第13話 オーガズムクィーン

幼馴染との関係、そして自分の過去を整理するのに約1年を要した。切り替えの早い自分としては、これは極めて異例な事態だった。


その間、仲間のお陰で仕事は進んではいたものの、明確な成果は出せておらず、私生活は極めて貧乏で孤独で苦痛に満ちていた。


それは必要な時期ではあったが、最中は寒く真っ暗な洞窟をいつまでも一人で歩いているような気分だった。



そうした暗い時代に、一人、自分を支えてくれた女性がいた。


最初に書いた、一晩で数百回もイケる女性だ。


彼女のことは、オーガズムクィーンと呼ぼう(本人は嫌がるだろうが笑)。



彼女とは、ソーシャルメディアのつながりで飲み会に行ったときに知り合った。


当時は一日200円の食費で生きながらえていたが、週に1度の交際費だけは確保してあった。


その飲み会は仕事関係ではなく、共通の知り合いが参加する気軽なものだったが、気晴らしとして参加した。そこで、相手が自分に関心を持っているようだということに気づいた。


年齢は二つ上でストライクゾーンには入っていたものの、精神的に異性と付き合う余裕はなく、また幼馴染との関係を内面的に整理している最中だったため、こちらから積極的に仕掛ける気分にはならなかった。


基本的に女性が興味を示していても、決定打を打つのは男の仕事だ。



が、二人で飲み直している時にあからさまに誘われてしまったので、これは受けなければならないだろう、ということでホテルに行くことにした。



自分には、女性とのデートに関して、3つのルールがある。


一、アポを取ったデートは相手が好みでなくてもちゃんと最後まで失礼の無いよう付き合うこと


一、フリーのときに据え膳をされたら、ちゃんと美味しくいただくこと


一、セックスをするときは必ず誠意と全力を尽くすこと


その時は持ち合わせがなかったので、安ホテルで割り勘にしてもらったが、相手は気にしていないようだった。



女性とのセックスで大事なのは、(精神面での気遣いはもちろんとして)適切な神経を適切に興奮させることだ。


女性はタイプの男性とセックスすることになると、次第に気分が高まり、キスや言葉によって徐々に受け入れ態勢へと移る。


社会的な生き物としての人間から、メスへと変化していくのだ。


そして、今度は男性が適切な部位を刺激することで神経を興奮させ、受け入れ態勢をさらに加速させていく。


「上手いセックス」とは、いかに相手の脳や神経を一つのシステムとして興奮させるかにある。



いわゆる性感帯と呼ばれる、感じやすい部位はもちろん人によって異なるが、それを相手の反応によって察知して、メスとして重要な生殖に関する部分を興奮させることが重要だ。


その重要な部分とは、「太陽神経叢」と「丹田」だ。


ヨガに詳しい人にはとっては基礎知識だが、太陽神経叢と丹田は人間に7つあるという重要なチャクラのうちの2つだ。



チャクラは西洋医学的に言えば神経の塊(神経叢)だが、女性には子宮の周辺からクリトリスまでにかけて、前面に広い神経叢がある。


これを、クンニやマッサージ、挿入で少しずつ温めながらほぐしていくことが大事なのだ。


会話や食事で上から満足させ、さらにセックスで下から満足させると、あるときにそれらの神経叢や脳が一体となって神経の情報量がバーストして、イクのだ。


ある面において、女性のオーガズムとはコンピューターのハングアップに似ている。



女性は性的に成熟してくると、これらの神経叢が発達してイキやすくなるが(若い女性がイキにくいのはこれが未成熟なためだ)、時々、この神経叢の発達度合いが特異な人がいる。


オーガズムクィーンは、そのタイプの女性だった。



自分は女性の身体が「読める」ので、少し身体を触っただけでその人がどんな仕事をしているか、どんな身体の癖があるか、食生活はどうか、生理周期はどのフェーズかなどが分かるが、最初にクンニでクリトリスに唇を付けたときに、相手が極めて左右のバランスがいい身体をしていることに気がついた。


相手は初めてのセックスでイッたので、イキやすいタイプだなというのはわかったが、一晩で回数を重ねるうちに何度も立て続けにイクようになった。


さらに、筋肉質で体幹も鍛えられており、何度でもイケる体力を持っていた。イケる神経叢を持っていても、体幹が弱いために回数や快感の深さや余韻を楽しめない子は多い。


これは本物だ、そう思った。



彼女は一人の男と不倫しており、また自分もパートナーを探す状態ではなかったためカジュアルな関係ではあったが、頻繁に会ってセックスするようになった。



前回書いた通り、恋愛とは男性性と女性性を育む関係である。


不倫相手は彼女に母性を投影しており、彼女は彼女で父性に課題があった。不倫という関係性を選ぶことで、傷つくことから身を守っているのだろうと理解した。


しかしまた、多くの不倫は男が自分の人生から逃げていることを示してもいるので、その関係が実を結ぶのは難しいだろうとも考えた。


ただ、そのことはあえて言わず、会ってセックスして他愛もない会話をする関係が続いた。



他人の人生に踏み込むのは傲慢なことだ。


若いうちは自分の人生もままならないくせに、「愛があれば相手を変えられる」と勘違いしがちだが、自分は多くの恋愛と苦い離婚を経験して、それはただの思い上がりであることを身を持って学んでいたのだった。



ただ、女性は「メスとしての自分自身」には嘘がつけない。


自分とセックスを繰り返して肌が合うようになってくると、一晩数十回、そして数百回とイクようになり、次第に他の男を受け入れられなくなっていった。


挿入しただけでイクようになり、何度か抱いて身体を温めると乳首を刺激するだけでもイクようになった。「なんでこんなに気持ちいいの??!!!」と絶叫しながら、痙攣でのたうつ身体で自分のモノを貪る様子は見ていて最高だった。


ただ、あまりにも声が大きいので、セックスする場所を選ぶのが少し大変という課題もあった(笑)。壁の厚いラブホでも、彼女の絶叫は廊下まで漏れていただろう。



付き合っていたわけではないが、彼女は不倫の男と別れ、定期的にセックスする相手は自分だけになった。


そして、抱いていく中で、次第に彼女の中の男性性と女性性も癒えていくのが分かった。



セックスでイッている女性は、まるで新生児のようになる。


個人として経験で学んだり身につけたりした理性の部分を全て捨てて、自分の感覚だけで世界に包まれる。


本当に安心していないとこうした状態にはならないが(若い女性がオーガズムに達するのを恐れるのはそのためだ)、セックスでイクことで新生児の感覚に戻り、自分を再統合していくのだろう。



自分にとっても、そんな異性と肌を合わせることは、寒くて暗い洞窟を進むときの懐炉のように、とても有難いものだった。


こうした支えによって暗い時代をどうにか切り抜け、自分の中の幼馴染との関係が整理できた頃、生活も徐々に立て直すことができるようになった。



自分も新たなパートナーを得よう、そう考えた。

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