ノウハウ編 第2話 セックスフレンドのススメ

自分にとって、同性の先輩として女性について教えてくれたのは、顔も知らない人だった。


それは性のブートキャンプの鬼軍曹(第2話参照)のセックスフレンドだ。



鬼軍曹とその彼はいわゆる腐れ縁で、自分と彼女が男女の関係にあった当時で既に20年以上の付き合いがあったそうだ。


彼とはつかず離れずで、出会いたての学生時代にすったもんだありつつ正式に付き合っていたがすぐに別れて、その後何年もして彼女が離婚してから関係が復活したそうだ(本当は離婚前に関係を再開したのではないかと思っていたが)。


若い頃は彼のほうがぞっこんだったが、関係が復活してからは彼の二股状態で、彼女は本命ではなく、いわば「都合がいい女」として抱かれていた。


そのあたりの関係性のねじれはまさに男女関係の妙といったところだが、二人は精神的には強く結びついていて、鬼軍曹の辛く不安な作家生活や離婚後の精神状態を支えているような相手だった。


彼女は、よく「彼は本当に家に来て私を抱くだけなの。それ以外に男らしいことは全くしないの。でも、それでも私にとっては大切な人なの」と言っていた。



自分は彼女を満足させることはできなかったが、その彼に抱かれると、相手が早漏にも関わらず自分もすぐにイッてしまう、と言っていた。


ちゃんと付き合っているパートナーに対して他の異性の話をするのはとても失礼なことだが、鬼軍曹と自分は対等な関係ではないということがお互いに了承されていたので、自分は若干嫉妬しながらも、ピロートークの間に彼女が饒舌じょうぜつに話す彼の話をよく聞いていた。



彼女が話す彼との入り組んだ「縁」の話は、巷で受け入れられている分かりやすい男女関係とは違っていたが、その語り口はリアリティとしみじみとした感情に満ち溢れていて、素の男女関係をありありと浮き彫りにしていた。


彼女は、昔と違って彼に対して選ぶ立場ではなく、どちらかと言うと選ばれる側、待たされる側で、力関係的に片思いに近い状態になっていたため、相手に伝えられない感情を吐露する話相手として、身体の関係にある自分にしか話せないものがあったのだろうと思う。


時おり、並行して抱かれている彼と比較として「なんであんたはこんなにヘタクソなのかしらね?」と言われていたが、こっちはこっちで20年選手と比べられてはたまらない、という気持ちもあった。


ただ、女性の生理周期を把握したセックスのタイミングや、彼女が落ち込んだ時にはとりあえず抱きに来るなど、女性の繫ぎ止め方にはとても学ぶものがあった。



また、「あの人とは触り方が違うのよね」という彼女の一言で、女体は指の先ではなく指の腹で触るものなのだ、と学んだり、「彼はあなたと違って早漏だけどそれもいいのよね」という言葉で女性と一緒にイクことが大事なのだ、というテクニック的な面も大いに学ぶことができた。


(当時、自分は独身男性にありがちな問題として、力を入れすぎたオナニーをやりすぎて遅漏になっていたのだった。これが原因で膣内射精障害に陥っている男は多いと思う。)


さらに、彼女が彼に抱かれた後は膣が頻繁に抱いている自分にではなく彼に最適化アジャストされているのを感じて、「ああ、女の子は好きな男に身体が最適化されるんだな」と切なく学んだりもした。



性の伝授をしてくれた「先輩」("兄弟"でもある)は顔も名前も知らないが、他の誰にも教えられないことを特定の女性を経由して教えてくれたのだった。



鬼軍曹と別れた後もこのことはずっと残っていて、セックスをする時はいつも女の子に自分が学んできた性の歴史を刻みこむことを念頭に置いている。


自分がセックスする時に手を抜かないのは、そうした想いもある。


女の子が自分とセックスすれば気持ちいいのはある意味では当たり前で、それは川の下流の石が多くの岩とぶつかって丸く磨かれていくように、自分の女性観やセックステクニックも、幾多の女性によって磨かれてシェイプされているからだ。



もちろん、女性は性に関しては遥かに男性よりもプライドが高いので、言葉で過去の女性や性の遍歴を語ることはしない。付き合っている女性に性経験を語る男ほどダサいものはない。


しかし、言葉にせずともそうしたものは技術や身体を通して伝わるし、相手の身体にも残って他の男にも伝わるのだ。


7歳年下の彼女(第8話参照)が別れて何年もしてから会って語ったところによると、自分と別れた後に付き合った男達のクンニや挿入に満足できなくて、「元彼のあの人はこんな風にしてくれた」とよく指導したそうだ(笑)。


曰く、「あなたには全然及ばなかったけど、それでもだいぶマシになった」とのことだ。その男達とは別れたそうだが、彼らは彼らで別の女の子と性的に繋がり、経験を広げていくだろう。


良い性の経験とは人生の資産である。その資産は、さらに良い性体験を生む。



セーフセックス信仰の日本では、誰にでも話せる「ちゃんとした関係」が良しとされて、性を基軸とした男女関係である「セックスフレンド」は侮蔑的な響きを伴っている。


しかし、性の考え方が進んでいる英語圏ではこうした関係は "a friend with benefits"(具体的なメリットのある友人)として表現されており、付き合っている人がいないときにそうした相手がいることはそれほど不自然なことではないとされている(もちろん個人のレベルでは考え方は多様だが)。



セックスでは、それを経由しない間柄では学べないことがたくさん学べる。また何より、性は苦難の多い人生における数少ない癒やしの方法でもある。


特に日本人の女の子はマジメなのでこうした関係を忌避しがちだが、つまらない道徳観に囚われず、関係性が自由な若い頃は品の無い「ヤリマン」や「ヤリチン」にならずとも、性を通じて教え合う異性とじっくり性を愉しむのは良いことなのではないかと思う。

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