領主邸と決戦1『残酷な戦闘だったからな。仕方ない。』
順番を考えず入り口でミチミチ詰まりながら押し入ってくるゴブリン。
待ちきれず壁を破壊して乗り込んでくるオーク。
『ウガアアアッ!』
『ギビィィィィィ!』
『ギギギギィィイッ!』
うじゃうじゃ沸いたゴブリン、オークで埋まる廊下が壊れた壁の向こうに見えた。
実に気持ち悪い。これが世紀末か。
「最後にお前の声が聞けてよかったよ、ジンジャー」
「領主様……」
「あわわわ……」
「くっ、せめてお嬢様だけでも!」
「エヴァンジェリン、オレが隙を作る間にお嬢様を連れて……」
すっかり諦めムードに入っている一同。
そんな中で笑っているただ一人の男。
ルドルフだった。
「キヒヒ……。なあ領主のおっさんよ。こいつらは敵だよな?」
「当たり前だ。これは貴族に対する明確な敵対行為だからな」
「だったらよぉ! 遠慮なく殺れるってわけだ! エルフ野郎とのいざこざで溜まった鬱憤晴らしにちょうどいいぜッ!」
あれはお前らが一方的に突っかかってきたんだが。
……どう考えても嫌な予感しかしない。
「おい、ちょっと落ち着け――」
俺が声を発したときにはもう遅かった。
やつの周りには無数の小さな魔法陣が浮かび上がっていた。
少しばかり風圧を感じる。風系の魔法だろうか?
「ウインドボール! おらおら、弾け飛べ!」
ルドルフの高笑いと共にゴブリンやオークの頭がパンパンと音を立てて破裂していった。
うわ、吹き飛んだ脳漿や血液が部屋中に撒き散ってすごく汚いことになっているぞ。
「くっ、ウインドボールを無詠唱で乱発だと……!? しかもこの正確さ、これが神童と謳われた魔導士か……」
複数のオークやゴブリンの陰に身を隠しているダイアンの声。
ふむ、よくわからんがルドルフはすごいことをしているらしい。
「お前、俺と喧嘩したときは呪文を長々唱えてたよな?」
「あん? あの時は神級魔法だったからな。中級や上級魔法程度なら無詠唱で十分だ」
「お前は往来の喧嘩で何を繰り出そうとしてたんだ……」
呆れる俺を無視してルドルフは舌打ちをする。
「ちっ。キリがねえなぁ!?」
いくら倒しても沸いてくるゴブリン、オーク。
気の短いルドルフは苛立っていた。
こいつ、地道な作業とか絶対嫌いそうだもんな。
「こ、こんなところで何をするつもりだ貴様!?」
オークの背後からダイアンが叫ぶ。
偉そうに出てきたくせにずっと隠れてるなお前。
それはさておき。
見ると、ルドルフの頭上には直径十、二十、三十……いやそれ以上に巨大な魔法陣が現れていた。
「ちまちまやってもしょうがねえから一掃してやるよ」
ルドルフはいわゆるヒャッハー状態だった。
完全に戦闘にはまり込んでいる。
「上級魔法のエアロハリケーンだと!? ふざけているのか!」
ゴリラな隊長までそんなことを言う。
「何かまずいのか?」
「あれは広範囲に渡る上級攻撃魔法。こんな付近で発動されては我々も巻き込まれる!」
見境なしかよ。やっぱり歯止めが利かなくなったか……。
「ジンジャー……あの世で末永く幸せに暮らそう」
「はい、領主様……必ず向こうで会いましょう」
種族どころか性別の壁を越えた二人は手を繋ぎあって今世での別れを告げていた。
あきらめるなよ。あのジンジャーに対して見せた往生際の悪さはどこいったんだよ。
「お嬢様! お嬢様がああああっ!」
女騎士の腕の中で御令嬢は失神していた。
残酷な戦闘だったからな。仕方ない。
彼女の真下にできていた黄色い水溜まりは見なかったことにする。
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