チンピラと徒手格闘3『マッチポンプで善人アピールしてくるんじゃないよ。』
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商店が並んで賑わっている町の中心地に奴隷商の店はあった。
大通りに面した良好な立地。清潔感のある外装とオシャレな看板。
奴隷を売っているというからもっとジメジメした佇まいを想像していたのだが、遠目に見れば意識の高いカッフェのようにしか見えない。
荒くれ者がたむろしていたギルドより、よほど品のよさそうな落ち着いた雰囲気を醸し出している。
「こんなに堂々と店を構えているとは……」
「奴隷商は金持ちを相手にしてるから儲かってるんだよ。奴隷を買うのは基本的に貴族とか成り上がりの商人とか、生活に余裕のある連中だからね。外装も綺麗でしょ? 店が汚いと文句を言う客も多いから気を遣ってるんだよ」
「なるほどね……。ところで貴族はエルフの奴隷を欲しがったりするものか? エルフは貴族に高値で売れると聞いたんだが」
「えっ! お兄さん、まさか身売りするつもり? ギルドでブラックリストに載ったからって自棄になったらダメだよ?」
「おい、ちょっと待て。ブラックリストに載ったってマジかよ」
聞き捨てならないことを聞いた俺はすぐさま問いただす。
「うん、お兄さんが出て行った後に偉い人たちが話してた」
平たいビッチはあっけらかんとした調子でのたまうのだった。
「…………」
おいおい、ちょっと面倒なやつと思われたくらいだと考えていたのに。
ブラックリストってなんだよ……。
俺がショックを受けて黙り込んでいると平たいビッチは背中をポンポンと叩いてきた。
「困ってるなら相談に乗るよ?」
「いや、原因はお前らだろ?」
マッチポンプで善人アピールしてくるんじゃないよ。
「……参考までに訊くけど、お前らは平気なの?」
「ルドルフがついてるからね」
「不公平だ……」
あのクソ金髪、何が慰謝料だ。こっちが請求してやりたいわ。
「で、身売りじゃないならどうしてお兄さんはエルフの価値を訊いてきたの?」
平たいビッチは話題を露骨に戻してきた。
きっと自分に責任が向けられるのを避けるためだろうな。こいつは本当に……。
まあいい。その気になればギルド以外でも働き口はある。多分、いやきっと。
俺は前向きに考えて目前の問題と向き合うことにした。
「この町に来る途中で俺を襲ってきた連中がそういうことを言ってたんだよ。どうやらそいつらは奴隷商の下請けでエルフを狩りに来ていたみたいでな」
俺は里の出口付近で張り込んでいた輩どもの話を掻い摘んで説明した。
なぜ平たいビッチに説明したのかはわからない。
ひょっとしたら短時間とはいえ乗せて運んだことで情が沸いてしまったのかもしれない。
「――というわけで、俺は大本の奴隷商を突き止めてこれ以上の犠牲者を出さないようにしたいと考えている」
「その奴隷商がこの店なの?」
「それを調べるために来たんだ」
俺はそう答え、ドアノブに手をかけた。そしてノブを捻った瞬間――
「オラオラオラァッ! やっと見つけたぞ、この赤髪エルフ野郎!」
やたらと巻き舌の入った威勢のいい怒声が往来の彼方から響いてきた。
振り返り、その声の正体を確かめる。
「……ちっ、しつこいやつらだな」
くすんだ金髪の一派がそこにいた。
一方的に絡んできた挙句、俺の社会的地位を貶めたくせにこれ以上何を奪おうというのか。
ひい、ふ、み、よ――数は全部で五人。
俺を転ばせようとしてきたスキンヘッドと眼帯の男が同行している辺り、完全に開き直ってやがる……。
「ル、ルドルフ? なんであんたらがここにいるの!?」
呆れる俺の一方で、平たいビッチは慄きの声を上げていた。
くすんだ金髪の男、そういえばルドルフって名前だったっけ。
俺と一緒にいるビッチを見て、ルドルフは鋭い目つきで舌打ちをする。
あぁ、これは怒ってる感じかもしれんね。ご愁傷さまである。他人事のようにそう思いながら平たいビッチの冥福を祈っていると、
「リリン、お前はそいつに騙されているんだ! 目を覚ませ!」
ルドルフは失礼千万なことをのたまってきたのだった。
おい待て。俺が加害者みたいな言いがかりはやめろ。どうしてそうなる。
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