ゴブリンと無双1『 あれは……くっころというやつだ。』
跳ね飛ばした輩どもの亡骸を森の奥へ放り捨てて街道の清掃を済ませた俺は当初の予定通りニッサンの町へ向かうことにした。
結局、奴隷商がどのような手段を用いてエルフが現れる日取りを把握していたのかは不明なまま。
どこの商人が輩どもに指示を出していたのかも聞き出せなかった。唯一の手掛かりは取り引きが町で行われるということだけ。
だが、取り引きのために対象の奴隷商はニッサンの町に潜伏しているのは確実だ。
町に着いたら聞き込みをして、奴隷商についての情報を探るとしよう。幸いにも俺の次に出立するのは早くても二か月後のシルフィが最短である。その間に解決の糸口が掴めなければ出立の日に迎えに行って安全を確保してやればいい。
この事態は下手をすればエルフと人との全面戦争に発展する可能性がある。
もちろんそんなことにならないようには努めたいが……。その辺の問題は里の大人たちと合流してから考えよう。
兎にも角にも、一年は里に戻れないのだ。
俺は俺にできる最低限を地道にやって、これ以上の被害者を出さないことに善処するほかない。
できれば一年を待たずに一人でも多く、早く助けてやれればそれがベストなんだが。
―――――
砂埃を上げて風を切って、元の世界だったら間違いなく切符を切られているスピードで俺は街道を駆け抜けていく。
広く見通しのいい街道を対向車や前の車を気にせずに突っ走る。
速度制限度外視のドライブは元の世界の常識がいい具合で背徳感を引き起こして格別なスリルと快楽をもたらしてくれた。
途中で追い抜かした馬車の御者が見せた驚きの表情は堪らなく愉快だった。
仲間がとんでもない目にあっているかもしれないのに俺の走り屋としての性はこんな時でも疼いてしまう。
エルフになっても根っこの本能は未だに無機物なトラックのままのようだ。
仲間たちがどうでもいいとは思っていないが、走っているとその楽しさのほうに心が行ってしまう。
もうトラックをやっていた年数よりエルフをやっているのにな……。いつまでも感情が車寄りなのはトラックの要素を残して転生させてもらった弊害だろうか。
姿かたちだけ取り繕われても、俺の本質は里の家族や友人たちとは似て非なるものなのかもしれない。
自分は親しい者たちとは違う。そう考えると少しだけ疎外感を覚えて寂しい気もした。
―――――
「なんだあれは……?」
走行を続けていると、俺は前方に広がっている穏やかではない光景に気が付いた。
『グガアアァァアァ』
『ギギャァアアアァァ』
『ガアアァァアアッ』
「お嬢様を何としても守り抜け! テックアート家の騎士の名にかけて!」
「ぐわぁあぁあぁ――っ!」
「ああ、ダイアーンッ!」
見通しのいい街道で、いかにも高貴な身分の者が好んで乗っていそうな装飾がやたらとゴテゴテした馬車がゴブリンとオークの集団に囲われていた。
「くそう、ダイアンが……ダイアンが……」
「諦めろ、デリック。もう手遅れだ……ッ」
一人の騎士がゴブリンの群れに押し倒され、棍棒でタコ殴りにされて頭をかち割られる。
どうやら彼らは野生のモンスターの襲撃にあっているようだ。
鎧を着た騎士たちは四名、先ほど一人やられて現在三名。にも関わらず、ゴブリンとオークは三十匹を超える多勢だった。
「くっ、私を殺すなら殺せ! だがお嬢様には指一本触れさせないぞ!」
一人の女騎士が背後にドレスの少女を匿いながら、自身の倍は丈のあるオークに剣を向けて対峙していた。
しかし力強い言葉とは裏腹に彼女の足はガクガクと震え、剣先は乱れまくっていた。
あれは……くっころというやつだ。
ご主人の弟が俺の中でスマホを使って見ていたアニメで聞いたことがある。
今度こそは間違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます