結末と予兆6『余計なことしなきゃよかった……。』
「なあ、ところでキメラってなんだ?」
「ええっ? ここまで来てそこ訊くの!?」
俺たちは現在街道を走り、キメラが潜んでいると思われる近隣の森へ向かっていた。
もちろん走っているのは俺だけ。リリンは俺におぶられた状態だ。
背中に触れる部分には彼女の柔らかな膨らみが押し当てられているが、エルフの身体は性欲をほとんど覚えないので邪な感情はちっとも湧かない。
座席に誰かを乗せているトラックとしての喜びは感じていたが。
「人を乗せて走るのは久しぶりだな……」
「は? 何?」
「なんでもない。それでキメラって?」
「え、お兄さん本当にキメラを知らないの? エルフって物知りなんでしょ?」
リリンの声に馬鹿にしたような響きが含まれている気がする。
こいつにアホ扱いされるのは憤死モノの屈辱だ。なんとか誤魔化さないと。
「物知りなやつは多いが、それは長く生きてるからだ。俺はまだ百年も生きていないんだから何百年も生きたエルフと同じ聡明さを求められても困る」
ぶっちゃけると、俺は同年代のエルフと比べても賢いほうではない。
魔力の才能は飛びぬけていたが、ひたすら筋トレばかりしていたので本もロクに読んだことがない。
そんなので知識を蓄えようがなかった。まあ、言わなければバレまい。
「ふーん? そういうもんなの? まあいいけど……」
誤魔化せただろうか。そういうことにして話を進めよう。いや、進めさせよう。
「キメラってのはね、普通の魔物とは違って作られた魔物なの」
「作られた?」
「そ、いわゆる合成獣ってやつ? 大昔に錬金術師って人たちがどっかの国に頼まれて作ったらしいんだけど、制御できないくらい強くて凶暴だから廃棄されたの。でも何体かは逃げちゃって、こうやって稀に人の町のそばに出てくるんだよね」
「依頼は調査だけだが、倒さなくてもいいのか?」
聞く限り、危険そうな化け物のようだが。
さっさと退治したほうがよいのではないだろうか。
「キメラが出たら冒険者ギルドで情報収集をするんだよ。それで準備を整えてから領主の軍も含めた討伐隊が組まれるの。それくらい用心しないといけないくらいキメラは強くて危ないんだから。二人ぽっちで倒せるような魔物じゃないよ」
「ふうん? じゃあ姿を見かけたら逃げ帰ればいいのか」
「ははは。そんなの危ないじゃん。探すのだって大変だし。足跡とか糞とかを見つけて適当に報告すればいいんだって」
リリンはケラケラ笑って言った。そんないい加減でいいのだろうか。
冒険者の基準がわからないので彼女に任せるしかないが……。
「にしても、お兄さん走るの速いよねー。ほんとにエルフなの? 不思議だなぁ……えいえいっ」
おいこら、耳を引っ張るな。頬を叩いて何かがわかるわけないだろ。
無礼な車上の女を懲らしめるため、わざと左右に蛇行して走った。
ふはは、三半規管を狂わせてしまえ!
結果、俺は酔ったリリンに酸っぱい液体を頭からぶっかけられた。
余計なことしなきゃよかった……。
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