チンピラと徒手格闘2『普通に年上です。本当にありがとうございました。』


=====



「すいません。この町の奴隷商の場所を訊きたいんですけど」


 ギルドで屈辱を味わった俺だったが、気持ちを切り替えて奴隷商について調べることにした。


 適当に声をかけた道行くおっさんに奴隷商の所在地を訊ねてみる。


「奴隷商の場所かい……?」


 声をかけたおっさんは俺と目が合うと視線をスッと下に落とす。そして、


「あんたまさか……」


 おっさんは声を震えさせながら顔をしかめた。なぜだ?


 奴隷の話をストレートに切り出したのがまずかったのかね。


 通りすがりの他人に軽々しく訊ねるには不適当な話題だっただろうか?



「…………」



 おっさんは場所を教えてくれたものの、終始けったいそうな目で俺を見ていた。


 去り際にも『まだ若いっていうのにねぇ……』と表情を曇らせていた。


 理由は知らないが、どうやら彼に悪い印象を与えてしまったようだった。


 まあもう二度と会わない赤の他人だし、気にしない方向で行くとしよう。


 俺はおっさんに訊いた場所に向けて足を踏み出した。





「さっきのおじさんにいろいろ勘違いされちゃったみたいだねぇ?」


 人々とすれ違いながら町中を歩いていると、おかしそうに響く陽気な笑い声がした。


 未だに俺の腰にしがみついている平たいビッチだった。


「勘違いって何の話だ?」


 意味深な台詞の意図を訊ねると、平たいビッチは『別にぃ?』と勿体ぶった態度ではぐらかして笑い声を漏らす。


 しかし、こいつはいつまで付き纏ってくるつもりなんだろう?


 俺に何やら要件があるみたいだったが。


 興味がないのでこちらから訊ねたりはしないけど。


「むぅ……」


 俺が無反応でいると平たいビッチはつまらなそうな声を上げる。


「……お兄さんってさぁ、女慣れしてる感じあるよね。何をしても動じないっていうか、達観してるっていうか。やっぱりエルフってモテモテなの? 人間の女を食いまくってるからそんなに冷静なの?」


「…………」


 平たいビッチは俺が振り落とさないのをいいことに再び調子に乗っていた。


「俺は今朝里を出てきたばかりだ」


「じゃあまだ未使用なんだね」


 こいつの話は下劣なものばかりだった。


 町の人間がこんなやつばかりでないと信じたい。






「エルフのお兄さんは奴隷に興味があるの? 奴隷って高いし、養うのも割と負担になるもんなんだよ?」


 奴隷商の店に向かっている途中、ウエストバッグのようにくっついたままの平たいビッチがまともな忠告してきた。


 見当違いではあるが、こいつもこんなことを言えるんだなと俺は密かに驚嘆した。


「奴隷を買うつもりはないよ。だが、奴隷を扱っている連中には興味がある」


 知り合いが売られていたら買い取ることも考えるが、基本はノータッチでいくつもりだ。


 それよりも黒幕の実態をよく調べて、必要なら残らず轢いておかないといけない。


「奴隷商でバイトでもするの? ノコノコ出向いたら逆に奴隷にされちゃうかもよ?」


「お前の心配は無用だ」


「お兄さんのために言ってあげてるのになぁ」


 ……そういえばこの女、なんて名前なんだろうな。覚える必要なんてないんだけど。


「というか、さっきからそのお兄さんってなんだよ。そんなに年は変わらんだろ。むしろお前のほうが年上じゃないのか?」


「えー? そんなわけないじゃん。わたし、十六歳だよ?」


 何気なく年齢の話を振ると平たいビッチはケタケタ笑い飛ばして言った。


 普通に年上です。本当にありがとうございました。


「俺は十五歳なんだが」


「えっ、年下!? エルフって外見と実年齢が伴わない種族って聞いてたんだけど!?」


「十五歳の時は普通に十五歳だよ。人間と違って年を重ねて行けば乖離していくけどな」


 見た目と年齢が釣り合わないのはエルフの成長が人と比べて遅いわけではなく、若い期間が長いだけのこと。


 ただ、精神の老成は人間よりも緩やからしいが。


 見た目に引っ張られてそうなるのかどうかは知らない。


「うっわー。じゃあ三十年後はわたしだけおばさんになってるのか。嫌だなぁ……」


 ため息をついて陰鬱そうに呟く平たいビッチ。


「心配するな。その頃には俺とお前は無関係になっているから比べることもない」


「随分冷たい反応をするんだね?」


「…………」


 なぜそういう対応をとられるのか、胸に手を当てて自分たちがしたことを思い出してみろと言いたくなった。

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