結末と予兆7『森暮らしのエルフッティ』
森に到着した俺たちは散策を始める。
やることは単純。
地図を持ってキメラの痕跡がないかエリアごとにチェックをつけていくのだ。
二人揃ってノソノソ森を歩いていると、比較的幅が広めの森道にぶち当たった。
まっすぐ伸びた道は外の街道まで繋がっているようだ。
「なんだ、こんなしっかりした道ができてたのか」
「……ああ、山菜採りに来る人たちが作った道だね。結構奥のほうまで続いてるんだよ」
そんなのがあったならここから森に入ればよかったな。
知ってたなら教えろよ。
何? さっきまでグロッキー状態だったから話す余裕がなかった?
悪かったよ。でも、俺だってまだ酸っぱい臭いするんだぞ。
微妙な空気が俺たちの間に流れた。この話は誰も幸せになれないからもうやめよう。
「車輪の跡があるな。馬車が通ったんだろうか」
跡の形から通ったのは片道だけ、かつ数日前のものと予測する。
こんな森に馬車を使って入る意図がわからんな……。
「この先には集落でもあるのか?」
「いいや、ここは人が住める場所なんてないと思うよ」
「妙だな。少し辿ってみよう」
「やばいのがいたら守ってね。おにーさんっ」
「…………」
俺の腕にしがみついて甘えた声を出す平たいビッチ。
こいつ俺をボディーガードにして寄生するつもり満々だな。
なんかあったら報酬の分け前は相談させてもらうぞ。
踏み固められた森の中の道を歩き進めていく。
時折、周囲からガサガサと森に住む生き物が動く気配がする。
――ニギャアアアァァァァッアアアアアアアアァァァァアァ――ッ!!!!
「い、いまなんかとんでもない鳴き声が聞こえたような……」
「森に棲んでる魔物の声だろ? 縄張り争いでもしてるんじゃないか」
何を怯えているんだか。森なんだから魔物の声くらい当然だろう。
「お兄さん、落ち着いてるね……」
「これでも森暮らしのエルフッティだからな。森には慣れてるんだよ」
「てぃ?」
「なんでもない」
ちょっとふざけすぎたな。
ビビっているリリンを片腕に引っ付けたまま散策を継続。
「うーん、キメラとやらの痕跡は見つからないな」
「……もうさっきの鳴き声だけ報告すればいいんじゃない?」
魔物が鳴くなんてありふれたことを知らせて何になるのだ。
やり直しを命じられたら無駄足じゃないか。
「む、あれは馬車か?」
木々が生い茂って馬車が通れなくなる森道の終わり。
そこには一台の馬車が停まっていた。
「静かだね。誰もいないのかな?」
「馬も繋がっていないぞ。逃げ出したのか?」
森道はここで終わるが、森はまだまだ先がある。
ここまで馬車で来て、後は人の足で進んだのか?
だがそれでは馬がいない理由に説明がつかない。
帰るつもりなら逃がす必要がないからだ。
「もしかして心じゅ……」
リリンが不吉なことを言いかける。
「ちょっと馬車の中を開けて確かめるか」
「ええ!?」
必死に止めようとするリリンをずるずる引きずりながら馬車に近づいていくと、足元に高級そうな材質の封書が落ちていることに気が付いた。
拾い上げると、それには魔術的な刻印が施された封蝋がしてあった。
宛名は書いていないか……。怪しいな。
「おいしょっ」
――ビリッ
「ええっ!?」
リリン、うるさいぞ。同じ反応を続けてするな。
俺が封を破って手紙を読みだすとリリンはその横で頭を抱えていた、
『だって勝手に手紙を……』
『それ絶対やばいやつだよ』
『貴族とかが密書に使う封蝋だよ』
『刻印があるのになんであんな簡単に開けられるの?』
まとまりのないことをグチグチと。何が言いたいのか。
さて、肝心の書かれている内容は――
『ニッサンの町はテックアート家に発見された。万が一の場合、王立魔道学園の協力者である貴殿に隠蔽の協力を仰ぎたい』
……どうやらこれは一度、王立魔道学園とやらに行ってみる必要がありそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます