第14話 四人の結婚相手候補

幼馴染との別れから1年、オーガズムクィーンの暖かさを感じつつ、自分の人生を振り返ってようやく整理をつけることができた。


ちょうどその頃、仕事の過労で一ヶ月寝込むことになり本当に死ぬかと思ったが、事業は朧気おぼろげながら形を成すようになっていた。


ようやく人間らしい生活を送ることもできるようになり、人生のパートナーを得たいと考えるようになった。



これまでの経験で、「パートナー」を探す上で一番低コストで精度が高いのは、出会い系サイトだと知っていた。


離婚後のカジュアルな出会いや恋愛は、どちらかというとソーシャルメディアで興味を持ってくれた子と会って関係を持つことが多かったので、出会い系サイトは6-7年ぶりに本格的に使うことになった。



前妻と出会った2000年代前半はようやく世間的に出会い系サイトが認知されるようになっていた頃で、まだ女の子が大っぴらに「ネットで会った」と相手を紹介できるような雰囲気ではなかったが、それでも自分が始めた90年代後半のネット黎明期の頃よりは男女比が大幅に改善されており、体感的には7:3ぐらいの割合になっていた。


それが、2010年代に入って改めて久しぶりに登録してみると、男女比はさらに大幅に改善されて5:5ぐらいになっており、街で見かけるような普通に可愛い女の子がたくさん登録していて、とても驚いた。


テキスト情報を元に「地雷強度の人格障害」を避けながら少ない候補の中から相手を選んでいた頃と違って、Amazon で欲しい商品を選ぶように大量の可愛い女の子の画像を見ながらタイプの子を選べるのだ。


昔の出会い系サイトの惨状を知っている自分からすれば、この状況は本当に天国のようだった。



ちなみに、自分がこの時登録していたサービスは下記の3つだ。



Match.com(マッチ・ドットコム) : 世界最大級の恋愛・結婚マッチングサイト

http://jp.match.com/


Omiai - Facebookで安心安全に出会える日本初&最大級の恋活アプリ、登録無料

http://fb.omiai-jp.com/


pairs(ペアーズ) - Facebookを利用した恋愛・婚活マッチングサービス

http://www.pairs.lv/


他にも出会い系サイトはたくさんあるが、月額定額でなく従量式でポイントを売り買いできるようなところは半プロ援交の巣窟なので、マトモな出会いが欲しい人にはオススメしない。



マッチ・ドットコムは前妻と出会ったサイトでもあり、かなり歴史が古い。


UI は正直言って古臭く、お世辞にも使いやすいとは言えない。


web サービスを作っている自分としてはいい加減にアーキテクチャから見直せよ、と思うほどだが、ここで出会う子はとてもレベルが高い子(身持ちが良く、性格がマトモな子)が多いという経験則を持っていた。


ただ、レベルが高い相手とはちゃんと付き合う必要があるので、それなりの心構えは必要だ。



Omiai と pairs は登録で Facebookアカウント を利用するということもあり、今風の作りでメールを一生懸命書くというよりはメッセージのやり取りがベースで、とても楽だ。


しかも、敷居が低いので可愛い子がざっくざっくいる。多くの女の子にとっては、長文でメールをやり取りするのは敷居が高いことなのだ。



UI が優れているのは pairs だが、いい子に会える確率が高かったのはなぜか Omiai のほうだった。


いい恋愛相手を探すのに、UI はそれほど関係がないらしい。これもプロとしては意外だった。



未だに一般的な出会いとされている合コンや友達の紹介、結婚相談所で恋愛や結婚相手を探すと高コストで精度が低いが、高度情報化社会インターネット時代の力を活かした出会い系サイトなら、低コスト(月数千円)で自分のペースで利用できる。


何しろ仕事が忙しくても、いい異性を見つけることが可能なのだ。



どのサイト(アプリ)でも普通の可愛い子がたくさんいることにとても驚いたが、やり取りが普通に続いてデートまで簡単に行けることにも驚いた。


市場の成熟とはこういうことなのか、と感激した。


自分が探していた相手の年齢層は主に20代後半から30代半ばぐらいまでだったので、その年頃の女の子はパートナー探しに意欲がある人が多いということもあるが、デートのアポは次々と取ることができた。



男のバツイチはモテる。


何しろ、一人の女性が「人生を賭けよう」と思った保証付きだ。


同性から見ても、30代半ばを過ぎて未婚の男や3回以上の再婚をしている男は問題があることが多いが、バツイチはモテるし、フリーになってもすぐに売れていく。


(ちなみに、女性もバツイチの子はいろいろ男を理解しているのでいい子が多い。)



こうした恵まれた状況ではあったが、カジュアルな関係でもいいと思っていたそれまでとは違って、すぐにはセックスをしないようにしていた。


セックスをすればお互い情が湧き、パートナーとして相手を適切に見極めることができなくなる。



それまでの恋愛と結婚と離婚で、よいパートナーというのは、下記の点が重要であることを学んだ。


・身体が合う

・見た目が好み

・性格が優しい

・信頼関係を構築できる



やはり、男女というのは身体が合うことが大事だ。男女は身体的な仕組みアーキテクチャが違うので、物事の考え方や感じ方も異なる。


それを乗り越えるためのコミュニケーションがセックスだ。


少々意見が合わないときでも、セックスをすれば「まぁいいか」となる。逆に、欲求不満の状態では相手の一挙手一投足がイライラの対象になったりもする。


これは、他のカップルを見ていても学べることだ。



ちなみに、身体が合うかどうかは匂いを嗅いだり、キスをするだけでもわかる。


いい匂いの相手、キスをすると興奮する相手は正解だ。


また、男性の場合は身体が合えば精液が出る量が全く違うし、もちろんこなせる回数も変わる。女性の場合も濡れ方やイキ方が違うので、身体の相性は子供を作る際にも大きな影響を与える(生物学の本によれば、女性がオーガズムを感じる相手は妊娠率が高まるらしい)。



もちろん、見た目も重要だ。


世間的に可愛いとかカッコいいとかはどうでもよくて、自分の好みかどうかがポイントだ。若いうちはこの違いがわからない。


仮に結婚することになれば、シワシワになるまでその顔を毎日見ることになるのだから、いくら他人から評判が良くても、自分の好みでないと耐えられないだろう。


ただ、身体が合う相手というのは大体見た目も好みだったり、そのうち好きになったりするので、そういう意味では身体の相性に含めていいのかもしれない。



また、世知辛い昨今では軽視されているようだが、性格が優しいというのも、とても重要な要素だ。


“The Naked” というナショナルジオグラフィックの番組がある。


この番組では一組の裸の男女が協力し合ってジャングルや無人島でサバイバルをするが、批判的な女や攻撃的な男がパートナーだと、サバイバルの成功率は急激に下がる。


相手の欠点や失敗を許容できない異性とは一緒に暮らすべきではないのだろう。


仮に見た目がとびきり好みで、セックスも合う異性がいたとして、その相手の性格が最悪だったとしたら、その生活はやはり最悪なものになるだろう。



そして、一番難しいのは信頼関係を構築できる相手かどうかだ。


前の結婚は自分が一番しんどいときに相手が見捨てる結果になることで、崩壊してしまった(その出来事自体には、今は納得しているし、責める気持ちなどはないのだが)。


自分は他人を見捨てることはしないが、相手はそれをしないかどうか。


うまく行っているときにはその部分は見えないので、この部分の判断が一番難しい。



そんなことを考えながら、いろんな相手に出会う中で4人の結婚相手候補が見つかった。



一人目は、28歳のFカップの女の子。


この子は、出会い系サイトではなく、幼馴染に出会う直前に知り合った後、しばらく音信不通になっていた子だった。


幼馴染と別れた後にコンタクトを取ろうと思ったが、相手はスマホを紛失してLINEを入れ替えていたため、連絡が取れなくなっていた。


結婚相手を探そうと思ったときに連絡が復活して、また会ってセックスするようになっていた。


身体の相性も良く、見た目も篠崎愛ちゃんのようで可愛かった。


とても良い子を産みそうな子だったのも良かった。



二人目は2つ上のオーガズムクィーンだ。


1年間さんざんセックスをして、彼女は不倫関係を解消しており、正式に彼氏として付き合って欲しいと打診された。


セックスの相性は言うまでもなく、また家柄が非常に良く、本当の富裕層の考え方を持っていた。


頭もとても良く、学べることは多かった。



三人目は、3つ下のコンサルタント。


日本語と英語、スペイン語の3カ国語を操る、まさに才媛さいえんといった感じで、誰でも知っているコンサルティング企業に勤めていた。


年収は4桁万円を超えているエリートだが、職業や年収を傘に着るようないやらしさは全くなく、彼女も連れて歩いていると人が振り向くような気品を持っていた。


デートを重ねてもセックスはしていなかったが、キスで身体の相性は確認していた。


彼女は恋愛には慎重で、許すときは全てを許すタイプだった。



どの子と付き合っても、どの子と結婚しても、幸せな人生が送れるだろう。


この三人でどの子がいいか非常に頭を悩ませていたが、なぜか決め手に欠けていた。


自分は女の子と付き合い始めるとき、「お告げ」のようなものがあるのだが、なぜか今回はまだそれが訪れていなかったのだった。


そんなとき、もう一人の候補が現れた。



その子は同い年の会社員で、自分と同じIT系の業界で、有名企業に勤めていた。


メッセージのやり取りではそれほど印象には残らなかったが、アポが取れたのでデートをすることにした。


すると、当日ギリギリになってドタキャンになり、ああこれはダメだな、と思っていた。



普段ならデートをドタキャンした相手とやり取りが再開することはまずないが、なぜか相手からまた連絡があり、再度デートをすることになった。


それが、相手の誕生日だった。



第一印象は少し太っているなと思ったが、目がとても可愛いな、と思いながら話をした。


初めて会ったにも関わらず、まるで古い知り合いのように話が盛り上がり、帰り際に「この子とセックスしたいな」と思ってキスをした。



すると、相手は膝がガクガクするほど興奮してしまい、想定はしていなかったが、近くの古臭い昭和なホテルに入ってセックスをすることにした。



さて、クンニをしますよ、と舐め始めたら、あろうことか、なぜか「自分と同じ味がする」と思った。


もちろん自分のモノを舐めたことがあるわけではないので、どうしてそう思ったのか未だに不思議だが、とにかくそう思ったのだった。


そして、挿入してみると、幼馴染のときのように、全く違和感がなく身内のような感覚でびっくりした。


他にそんな子がいるとは思わなかったからだ。



そして、彼女にも、初めてであるにも関わらず、「中で出していい?」と訊いてしまった。


相手も「いいよ」と返して、中に出した。



セックスして落ち着くと、相手は仕事のストレスで生理が止まっていることを打ち明けた。


会社で仲間のリストラに関わる処理の一切を、彼女は引き受けていたのだと聞いた。


太ってしまったのは、そのストレスだろうと思い、それがとても愛おしく感じた。


自分は幼い頃から家庭で精神的な支柱を担い、女の子から父性を求められることが多かったが、仕事でも同様に誰も引き受けたがらないものを引き受けることが多かったからだ。



次の日は二人とも仕事だったので、一緒に服を着て、外に出ることになった。


その時に二人で初めて気がついたのだが、二人とも同じ色のジャケット、同じ色のシャツを着て、同じ柄のパンツを履いていたのだった。


顔を見合わせて笑ったが、そのときに、付き合うのはこの子かな、と思った。


「お告げ」が来たのだった。



ネットでかまびすしい「スペック」で選べば、自分は他の子と付き合っていたかもしれない。


しかし、自分はこれまでと同じく、「お告げ」のほうを信頼することにしたのだった。

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