人はいくらでもいるが、人生で「自分のことを本当に考えてくれる人」というのは非常に限られている。そのことが相手に伝わっていたのではないかと思う。



最初に出会った一人の異性と添い遂げることは理想としては美しいかもしれないが、それは現実には極めて稀なことである。


また、その理想を体現している人も、実際は裏で他の異性を知りたいという欲望や妬み、多くの異性を獲得できなかった自信の無さといった心の闇を抱えていたりする。



複数の異性と出会って、関係を作ってそこから学んで生きていく。それはとても自然なことなのだ。


そして、そうした営みの軸になるのが信頼関係の作り方だ。信頼関係という階段を登りながら、少しずつ性の歴史を積み重ねていくことが大事なのだ。



現在の日本では、男性の生涯未婚率が2割、女性は1割を超えており、そこから伺えるように異性との長期的な関係を作れない人もたくさんいる。


ネットを見ていればわかるように、彼ら彼女らの世界は常に他人や自分を責めており、とても狭く寒いものだ。


残念ながら、こうした人は今後より増えていくと予測されていて、この灰色の世界は日本ではより大きくなっていくだろう。


もし自分がこうした世界に取り込まれて孤独に生きたくなければ、まず幼稚なスペック論や、せせこましいメリットデメリット論、そして人をさばくためだけの倫理といった「誰も幸せにしない狭い箱」の存在に気づくことだ。


そして、自分の判断でリスクを取り、目の前の相手を見て信頼関係の中で性の悦びを得ながら成長していくという考え方を持つことが重要だろう。

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