チンピラと徒手格闘4『言葉って難しい。』

「お前が急に出て行った後、ギルドにきた連中から聞いたんだよ。お前がエルフ野郎に抱き着いて奴隷商の店に向かったのを見たって……! お前がなんでもするってエルフ野郎に縋りついていたって……」


 まるで俺が平たいビッチを引っ掛けてお持ち帰りしたみたいな言いぐさだ。


 確かに説明に嘘はないけど、事実でもないぞ。いや、事実だけどあっていない?


 ええい、ややこしい! 言葉って難しい。


「あのね、ルドルフ? なんか勘違いしているみたいだけど……」


 平たいビッチも困惑気味である。


 というか、そもそもお前は本当に何の用があって俺に付き纏ってきたんだ?


 この諸悪の根源め。とっとと失せやがれってんだ。



「そいつに何を吹き込まれたか知らねえが考え直せ!」

「自分を大事にしろ!」

「そんなやつのために身を売ろうなんて考えたらだめだ!」

「女を奴隷に売り払おうとするやつなんてロクなやつじゃないぞ!」



 口々に騒ぎ出すスキンヘッド、眼帯、その他二名のチンピラ。


 自分たちの性根の悪さを棚に上げて大したこと言う。


 連中は俺が平たいビッチを誑し込み、奴隷商に売り飛ばして私腹を肥やそうする悪漢だと誤解しているようだった。


 日頃から下種な考えをしているからそういう被害妄想を浮かべるのだ。


 少しは清廉な心を持てと言いたい。



『え? 男のエルフが人間の女の子を上手く騙して売ろうとしてるの?』

『きっとあの甘いマスクで適当なことを言って引っ掛けたのね』

『女性を食い物にして稼ぐなんて卑劣な男! 引っかかるほうもアレだけどねぇ……』



「!?」



 気が付くと、殺伐とした空気を感じ取って野次馬となった通行人たちがあらぬ誤解を事実と認識して囁き始めていた。


 あれっ? ひょっとして道を訊ねたおっさんにされた勘違いというのもこういうやつだったのか?



 ヒソヒソヒソ……。



 現在進行形で汚名が着せられていく。



 まさか……ここまでがこいつらの作戦だったというのか!?


  ちらっと平たいビッチのほうを向いて様子を窺うと、


「落ち着いてよ、ルドルフ! 町中で恥ずかしいじゃない!」


 平たいビッチは顔を赤くしながら叫んでいた。


 ……この反応なら少なくとも彼女は仕込みではなさそうだ。


「まったく困ったもんだぜ……」


 本来ならここで俺たちが争う理由はなく、平たいビッチに帰ってもらえば済む話だ。


 しかしながら一度思い込みにハマった人間というのは凝り固まった考えを解きほぐすのにある程度時間を要する。


 実際、ルドルフはビッチの台詞なんぞちっとも耳に入っていない様子だった。


 他五名のチンピラも棍棒やナイフ、短剣など構えて臨戦態勢に入っている。



「わたしそんな尻軽じゃないからね!? そこまで馬鹿じゃないからね!?」

「わかってるぞ、リリン。今からそいつをブッ飛ばしてお前の目を覚まさせてやる」



 …………。


 チンピラどものやり取りを聞いていると不毛とはこのことかと実感できる。


 一生懸命に否定すればするほど彼らには平たいビッチが俺にゾッコンになっているように映るのだ。


 平たいビッチのほうから声をかけてきたのに悪評を立てられて喧嘩を売られるとか、迷惑以外の何物でもなかった。


 こっちは早く奴隷商に探りを入れたいんだがなぁ。


 このチンピラどもは俺の行動を阻むために存在しているのか?


 そういう目的のために何者かが因果的なものに干渉してこいつらを操っているのか?


 度重なる妨害行為に俺は陰謀論まで想像するようになっていた。ヤバい。

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