ゴブリンと無双3『気分は軽く、獲物を屠るイェーガーであった。』
地面にめり込んでしまうのではとこちらが危惧するレベルでごりごりと深く頭を下げる女騎士。
そうまでして主を救いたいと願う気持ちは少なからず共感できる。俺もそうやって死んだわけだし。
よっぽどこの御令嬢が大事なんだなぁ……。
しかし、騎士を有しているって、そんなに高貴な家の娘さんなんだろうか。
「あんたはここから逃げないのか?」
「誰かがゴブリンどもを引き付けておかねばとてもじゃないが逃げきれはしないだろう。騎士として私は最後の盾になるつもりだ」
「……なるほどな」
お漏らしをして震えていたくせになかなか頼もしいことを言うじゃないか。嫌いじゃないぜ、そういうの。
「――っ! ダメです、エヴィ! あなたを……あなたたちを置いてなんて行けません!」
女騎士の必死な態度に感化され、御令嬢も現実に引き戻されたらしい。主のために身を犠牲にしようとする従者の考えを改めさせようと騎士に詰め寄った。
「まあ、そこの騎士さんの気持ちはわからなくはない。俺もかつて似たようなことをした経験があるからな」
「そんな!」
俺の言葉に御令嬢はショックを受けた表情になる。ここで無理やり連れて行こうとしても抵抗が激しくて面倒くさいだろうな。
アレやコレやで濡れてるから触りたくないし。
「だが……。別にあれを倒してしまっても構わんのだろう?」
俺はどっかで聞いた台詞を流用してゴブリンたちを指さした。御令嬢は驚いた顔をした。女騎士も驚いていた。
そもそも逃げるという選択肢は最初から俺の中には含まれていない。
「馬鹿な……っ。これほどたくさんの敵を相手に勝てるとでもいうのか!?」
「まあ、多分大丈夫なはずだ」
「多分!? 多分ってなんだ!?」
女騎士がなんかキャンキャン言っているが放っておこう。女っていうのは興奮すると耳が痛くなる高音で叫んでくるから困る。
妹やシルフィも不意に機嫌が悪くなる時期があって、うっかり触れると感情的に怒鳴ってくるもんだからよっぽど耳栓を欲しいと思っていた。
――と、そんなことより。
輩どものときはかなりのオーバーキルだったからな。ゴブリンやオークは頑強そうだが、果たしてトラックの強度と比べてどうなのか。
モンスター相手に文明の力が通じるのか試させていただこう。トラックは人を轢くためにあるわけじゃないけど。
「危ない!」
俺が余所見というか、他のことを考えていたのがまずかったのだろう。
『グガガァ!』
女騎士のよく通る張りのある声が響くと同時に俺の頭部に鈍い痛みが走った。不意打ちで一匹のゴブリンがこっそり近づいて棍棒による一撃を見舞ってきたようだった。
「痛ぇなこの野郎!」
――ドガァッ!
『ギャピィッ!』
「あっ、やべっ」
うっかり『衝動的トラックアタック』を食らわせてしまった。もっと威嚇になる先手を打つつもりだったのに……。
俺の『衝動的トラックアタック』を食らったゴブリンは輩の頭目と同じように弾け飛んで一匹のオークの足元に転がった。
そんなに速度は出ていなかったが、当たり所が悪かったのだろう。転がったゴブリンは身動き一つせず、息絶えていた。
幸いなことにオークやゴブリンたちは仲間の即死を目前で見て少なからず動揺してくれたようだった。
美形脱糞騎士のリンチに夢中だったゴブリンズも動きが止まってこちらに視線が釘付けになっている。
一斉に向けられた視線に恐怖し、御令嬢と女騎士は震えあがって身を抱き寄せ合う。
怯え具合的にまた大地を潤しかねない勢いだ。
俺は打撃を食らった箇所を軽く撫でてみる。
棍棒の材質はヒノキ辺りだろうか。
この体になってから自分の強度を確かめたことはなかったが、木製の武器なら大したダメージにはならないみたいだ。
輩どもの時は一撃も食らわずに済んだからイマイチ確認できなかったが、大体把握できてきたぞ。
俺をへこませたければコンクリートを持ってこいってことだな。
『ギャギャガギャ』
『グガガガガッ?』
『ギガヤギャギャグア』
騒ぎ出すゴブリンたちにじろりと睨みを送り付ける。ゴブリンたちはたじろぐように全員が一歩退いた。効いてる効いてる。なかなか愉快な反応だ。
「ゴブリンどもよぉ!? お前らの血の色は何色だぁ!?」
俺は心の中でアクセルを踏み込み、ゴブリンとオークの群れに飛び込んでいった。
気分は軽く、獲物を屠るイェーガーであった。
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