第15話 二人の最愛の女性
久しぶりに付き合い始めた彼女は、とにかく付き合いやすかった。
同い年で感性が非常に近いので、何をするにも違和感がなく、また彼女も歳相応の恋愛経験で男というものをよく知っているので、若い女の子のように自分勝手な都合をやワガママを押し付けるようなことをしなかった。
彼女も機能不全家庭の子だったが、そのことは自分で乗り越えており、実家のマネジメントは適切にできていた。
仕事面では、職場での過酷な職務で身体を壊してドクターストップで配置換えを経験し、自分を付き合い始めた頃にちょうど楽な状態になったところだった。
これまでの恋愛経験でもそうだったが、人は過酷な状況を経た後によいパートナーが見つかることが多いようだ。
辛く孤独な状況を耐えぬいて、フッと肩の力が抜けた頃に、いい異性と出会うのだ。
(自分が「いい異性」かどうかはわからないが、彼女は幸せそうなのできっと大丈夫だろう。)
今までそれなりに同性異性の多くの人を見てきたが、過酷な状況から逃げる人、過酷な状況を他人のせいにする人というのは、いつまで経ってもいい縁が訪れることはない。
男女ともに30を過ぎると、仕事、恋愛、家庭の事情などで否応なしに過酷な状況に巻き込まれる。
それで30代前半は泥の中を這うような状態に陥る人が多いが、そこをどう乗り越えるかで人生の後半戦が決まってくるのだろう。
そして、特に日本のような社会では、女性は特に厳しい状況に置かれる。
社会が幼稚なので成熟さが評価されない反面、仕事では男と同様のアウトプットを求められる。
恋愛市場での評価は下がっているが、仕事に生きたところで、男女差別が当たり前の日本では男と同じような金銭的利益を得ることは難しい。
出産の年齢的なリミットも迫っている。
こういうシビアな状況に追い込まれるのが、30代の女性だ。
20代までの女性は、日本社会の過度に若さが評価される幼稚な消費主義に乗っかって勘違いをし続けることもできるが、こうした虚飾に乗っていては30代は何もできない。
こうしたナンセンスな現実を実体験としてよく理解しているのが、30代の女性なのだ。
また彼女たちは経験で男についてもよく知っているので、過度な期待をすることも無い。
つまり、ある意味でとても優しい。そして、身体が成熟しているためセックスがとても良い。
恋愛相手としての30代女性は本当に素晴らしいと思う(もちろん何事にも例外はあるが)。
ただ、彼女達は恋愛が始まると、それが「人生最後の恋」だと考えがちだ。
出産の年齢的なリミットが迫っているからだ。
彼女たちと付き合うには、男にもそれなりの心の準備が求められる。
しかし、これは結婚や子を持つことを考えている自分にとっては、むしろ望むところでもあった。
同い年の彼女とは感性や考え方の相性が良く、優しく、セックスの相性も良かった。
結婚相手として相応しいかどうかは、本当に信頼できる相手かどうかだけだった。
そのことがわかる機会は、案外早く来た。
付き合い始めて1ヶ月が経とうとした頃、仕事で少し大きな入出金のやり取りをミスってしまったのだった。
一時的に少し借り入れることでカバーできる金額だったが、日数的に手続きが微妙な状況になってしまっていた。
その時、この子に借りてみたらどうだろう、と思ったのだった。
しかし客観的に見れば、出会い系で知り合ったばかりの男が30代の女性にそこそこの金額を借りる話なわけで、ハッキリ言って一番ベタな詐欺の手口そのままだった。
彼女には会社の情報などは知らせていたものの、それも偽装しようと思えばできないことではない。
自分の妹や女友達が相談してきたら、あり得ないから断れ、と返す案件だ。
申し出をしたところ、彼女は一瞬考えたものの、すぐにOKを出してくれた。
ああ、この子は自分を信じてくれるのだ、とその時に思った(もちろんそのお金は少しだけ上乗せしてすぐに返した)。
口で「あなたを信じます」と言う人でも、実際にその証拠としての行動を起こす人は少ない。
そのことは、仕事の経験でもよくわかっていたことだった。
また、恋愛において、女の子が損をするかもしれない行動を起こさせるというのはルール違反でもある。
しかし、その時はそうした行動が自分には必要だと思えたのだ。
そして、彼女の答えを聞いたとき、自分の中で相手との結婚は決まったようなものだった。
彼女との付き合いはその後もうまく行き、自分の習性に従って相手の家に転がり込み、シングルベッドで毎晩のようにセックスをしていたら、子供ができた。
彼女は仕事のストレスで生理が止まっていて、回復後すぐの妊娠だったので、医者もびっくりしていたほどだ。
子供が出来たことがわかると、すぐに籍を入れ、出産に備えて引越しをした。
娘は、あと2ヶ月ほどで生まれる予定だ。
子供が出来たとき、性別は女だろうなと思った。
実際に娘だったが、このことはとても自分としてとても腑に落ちる。
これまで、自分は本当に多くの女性に支えられて生きてきた。
自分は本当に大した人間ではないが、女の子のことは本当に心から愛していて、特に自分と深い関わりになった女性たちには本当に感謝している。
楽しいこともたくさんあったが、綺麗事ばかりではなかったので、喧嘩したり、おそらく自分の行動が原因で恨まれたりしたこともあるのだろうと思うが、それも含めてみんなのことは愛してきた。
そこについては、掛け値なしの真実である。
妻はこれからの人生のパートナーとして信頼関係を作っていけると思うし、娘については、いくら愛しても良い女性として、よく生を受けてくれたね、と思う。
散々たくさんの女の子とセックスをして中出しもしてきたのに、このタイミングで初めて子を持つことはつくづく不思議に思うが、同時に必然性も感じる。
多くの女の子を愛してきた結果として生を受けた子なのだ、と思うからだ。
これまでの女性遍歴を振り返ることで、これから、二人の女性を愛していければいいな、と思っている。
(終わり)
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