少年と祝福1『フードを被った一人の輩』




「ぐあああああぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁっ!」


 仕事を成し遂げ満足していた俺の耳に断末魔のような叫びが響いてきた。

 何事だ……!? 声の聞こえたほうに振り向く。

 そこにはデリック君がフードを被った一人の輩に顔面を掴まれている光景があった。


 くっ、しまった! 

 まだ轢き残しがいたのか!


「く、くそぉおぉぉ! デ、デリックゥゥゥウウゥゥゥゥッ――――ッ!!!!」


 エヴァンジェリンが悲痛に叫んでいる。

 デリック君はまたやられてしまったんだな……。

 彼はいつもボロボロにされているような気がする。


 彼はそういう星の下に生まれているのだろうか?


「やれやれ、僕は念のため同行しただけなのに。トラブルに遭遇するなんて想定外だよ。面倒なことはしたくない主義なんだけどなぁ……」


 フードの輩はダルそうに溜息を吐きながらデリック君をポイッと地面に投げ捨てた。

 投げ捨てられたデリック君はよほど重傷なのかピクリとも動かない。


「捕獲係や街の担当者が行方不明になった地域だから紛れて様子を見に来たけど……まさかこんなチートエルフと鉢合わせることになるなんてね?」


 この輩、ローブで顔を隠しているが背の低さや声の高さ的に結構若いぞ。

 多分、十代前半くらい?

 だが、さっきまで相手をしていた輩どもとは明らかに放っているオーラが違う。


「君は何者なのかな? 魔法封じの粉も効いてなかったし、ちょっと気になるよね?」


 輩はバサッとフードを脱いだ。

 いや、あっさり脱ぐんかーい! というのは置いといて。

 フードの下に隠れていたのは日本人を懐かしく思わせる黒髪黒目の少年フェイス。


 エルフ基準でも悪くないと思える整った顔立ちだった。


「ねえ、あの連中は腕利きで鳴らしてたゴロツキ集団だったんだよ? それをあっさり蹴散らしてくれちゃってさ。代わりのコマを用意するのが大変じゃないか。一体、誰が手配すると思っているんだい?」


 少年の輩はおどけたようにわざとらしく肩を竦める。

 こいつはどこまで奴隷商の中枢に関わっているのだろう……?

 話しぶりから察するにゴロツキ連中を管理する側の人間っぽいが。

 

 テックアート家の騎士として潜り込んでいたダイアンと同等クラスなのか?

 あるいはそれ以上の立場にいるのか?


 とにかく、こいつを逃がさないために会話を続けなくては。


「俺も旅立ちの日に襲われたからな。幼馴染みや仲間を守るためにはしょうがないだろ」


「襲われた……? それなのになんで君は自由にフラフラしているのかな?」


 少年は訝しそうに眉根を寄せ、そしてハッと何かに思い至った表情になった。


「もしかして、ここの捕獲を任せていた連中が行方不明になったのは……!」


「やつら、今頃は森の栄養か動物の血肉になってるんじゃないかな?」


 俺は輩どもの亡骸を投げ捨てた辺りをチラ見しながら少年に言った。


「なん……だと……!」


 少年は口をパクパクさせ――


「ふっざけんなよッ! あいつらはゴロツキの割にはキッチリした仕事する連中だったのに! 今日のやつらなんて、エルフが森を出てくるのはどうせ時間がかかるからゆっくり行けばいいとかいい加減なことのたまってやがったんだぞ! 万が一を考えろよって! 実際、今日は予定よりも早くエルフが出てきてたから危うく取り逃がすとこだったし! エルフが森から出てくるタイミングに間に合わなかったどうするつもりだったんだってーの!」


 なんか、めちゃくちゃ早口で怒りだした。

 というか、やっぱり俺の時の輩どもは勤務態度良好な連中だったのね。

 今回のシルフィより速いペースで森を抜けた俺を余裕で待ち構えてたし。


「ひょっとして、ニッサンの店を任せてた連中が消えたのもお前がやったのか?」


 少年の輩はギロリと俺を睨んでくる。

 おやおや、さっきまで君とか言ってたのにお前呼ばわりになりましたよ。

 口調も何か荒くなってるし。


 カマトトぶった態度も感情的になったら取り繕っていられないようだ。

 ところでニッサンの店の連中って森に放置されてた馬車の持ち主たちのこと?

 だったら、奴隷や馬車だけ残してどこに行ったのか、むしろ俺が聞きたいくらいだが。


「そういえばそこの馬車に隠れてるのは貴族令嬢みたいだったけど……。もしかして連絡が途絶えたシミラーに暗殺を命じてたテックアート家の令嬢か?」


 少年がレグル嬢のいる馬車を見つめる。

 シミラー?

 知らない名前が出てきた。

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