学園と授業初日3『あ、ルドルフだ』
校舎の廊下を歩きながら教室を探していく。
昨日見かけた連中と同じように、校内には参考書を片手に持って不健康そうに歩いているやつらが多く目立っている。
稀に複数人で固まって談笑している生徒たちもいるが、それは仲が良くて集まっているのではなく、数の多さで権威を主張するためのような群れ方だった。
なぜそう思うかって?
口元は笑っているのに目が笑ってねえんだよ……。
顔立ちや雰囲気から察するに貴族の子弟たちだろう。
……派閥とかあるのかな。
できればそういうのには巻き込まれたくない。
だけど、目的を果たすにはきっと完全に無関係でいるわけにはいかないんだろうなぁ。
お前らもっと走れよ。
風を受けて走れば心が爽快になって表情も明るくなるし、心から笑い合えるピュアなマインドを取り戻せるはずだ。
理屈は単純なのに、実行に移せないのは人間の性ってやつか。
難儀なものだねえ。
教室に着いた。
王立魔道学園の授業は単位制というやつらしい。
決められた分野ごとにそれぞれが好きな授業を選択し、必要な単位に合わせて自分自身で時間割を組むというシステムである。
俺もメイドさんにアドバイスをもらいながら興味のある学問を卒業要件に見合うよう選んだ。
卒業まではしなくてもいいんだけど、あまり適当にとって怪しまれるのも困る。
学期は前期と後期にわけられていて、幸いにも今は前期の授業が始まったばかりだとか。
これなら授業の遅れもさして気にしなくて済む。
俺ってば、持ってるエルフだな。こういうのを神がかってるというのか?
実際に女神様と会ってここにいる俺が言うと嫌味っぽいギャグになるな……。
今のは取り下げよう。
教室は教壇から一段ずつ高くなっていくように長机が並べられている。
これなら前のやつがデカくて黒板が見えなくなる心配もない。
エルフ里のちっこい教室とは収容数が段違いだ。
一体何人がここで同時に授業を受けられるのだろう。
百人は軽く収まりそうである。
現在は始業十分前。しかし、すでに席はポツポツ埋まっている。
勉強熱心なやつらだ。
自由席らしいので俺もどこか適当に選んで座るとしよう。
教室全体を見渡して、手頃な空席を探す。
すると、最後尾の列の端の席に知った顔を見つけた。
「あ、ルドルフだ」
そこにいたのはくすんだ金髪の男、ルドルフだった。
やつは不遜にも机に両足を乗せ、ふんぞり返ったスタイルで分厚い本に目を通していた。
そういやあいつもここの学生だったっけ。
それで結構な優等生なんだっけ?
なんとか童だか、童なんとかと持て囃される存在だったと記憶している。
強制連行されたのにちゃんと学校に来てるってなんか面白いな。
真面目に通ってるふりして、いずれニッサンの町に戻ってやろうとか思ってるんだろうか?
「よう、久しぶり」
リリンの母、マリサの容態を伝える必要もあったので俺はルドルフに声をかけた。
初めて会ったときはこいつに自分から声をかける日が来るとは思ってもなかったな。
「はあ? 気安くオレに声をかけてくるんじゃ……なっ!? トラックエルフ! お前、その制服は! どうしてここに!?」
最初こそ刺々しい拒絶の態度を向けてきたルドルフだったが、俺の顔を見て確認するなり慌てて本を置いて立ち上がった。
「今日から俺もここの生徒だ。よろしく頼むな?」
「んなバカな!? ここは亜人種が簡単に入れるようなところじゃ……って、ああ、テックアート家の伝手か?」
「まあ、そんなところだ。よくわかったな」
ルドルフのやつ、あっという間に察しやがった。
もっとじらしてみたかったのに。
つまらん。
「あそこの当主はエルフに甘いからな。エルフだけじゃなくて当主の美的感覚に合えばどんなやつにでも甘いけど」
……ディオス氏、やっぱそういう感じの人なんすねぇ。
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