第6話 外国人と名器
3年付き合った看護師、1年付き合った人妻との経験は、自分に「甲斐性」という新たな課題を突き付けた。
恋愛には賞味期限があり、男女が別れずに先のフェーズに行くには、やはりそのタイミングで甲斐性が求められるのだ。
女性には妊娠適齢期がある以上、これは生物学的に仕方のないことだった。
しかし、甲斐性というのは一朝一夕で身につくものではない。
まずは自分の道をよく考える必要があった。
ちょうど人妻と別れた頃、修士の研究が大詰めになっており、調査で長期海外遠征に行くことになった。
どうせ海外に行くならと、日程には旅行的な要素も含めて、たくさんの国を訪れた。
行く先々ではドミトリーの安宿に泊まり、そこに集まる各国の女性や、街で現地の女性とも接点を持った。
よく、「日本人男性はモテない」という話を聞くが、実際には全くそんなことはないと思う。あれは国内でもモテない男が自分を正当化して言っているのだろう。
単純に言葉の問題で怖気付いているだけで、コミュニケーションを取ってみれば、外国人も普通の女性だった。当たり前だが。
確かに日本人男性はエスコートが下手だが、あれはある種の礼儀作法のようなものなので、ちゃんと身につければ問題ない。人間的な優しさとは別だ。
自分はなぜか、オランダ人やドイツ人など、デカい系のヨーロッパ人に好意を寄せられた。
彼女たちは性的にも自立していて、セックスに至るのはそんなに難しいことではなかった。
その遠征では、オランダ人、ドイツ人、イスラエル人、スペイン人とセックスをした。
ひとつ印象的だったのが、彼女たちの性的な興奮というのはまさに「発情」という感じで、(後に30代の女性と多く関係を持つようになるまでは)女性がそうなっている様子を見たことがなかったので、「さすが肉食だな」と思ったのを覚えている。
オランダ人、ドイツ人は骨格のパーツが大きかったが、それ以外の部分では意外にも(と言っては失礼だが)日本人の女の子と違和感なくセックスすることができた。
よくある洋モノのAVみたいなアクションをしないといけないのかな、と思ったりもしたが、いつも通りやったら満足してもらえたようだった。
彼女たちもある種の物珍しさを感じていたのかもしれない。
スペイン人の女性は激しいと聞くが、実際に一晩中騎乗位で大騒ぎして、あとでドミトリーの外国人から「おいおい、勘弁してくれ」と苦情を言われたりもした。
(そのときはドミトリーの個室を借りてセックスしたのだった。そのスペイン人女性はすごく良かったのだけど、言動がちょっとメンヘラっぽかったので一晩きりで終わりにしたが。)
イスラエル人はハリウッドのモデルのような女の子で、ナチュラルな金髪は陰毛も金髪なんだ、と思った。
彼女は元彼が日本人で、それ以来、日本人男性以外とは付き合う気になれない、と言っていた。彼女は日本人の控えめなところ、本質的な意味で優しいところが好きだ、と言っていた。
脚が長かったので、立ってバックをするときは少し腰を落としてもらう必要があったのを覚えている。
帰国後も、かなり貧乏だったが何人かと関係を持っていた。
一人、「これは本物の名器だ」という子がいて、指を入れるとウネウネと自然にひだが絡みついてくるような子がいた。
その後50人ほど女の子を抱いたが、相性のいい子はたくさんいたものの、天性の名器と言えるのはこの子だけだ。
この子ともセックスしまくったが、ある晩の事後、彼女は池袋のラブホのベッドの端に背を後ろに向けて腰掛けて「私、中絶したことがあるの」とつぶやいた。
理由などは深くは訊かなかったが、身体を重ねると、女の子は普段話さないパーソナルヒストリーを話すものだ。
自分は中絶を明確に殺人だと思うし、子を持つ身となった今はより一層考えられないが、世の中にはいろんな事情があり、中絶というのは現にたくさん起こっている。
昔、ある政治家が「中絶した女は具合がいい」というようなゲス発言をしたと言って週刊誌で吊るし上げられていたが、確かに中絶経験のある子はよく動く性器の持ち主が多かった。
出産経験がある子は大体奥が感じやすくなり名器になることがあるが、筋肉の関係か、逆に締りがよくなくなるケースもある。
その辺りの知見から、本人が頭でどう考えているかは別にして、中絶した子の身体は子を失ったことをよく覚えていて、それを取り戻したいと思っているのではないだろうか、と思ったりもした。
女の子は、特に若いうちは、心と身体がバラバラだ。
妊娠する、つまり他者の生命を自分の身に宿す、というのは大変なことである。その習性を逃れられないものとして受け入れるには時間と経験を必要とする。
性に関していろんなことが歪んでいる日本では、女の子にとって性を通じた自我の統一というのは難しいことなのかもしれない、と思った。
(ちなみに、その名器の子は男が早漏になってしまうことと、一度セックスすると相手がストーカー化することに悩んでいた。彼らの気持ちは確かによくわかる。才能とは呪いでもある。)
カジュアルな恋愛、というよりは束の間の男女関係を続ける中で、研究の道を志すことはやめ、ビジネスの道に進むことにした。
研究には金と時間がかかりすぎる上に、日本の行政は「職業としての研究職」を若者の人生設計の観点では一切考えていないことが分かったからだった。
現在は小保方問題などでようやく表面化しているが、少子化で大学の研究ポストが限られているのに、文科省は年寄りを食わせるために修士博士を乱発して、若者を養分として犠牲にしていたのだった。
自分が目指すポストには、20人近くもの先輩が列をなし、40を過ぎても非常勤講師とバイトを掛け持ちしてフラフラしている人がたくさんいた。欝になったり、行方不明になった人の話もよく聞いたりした。
そんなわけで、自分はこうした将来性のない業界に見切りをつけて働くことにし、甲斐性と人生のパートナーを得るフェーズへと入っていったのだった。
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