解放と敵襲3『言っておくけど、ジンジャーは』
「はぁ!?」
「なっ!」
「へっ!?」
「ははっ」
「…………」
驚きの声を上げる一同。いや、ルドルフは笑っていた。あと隊長は無言だった。
「お、お前を奴隷として手元に置いていた私を許してくれるのか……?」
「領主様が僕を大事に想っていてくれたことは喋れなくてもわかっていましたから」
「ジンジャー……」
「領主様……」
二人だけの世界を作り上げ、見つめ合う二人。誰も入り込めない雰囲気を突如展開させて今にも抱擁を交わしそうな勢い。
……これってやっぱりそういう関係なのかなぁ。嫌だなぁ。見たくないなぁ。だってジンジャーは……領主は知っているんだろうか。
「男女の愛は種族を超えるのだな……」
「素敵ですわね……」
御令嬢と女騎士が二人の姿をうっとりと眺めている。先ほどまでの剣呑なやり取りが嘘のようだ。
やはり人間の女性はこういう色恋には胸をときめかせるものなのだろうか。
だけどここにはときめくような要素はひとつも転がってないのだ。
「言っておくけど、ジンジャーは男だぞ」
「「!?」」
女騎士と御令嬢はなかなか面白い顔をして驚いてくれた。
=====
領主はジンジャーの性別を知っていた。知ったうえで購入していた。
少女と見まがう少年奴隷を溺愛する独身の中年男性。ヤツは当初のイメージとは違う意味で救えない男だったらしい。
まあジンジャーも幸せそうでウィンウィンっぽいし、趣味性癖は人それぞれだ。口に出して否定することはしないさ。
ただ、マルチダのことはどうする気なのだろう。
彼女とジンジャーは里を出る前は割といい感じの関係だったはずだが……。いや、これは俺の考えることではないか。
いずれ再会したら当人同士で領主も含めた三者会談でも開けばいい。俺のいないところで勝手にな。
修羅場になることは確実なので絶対に巻き込まれたくないと思った。
領主とジンジャーのわだかまりが解消されたところでひと段落。
俺とルドルフと御令嬢は同じソファに腰かけ、テーブルを挟んだ対面のソファには領主とジンジャーがぴったりと寄り添い合いながら座っている。
騎士の二人は俺たちの後ろに控えて目を光らせていた。不審な動きをすれば領主の首を撥ねることもいとわないという構えだ。
「捕まったときはもう一生辛い思いをして生きていかないといけないかと思ったよ」
ジンジャーは今日までに至った経緯をつらつら語り始めた。
里を出た直後に輩どもに襲われ、この町で店を構える奴隷商人に引き渡されたこと。
数か月の間、奴隷としての立ち振る舞いを教育されて領主のもとに連れていかれたこと。そして領主に優しくされ、愛というものを知ったこと。
最後のやつはどうでもいい。
できることならそういう愛は知らないでいて欲しかった。なんか気まずいじゃん。
「まさかニッサンの町の奴隷商人が……? ヴィースマン商会は店舗を持たないと話していたが、町の奴隷商人がそうだったのか……?」
ジンジャーの話を聞いた領主は口元を押さえながら神妙に考え込んでブツブツ呟きだす。こうしていると仕事のできるダンディーな男に見える。
「えーと……。領主様は本当に奴隷商人との繋がりはないのですか?」
領主を嘘つき呼ばわりしたことに気まずさを覚えてきたのだろうか。御令嬢はどこか遠慮がちに訊ねる。
まあ、あの状況じゃ疑う以外になかったと思うけどな。
「領主様はただ僕の首輪の制限を外せる魔導士を探しただけだよ!」
ジンジャーは領主を弁護するため身を乗り出して叫んだ。
「首輪の制限を外せる魔導士、ですか……?」
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