チンピラと徒手格闘6『汚いものは見なかったことにしよう。』

 俺の技名公開にポカンとするチンピラども。


「とらっくすとれぃ……?」


「ちゃんと喋れよ!」


「わけわかんねーぞ!」


 反応が輩たちとほとんど一緒だった。


 小物は皆、同じロジックで動いているのかねぇ?


「騒ぐなよ、お前ら。みっともねえぞ」


 そんな中、ルドルフがフッと息を吐いて仲間たちを諫めた。どことなくキメてる感じがうざかった。


「要するにそいつがその魔術の名前ってことだろ? 違うかエルフ?」


「……違うんだけど」


 ドヤ顔で語ってもらって悪いが、魔術じゃないし。ただの技名なんだよなぁ。


 気分が盛り上がるからつけてるだけ。


「…………」


「プッ」


「!?」


 俺に否定されて固まっていたルドルフを見て、平たいビッチが吹き出した。


 うわぁ……。きっついなぁ……。


「あっ、ゴメン。そういうんじゃないからね? アハハ……」


 取り繕ってももう遅い。ルドルフは青筋を額に浮かべてキレていた。


「もう許さねえぞ、このクソエルフ野郎……」


 ……なぜか俺に向かって。まったく、面倒なことばかり運んでくる女だよなぁ!?


「はなはだ不本意な怒りの買い方だが、許しを請うつもりは最初からねえよ。つべこべ言わず、かかってこいや!」


 ヤケクソになった俺はチンピラどもを挑発した。


 やつらは顎への打撃の有用さを理解していなかった。


 これなら無防備にしている急所へ的確に一撃を打ち込めば最低限のダメージで戦闘不能にできるはず。


「アンディ! 例のアレを使っていいぞ!」


「マジか? あいよっ!」


 ルドルフの指示で眼帯の男と二人のチンピラが武器を携えて向かってくる。


 命令を下したルドルフ本人はなぜか腕組みをしたまま動こうとしない。


 やつは魔法の使い手らしいし、遠距離魔法でも放つつもりだろうか。


 こんな町中で魔法を使うとか正気の沙汰とは思えんが。


 しかし、こいつらなら平気でやりかねない。そういう危うさがあった。


「おらぁ! 食らいやがれ!」


 眼帯男が懐から巾着のような袋を取り出して中のものをばら撒いた。


 銀色の粉がさらさらと宙に漂う。


「!?」


 砂か? 目潰しを狙ってきやがったのか?


 俺は咄嗟に目元を庇って眼球に粉末が入ることを防ぐ。


「ふははは! こいつぁ魔力無効化の粉だ! これでご自慢の身体強化は使えねえぜ!」


 チンピラBが高笑いをして棍棒を振り下ろしてきた。


 ……なんだ、輩どもの秘密兵器と同じじゃねえか。


 この粉は人間の社会では一般的に使用されているものなのかね。


 流通経路や入手が限定的なブツなら輩どもを差し向けていた奴隷商を絞る手掛かりになりそうだが。


 可能なら後で締め上げて吐かせよう。


「むんっ!」


 そんな考察をしつつ俺はチンピラBの棍棒を腕で防ぎ、お留守になっていたチンピラBの足を踏みつけてやった。


「ぎぃやぁ――ッ!?」


 男は潰れた足の甲を押さえて地面に転がりのたうつ。


 あとでルドルフに治してもらいな。よし、あと二人。


「ざけんな!」


 俺の太ももに短刀を突き立てようとしてきた眼帯にはヘッドバットを食らわせてやる。


 ナイフでの攻撃? そんなもん弾き返してやったわ。トラックの装甲舐めんなよ?


 ちょっと掠り傷は負ったけど。


「ふ……くっ……」


 鋼の頭突きを食らった眼帯は白目で泡を吹き、その場に沈んだ。


「ひぃ……化け物!」


 チンピラAは俺が近寄ると腰を抜かして地面にへたり込む。



 じょわじょわじょわぁ……



 またかよ……。


 チンピラAは恐怖で小水を漏らしていた。地面に広がるスプラッシュウォーター。


 いい加減にしてくれ。これで何回目だ。


 俺は今日一日であと何回人間の失禁を目撃しないといけないんだ……。


「うわあああああああっ」


 見るに堪えず、視線を逸らしているとチンピラAは四つん這いのままカサコソと戦わずして逃げていった。


 汚いものは見なかったことにしよう。



「さて、お前一人だけになったな?」


「ぐぬぬ……」


 一人安全地帯から静観していたルドルフは悔しそうに顔を歪めた。


 やったぜ、その表情。これは飯が美味い。

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