領主邸と決戦2『吹き飛べ、クソ雑魚ども』


「おい、チンピラ! 周りを考えろ!」


「心配いらねえ、黙って見てろ! 任せとけ!」



 おお、こんなにも安心できない『任せておけ』が未だかつてあっただろうか。


「吹き飛べ、クソ雑魚ども」


 ルドルフを中心に暴風が巻き起こり、それは激しく円状に拡散した。


 これはいかん。魔法で御令嬢たちの身体強度を上げ……ダメだ間に合わない。


「ぐおっ……」


 肌にピリっとした痛みが走る。風圧で目を開けることもできない。


 ベキバキと何かが壊れるような轟音が頭上で響く。


 ゴブリンたちの悲鳴と断末魔が遠くに聞こえる。



「…………」



 風の勢いが止み、見上げると屋敷の天井がなくなっていた。


 パラパラと散る木片、石材。


 すっかり外の景色が見やすくなってしまった屋敷の成れの果てがそこにはあった。


 吹き飛んだのは二階部分だけだが、もう住むことはできないだろう。


 立て直しは確定だ。ひどすぎる……。


 まあ、自分の家じゃないので所詮他人事だが。


「みんな無事か!?」


 俺は振り返って御令嬢たちの安否を確かめる。


 オークとゴブリンはすっかり殲滅されていた。


 威力は相当なものだったはず。


 まさかオークどもと同じ肉片になってないだろうな。


「い、生きてる……生きてますよ……お嬢様」


 御令嬢を抱きしめて涙する女騎士。


 なんか水溜りが二倍に広がってる気もするが知らないふりをしておく。


 誰かのが追加されたとか、そんなことはないだろう。


 お漏らしなんてなかった。そうだろ?


 ちなみにデリック君は尻を高く突き出したみっともない格好でうつ伏せに転がっていた。


「わ、私の屋敷が……」


「領主様、しっかりしてください!」


 一同、呆けているものの命に別状はなく怪我を負っている様子もない。


 安心したが、どういうことだ?


「あらかじめお前以外には魔法障壁をつけておいたんだよ。テックアートや領主を巻き込んだらまずいだろうが」


 ルドルフはふんすと鼻を鳴らす。


「…………」


 さり気なく俺が外されていたのは些末なことだ。


 どうせ必要なかったしな。





「畜生、畜生! まさか上級魔法まで無詠唱で発動させるなんて……。しかも屋内で堂々とぶっ放すなんてイカれてやがる……」


 べちょっと肉塊になったオークの死体を投げ捨ててダイアンが姿を現した。


 鎧は血に塗れて汚れているが、本人は無傷のようだ。


 あれでくたばってくれれば楽だったんだが。いや、死んだらまずいのか。


 情報を吐かせるには生け捕りが望ましいよな。


「おい、寝てないでさっさと起きやがれ! このウスノロ!」


 ダイアンはゴブリンの死体に紛れるように倒れていた相方を蹴り飛ばす。


 うーん、あれは仲間なのか? まるで奴隷みたいな扱いだ。


「あの大馬鹿魔導士のせいで機密も何もなくなった。目立ってもいいから強力なやつを呼び出せ! せめてこいつらを皆殺しにするんだ!」


「…………」


 ダイアンが苛立ちの声を上げて指示を出す。呼び出す? 一体何をするつもりだろう。


 ローブのやつがブツブツと呪文を唱えだした。


 まずい気がするな。唱え終わる前に始末するか。


「もう手遅れなんだよ!」


 動き出そうとした俺に向け、ダイアンは勝ち誇った顔で笑った。

 終わった? 何をした? 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る