ゴブリンと無双2『ジャパニーズドゲザ』
「ぐっ……デリック、エヴァンジェリン! お嬢様のことを頼んだぞ――ッ!」
俺がスピードを落としてこっそり接近し、馬車の背後から状況を窺っているとまた一人、巨大なオークに押し潰されて犠牲者が増えた。
「この野郎、隊長をよくも!」
人間にしてはそこそこ美形な顔をしている金髪の男性騎士は仲間がやられたことに怒り、考えなしにオークに突っ込んだ。
「ぐああああっ――!」
「デリックぅ――!」
無謀な男性騎士に向かって叫ぶ女騎士。
ぶりぶりぶりぶりぶり――ッ
そこそこ美形な男性騎士は腹を棍棒でぶん殴られて吹き飛んだ。そして腹に強い衝撃を受けたせいか脱糞もした。
鎧を着ていてもオークの腕力なら棍棒による攻撃すらお構いなしで貫通するらしい。
それほどまでに規格外の力を持っているのか、オークという種族は。
なんというチートだ。俺は驚いた。
『グギャグギャ』
『アンギャギャギャギャ』
『ギィーギィー』
「ごほっ……おのれ……」
口から血を吐き、痛みで動くこともできない美形脱糞騎士はゴブリンから棍棒での打撃リンチを浴びせられる。
「た、隊長……デリックまで……あぁっ……」
気丈に剣を構えてオークを牽制していた女騎士にも限界が来たのか、足のガクガク具合を加速させてとうとうその場にへたり込んでしまった。
じょわじょわじょわ……
……また人間が漏らしてる。滴るどころではない、溢れると表現したほうが的確な黄色い奔流が女騎士の股座からスプラッシュしていた。
よく見れば女騎士の後ろに庇われているお嬢様も放心しながら座り込み、ドレスをしっとり濡らして水たまりを形成している。
どうなってんだこれは……。もう滅茶苦茶だよ……。
もはやこの街道は人間の血と尿と糞でできていると言っても過言ではない。
そう思えるくらい俺は汚いもので染まる街道を立て続けに見てきてしまった。
前文だけ見ると裏社会について語るハードボイルドな台詞に聞こえたりするから面白い。
文脈ってだいじだね。え? 聞こえない?
ほら、感じ方は人それぞれだから……。トラック的にはそう感じられるんだよ。
閑話休題。
さて、そろそろ静観しているわけにもいかんな。
ゴブリンに殴られ続け、見ていて不安になる感じの痙攣をし始めた美形脱糞騎士。
絶望的な状況に精神崩壊しつつあるお漏らし女性陣。
客観的に見て、かなりやばい絵面である。
ここで彼女らをスルーして町を目指そうものなら輩に言われた人でなしという烙印が事実になってしまう。
まあ、身体はエルフで中身はトラックだから実際に人ではないんですがね。
とりあえず、連中はご主人と同じ金髪だし助けておくか。
ご主人のは染めた偽物だったけど。
俺は肩を回しながら馬車の裏から出て彼女らの前に歩み出た。
「え、エルフだと!? なぜこんなところにエルフが……」
突然現れた第三者の存在に刺激されたのか、女騎士は理性を取り戻した目になって俺をまじまじ見てきた。
なんだよ、エルフがこんなところにいちゃ悪いのか?
「そ、そこなエルフ! 唐突なことで不躾かもしれないが、テックアート家の騎士としてお願い申す!」
腰が抜けて上手く立てないのか、女騎士はズルズルと這うような動作で俺の目の前までやってきて頭を地に押し付けて頼み込んできた。
土下座だった。ジャパニーズドゲザが異世界にも存在していた。
「人間の頼みなぞ、エルフである貴殿には聞く価値もないかもしれない。だが、後生だ……このテックアート家の令嬢をこの場から連れてニッサンの町まで逃げてはくれないだろうか? 一介の騎士である私が言い切れることではないが、引き受けてくれたなら相応の礼が当主から支払われるはずだ。だから、頼む!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます