少年と祝福2『諦め早いな!』




「シミラーというのは何者だ? お嬢様を狙っていたのは当家の騎士だったダイアンだぞ?」


 エヴァンジェリンがずいっと出てきて少年に言う。


「ダイアン? あれ? 暗殺は防いだけど、あいつの能力は暴けないまま終わった感じ?」


「能力……?」


 ポカンとするエヴァンジェリン。

 俺も首を傾げる。


「シミラーは自分をいろんな姿や状態に騙して見せることができるんだよ。だから、ターゲットの身近な人間に成りすまして人気がないところで始末しようって作戦だったんだけど……。ん? これ言わないほうがよかったやつ?」


 いっけねーと舌を出す少年。

 口の軽いやつだ。

 こちらとしては情報が手に入るので助かるけど。


「じゃあ、本物のダイアンは裏切り者などではなかったのか……? あのときのダイアンは偽物だったのか……?」


「ま、そうなるんじゃない。でも、本物の行方を訊いてこないってことは本物の死体は見つかっちゃってるのかな? シミラーのやつ処理を適当にやったんだな」


 少年はケタケタと笑った。

 それはエヴァンジェリンたちを嘲るような笑い方だった。


「おのれ……その気色悪い笑いをやめろッ! 事実を知ったからにはダイアンの仇を討たせてもらうぞ!」


 エヴァンジェリンがブワっと殺気を放って剣を少年に向ける。

 すると、


「は? 今、気色悪いって言った?」


 黒髪の少年は笑うのを止めて真顔になった。




◇◇◇◇◇




「……だけっ……に……ったのに……んだよ……」


 少年がブツブツ言っているが聞こえない。


「グレン殿、やつは一体どうしたのだ……?」


「さあ……?」 


 エヴァンジェリンに剣を向けられてから少年の様子がおかしくなった。

 俺はエルフの耳をそばだててメッチャよく聞いてみる。


「こんだけイケメンに生まれ変わったのに……どこがキモいってんだよ……! ウザいな、思い通りにいかないの。ああ、胸糞悪い、こういう展開は本当にイライラする……」


 少年は爪を噛みながら激しい貧乏揺すりを始めた。

 どうやら、エヴァンジェリンの言葉は彼の心にある地雷を踏んでしまったらしい。

 この少年、顔の美醜に関して何らかのトラウマがあるのだろうか?


 ひとしきヤベー挙動を見せた後、少年はこちらを見て、


「ま、こっちの世界じゃウザいやつはぶっ殺してやればいいんだけどね?」


 ニチャァと歪んだ笑みを浮かべた。

 ふーん、全体のパーツが整ってても中身がアレだと顔って気持ち悪く見えるんだな。


「ふふ、僕のチートで軽く捻ってあげるよ。自分を強いと勘違いしてる現地人を圧倒的な力でプチッと潰してやるのってスゴく楽しいんだよね……」


 そう言って、気色の悪い内面を映し出すかのような表情で倒錯した趣味を公言してきた少年は――



 どんっ!



「ふぎゃっ」



 俺に撥ねられて宙を舞った。





 俺は彼の言葉に引っかかりを覚えていた。

 こっちの世界とか、生まれ変わったとか……。

 まるで異世界から転生してきたかのような言い草ではないか。



 まあ、それはそれとして。

 レグル嬢やシルフィもいるから、安全確保のために先んじて轢いてみたわけだが。



「ぐ……ふっ……。くそっ……! いきなり体当たりとかありえないでしょ! なんなんだよこの意味不明な物理魔法は!」



 辛うじて死なない程度になるよう強く撥ねたつもりだったのになぁ。

 少年は悪態を吐きながら普通に起き上がった。

 思ったより頑丈である。


「お前、ムカつくからマジ殺す!」


 完全にブチギレてますね。

 これは激戦になるかもしれん。


「でも、今日は痛いから帰る! 覚えてろ!」


「…………」


 帰るんかーい。

 諦め早いな!

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