チンピラと徒手格闘5『トラックストレート』
「エルフ野郎よぉ、どうした? この人数差でビビってんのかぁ!?」
「…………」
ルドルフの挑発にぐっと堪えて冷静に現状を分析する。
まず人数差は問題にならない。
もっとたくさんの輩やゴブリンとオークの群れを相手に余裕で勝てた俺である。
だが、ここが町中である以上、即死の可能性があるトラックアタックは使えない。
逃げ出そうにも野次馬に囲まれているので、逃げ切れるだけのスピードを出して万が一通行人とぶつかれば大怪我をさせてしまう。
ここにきてトラック並みの身体が仇になるとは……。まあ仕方ない。
あまり徒手格闘は得意ではないのだが。
俺は覚悟を決めて連中と戦う選択肢をとることにした。
「危ないからいい加減降りろよ」
「あっ……うん」
俺が言うと、平たいビッチはようやく離れてくれた。
この密着度がルドルフの誤解に拍車をかけたんだよなぁ……。もっと早めに降ろさせるべきだった。
「…………」
さて、身体は軽くなったが、清々しさは感じなかった。
やはり誰かを乗せている状態が俺にとって一番安らぎを覚えるのかもしれんな。
平たいビッチでこれなら本当に尽くすべき主人に出会えたらもっと素晴らしい気持ちになれるのだろう。未来の希望に胸が膨らむね。
「さてと」
俺は気合を入れ直し、チンピラどもと向かい合った。
「エルフの分際で人間様を奴隷に売ろうとするなんざ百年早いんだよ!」
まずはスキンヘッドが叫びながらメリケンサックのようなものを右拳に嵌めて一人で突っ込んできた。
これだけの人数差があってなぜ単独で飛び込んでくるのか。
理解に苦しむね。ペチペチっとスキンヘッドの腕を平手で叩き落とした俺は懐に潜り込んで無防備に晒された顎にストレートパンチを掠らせる。
「へっ、こんなものが……。ん、ンっ……!?」
脳震盪を起こしたスキンヘッドはガクガク足を震えさせながらふらつく。
そして、どすんと音を立てて地面に倒れ込んだ。
よし、ピクピク痙攣しているが死んではいないな。上手い具合に加減できたようだ。
適当に跳ね飛ばすのと違って力をセーブするのは難しいが、この程度の相手ならどうにかなるだろう。
「なっ、シルバが擦っただけのパンチ一発で沈んだだと……」
「おいおい、一体どんな魔法を使ったってんだよ!?」
チンピラたちの反応からシルバというスキンヘッドはやつらのなかでも実力者に類していたようだ。
いける、これなら遺恨を残さない程度の暴力で場を納められるぞ。
「魔法じゃねえ。今のはただのストレートパンチ……そう『トラックストレート』だ」
フッ。決まった。
とりあえず適当な台詞でビビらせておく。
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