学園と授業初日2『入寮』

「空気に閉塞感があるな……」


 寮まで向かう道で学園の生徒たちと幾人かすれ違う。


 どいつもこいつも覇気のない表情で本を片手に持った青白いモヤシどもばかりだった。


 本を持っていないやつも陰険そうな顔立ちでいけ好かない感じだ。


 もっと背筋をピンと伸ばせよ! なんだその猫背は!


 なんだろう、この何とも言えない雰囲気。


 全体的に活気がないというか、斜に構えた態度の連中が非常に目に付く。


 体育会系のように暑苦しくなれとは言わないが、せめてもう少し若者らしい清々しさを持っていてほしい。


 これじゃまるで搾りかすみたいじゃないか……。


 結局、寮までの道のりでは晴れやかなキャンパスライフを送っていそうな気持ちのいい輩とは一回も出会わなかった。




 寮の部屋はめっちゃ広かった。


 軽いキャッチボールができるくらいの大きさがあるリビングにトイレ、バスルーム、寝室。


 ……それに客間? なぜ学校の寮に客間があるのだ。


 あと、入り口付近には従者用の部屋が別に二つほどあった。


 はえぇ……学校の寮ってこんなすごかったんだ。


 てっきり誰かと相部屋になると思ってたわ。


 家具も備え付けで一通り揃えられている。


 俺の審美眼は大したことないが、多分どれも一級の品々だろう。


 オーダーメイド? とかそういうやつだ。


 なんでこんなに豪華なんだろう?


「ここは貴族の子弟やその関係者に連なる生徒用の寮ですから、それなりのものが用意されているんですよ。なかには自分で好きな家財道具を持ち込む生徒もいますけど」


 不思議そうにしている俺を見てメイドさんが説明してくれた。


 言葉にしなくても読み取ってくれる、さすがプロフェッショナル。


 俺はメイドさんへの尊敬をさらに深めた。


「うはは、わーい」


 キングサイズのベッドでぼふんぼふんと跳ねるリュキア。


 ご満悦って顔だな。彼女も気に入ったらしい。


 でもそこは俺の寝るとこだぞ。



 しかし貴族用の寮ね……。


 大丈夫なんだろうか。


 割と軽い気持ちで入学させろとか言ったけど、こんなに金かかってそうな寮を用意されてるとは思わなかった。


 これは絶対に何かを見つけて帰らないといけない。


 責任とプレッシャーが大きく跳ね上がった。




「こちらが学園の制服となっております」


 メイドさんから滑らかな生地で作られた漆黒のローブ、真っ白なカッターシャツ、緑色のネクタイ、グレーのスラックスを手渡される。


 俺はその一式を見て、むむっと渋い顔をした。


「ネクタイ……付けなきゃダメ?」


「ダメです。校則ですから」


 結ぶの面倒だし締め付けられるようで嫌なんだけど。


「結ぶのは私が毎朝して差し上げます。品質は最上級のものですから、慣れればそう苦にはなりませんよ」


「ううん……」


「慣れれば大丈夫ですよ?」


 有無を言わさぬ感じだった。くっ、断れねえ……。


「……よろしくお願いします」 


「はい、お任せください!」


 微笑むメイドさん。


 これってお世話係というか、お目付け役じゃね?





 寮に入った翌日。


 いよいよ授業を受ける日がやってきた。


 自室にあてがわれた部屋のベッドで未だ爆睡するリュキアと、俺の身支度を手伝い、見送りまでしてくれたメイドさんを部屋に残して学び舎へ向かう。


 新品の制服をピシっと着こなし、気持ちはフレッシュ。


 教科書もろもろは学用に買った鞄のなかにしっかり詰めてある。


 果たしてどんなやつらが雁首を揃えて待っているのだろう。


 変なやつとは関わりたくないが、奴隷商の協力者が生徒か教師かわからない以上、周りとのコミュニケーションを疎かにすることはできない。


 良識があって人脈の広い人物とお近づきになれればいいんだが。


 いや、打算込みでというのは俺のポリシーに反する。


 その辺は成り行きに任せるとしよう。

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