第6話王都炎上

ゼウスはアレシアを担いで屋根の上を問題なく進んでいた、オリアル軍はルカンデラ兵士の相手で忙しく上を見てる余裕はないらしい。

「優秀な兵士たちだな、ここまで責められているのに指揮系統が乱れずまだ諦めていないのか」

「当たり前でしょ、それに兵力差ならこちらの方が有利よまだ勝てるはず!」

「しかしあの武器はなんなんだ」

オリアルの兵士たちの中に特殊な形をした武器を持っている者が複数いるのを確認できた。その武器は一見ボウガンのようにも見えたが発射しているのは矢ではなく炎や雷だった。弓はなくなっており先端が長く鋭く尖っているそして両手で持たないと構えられないほど大きいのだ、発射される雷や炎も人を殺すには十分すぎる威力だった。雷に撃たれたものはその部位がはじけ飛び大きな穴が開いていた。炎は雷と違い放射型で長時間に渡り撃ち続けるものだった。炎を浴びせられたものは鎧が熱せられて溶解するほどだった、動きも制限されたため防御が裏目に出てしまった。兵士たちも混乱が起きていた。

「なんだあれは?!」

「俺が知るか!はやく撤退しろ!」

ルカンデラの兵士たちはこの武器のせいで兵力差を覆されていた。

ゼウス達も手を貸したかったが今は城に向かわなければ行けなかったため素通りすることしかできなかった。

「魔法か?見たことあるか?」

「いや私も見るのは初めてだわ神聖装備?」

城が近くなるほど街は荒れていた。何者かが門から城まで一直線に守りを突破したものがいるとゼウスは予想していた。謎は兵士がどのようにして内部まで潜り込んだのかだった。突破できるものが複数いるのかその場合は最悪だ。おそらく神聖装備を装着してるのだろうが相手はしたくない。

「あと少しだ」

城まであと一歩のところで誰かがゼウスの足を掴んだ。

「な!」

ゼウスは勢いよく転んでアレシアを前に放り投げてしまった。

「いったぁ!!どうしたの?!」

アレシアはゼウスの方を確認してすぐに状況が飲み込めた。

「先に行け!!後からすぐに追いつく!!」

「わかった!!」

神聖装備黒鋼を装着していないアレシアは足手まといになってしまうと悔しさを押し込めてゼウスを置いて城に向かった。

「行ったか……いつまでつかんでい」

手をほどこうとしたら下に引きずり込まれて家の1回まで降ろされたあげく道に放り出された。

「あー」

ゼウスは吹き飛ばされて放心していた。そして状況を理解して立ち上がって服についた汚れを払っていた。

オリアルの複数の兵士がゼウスを囲んでいた。予想以上に多く50人近くいた。

「動くな!」

複数の兵士が槍と先ほどの兵器を構えていた。

「おめぇか屋根の上をぴょんぴょんしてる銀髪の男は?」

ゼウスを引きずりおろした者が姿を現した。鋼の鎧を纏っている、おそらく神聖装備だろうが武器が見当たらない。そして体が痩せていて手が地面に着くほど長かった。

「たぶんそうだな」

ゼウスもやられた分を数倍にして返す気でいた。

「おめぇなにもんだ。見たところ神聖装備もつけてねぇよななのに人ひとり抱えてぴょんぴょ飛び回るとかにんげんじゃねぇな」

(アレシア無事に城に着いたかな)

ゼウスは相手の話を全く聞いてなかった。

「ん?何か言ったか?」

「おめぇ馬鹿にしてるなわっちのこと」

「そう見えたか。それはすまなかった」

相手は相当頭にきたのか手首を回して準備運動をしていた。

「なぁ1つ質問していいか?」

「なんだ?」

「ここの近くにある村焼き払ったのはお前か?」

「それを知ってどうする」

「そいつの心理を知りたくてね」

「残念違うよ。そいつの場所教えてやるよこの先の城の中に赤い鎧を着たスキロスって奴がそうさ」

「ほぉそれは親切にあいがとう」

「それじゃおめぇも終わりだ!」

相手の腕がゼウスの胸めがけて伸びてきたそれもかなりのスピードで的確に心臓を狙ってきた。これを避けるのではなくゼウスは掴んで止めていた。

「いやぁ~本当ここは飽きることはなさそうだ」

「ナ!え!はぁ!」

自分の腕が掴まれていることが信じられないらしい。

「バカな初見で見きれるわけが!」

「そうか確かに目くらましがあったら掴めなかったかもしれない」

周りにいる兵士たちもざわついていた。ゼウスは少し力を指にいれて鎧を少しずつ潰していった。

「動くなよこの腕をへし折るぞ」

周りの兵士たちも武器を下げていった。

「ちくしょうが早く離しやがれ!」

「やだよ……道開けてくれそしたら離してやるよ」

今の発言で何かが吹っ切れたのか大声を上げてきた。

「調子に乗るなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

その声と同時に兵士の1人がゼウスに雷撃を発射した。

「腕の1つ失っても構わん!」

「残念だ」

ゼウスは掴んでる腕を握り潰した。飛んできた雷撃を片手で軽く弾いて防いだ。

「そんなバカな」

潰された腕を抱えて絶望していた。

「創造・剣」

ゼウスは両手に剣を作り出して構えた。

「負けるかぁぁぁぁ!」

残ってる腕を横に伸ばしながら鞭のようにしならせて無造作に振り回し始めた。

「気でも狂ったか」

その腕を軽く剣で弾きながら距離を詰めていく。

「なんなんだよぉぉぉぉぉぉ!!」

鎧のせいで顔は見えないが恐怖で歪んでいるのがわかるほどの絶叫だった。

「ふっ!」

ゼウスが充分に距離を詰めて懐に飛び込んで斬り飛ばした。

「刃が通らないか」

ゼウスの剣が折れてしまっていた。そして斬り飛ばされてた相手もピンピンしていた。

「神聖装備をなめるなよ!」

またゼウスが瞬間移動したかのように相手の目の前に行き強烈なパンチを腹部に炸裂させた。

「ぶはぁ!!」

顔の鎧の間から血がにじみ出てきて胴体の神聖装備は木っ端微塵に吹き飛んだ。

「素手で殴ったほうが早そうだ」

そしてまた腹部にパンチをお見舞いして胴体を木っ端微塵にして腕や顔、下半身が周りに飛び散った。

「終わったか……」

周りの兵士たちも腰を抜かしていたして戦意喪失していた。

「う、あ、う」

「嫌だ」

泣き出している者もいてゼウスはなんだか殺しにくくなってしまった。

「仕方がない」

ゼウスは縄を作って屋根につるし上げた。1人1人縛ってる時間なんかないので5人程度をまとめて闇魔法をうまく利用して吊し上げていった。

「こんなもんか。早く城に向かわないとな」

ゼウスは道を塞ぐ兵士を魔法で破壊しながら城に向っていった。


アレシアはゼウスと別れた後兵士に見つからないようにして最速で城に向かっていた。

(昔から私はここで住んでいるのよ道ならすべて頭に入っている)

そして地下から城の内部に潜入することに成功した。

(誰もいない?)

周りを確認して安全を確保しながら慎重に王室に向かっていた。

地下をでると城の内部は凄惨な光景が広がっていた。血が飛び散り肉片が散っていて豪華に祭られている像が泣いているように見えた。日の光が差し込み幻想的な雰囲気が醸し出していた。

「誰かいないの……」

かすれる様な声で言ったがもちろん返事などあるわけなかった。

「王よ無事でいてください」

王室まで敵の姿はなくオリアルとルカンデラの兵の激しい戦いの後が続いていた。そして王室の近くで激しい戦闘の音が聞こえてきた。そして王室前の広場についにアレシアは到着した。

「これは一体……」

神聖装備装着者が8人も激戦を広げていた。そして7人が王、アダルバートに刃を向けていた。そしてアレシアは目を疑った。なんと4人がルカンデラの十騎士だったからだ。アダルバート王は血まみれで気を失っていた。

「何してるんですか!!!あなた達は!!!」

アレシアの怒号とともに全員の目線がアレシアに向けられた。

「おいあれアレシアじゃねーか予定と違うぞ」

ルカンデラ十騎士の1人フラン ダックスが口を開いた。黄色と赤を織り交ぜた神聖装備を装着していた。そして使う武器は槍。光属性を得意としていた。名称はラングリアと呼ばれている。

「アドニスがしくじったな」

ルカンデラ十騎士の1人レジス ブース。緑の神聖装備を使い武器は巨大なおのを使用していた。名称はガイアと呼ばれている。能力は属性ではなく大地の力を利用して戦う。

「でも黒鋼は装着してないぜ」

ルカンデラ十騎士の1人コランタン カーク。青色の神聖装備を使い二刀流を装備している。水属性を武器に戦う。

「計画に変更はない続けろ」

ルカンデラ十騎士のクオーツ ダライ。黄色い神聖装備を装備し武器は拳にはめているナックル。殴ると同時に巨大な爆発を起こす。名称はゴルレーラ

この戦力差の中1人だけ王を守っている兵士がいた。ルカンデラ十騎士の隊長アルゴード、黄金の神聖装備と真紅のマントを纏い巨大な大剣を振りかざして4人の反逆者と3人の侵略者から守り抜いていた。

「アレシア無事だったか!!」

「おいおっさんよそ見してると死んじまうぜ!!」

真っ赤な神聖装備を身にまといまるで炎の化身のような男がアルゴート対峙していた。

「やっかいな」

アルゴートも王を守っているため自由に動けずにいた。

「見捨てれば楽になるぞおっさん!」

容赦なく炎を纏わした大剣を振り回してアルゴートの体力を消耗させていった。

「おいサルマン早く終わらせろ」

オリアルの神聖装備装着者が急かすように言ってきた。

「まてよクルーゼこんなに強い騎士とやりあうのは久しぶりだぜ!」

「何とか言ってくれログル」

「作戦が成功すれば何でもいい」

炎の神聖装備を装着している男はサルマン。炎の大剣を武器にすべてを燃やし尽くす。

青と白の神聖装備装着者のクルーゼ。声からしておそらく女だろう能力不明。

紫の神聖装備装着者ログル。能力不明。

アレシアはこの最悪な状況の中どう動けばいいか混乱していた。

(どうすればこんなのどうあがいても勝ち目なんて……)

必死に考えてた。しかし彼らがなぜ裏切ったのかがどうしても知りたかった。

「な、なぜ裏切ったのですか……」

「それは私が説明しよう」

後ろから声が聞こえてきた。そして歩いてきたのは王の補佐アドニスだった。

「そんな……」

「私に娘がいたのは知っているね」

「は、はい」

「娘は6歳になったときある病にかかってしまった。そしてルカンデラではその病はなおせなかった……はずだった。だがどうだ調べたところその病はオリアルでは簡単に直せてしまうほど医学は発展していたのだ。ルカンデラの王アダルバートはわざとこの国の技術を低下させていたのだ医学、科学、魔法すべてあいつが発展しないように制御していた!さっさと発展していれば私の娘も死なずに済んだのに!!このことを問いただすと技術の行き過ぎは世界を滅ぼすなど戯言をほざくばかりではないか!あんな無能に王でいる資格などないだからオリアルに亡命したのだ!世界を変えるために!」

アレシアの背後にクオーツとレジスがばれないように回り込んでいた。

「アレシア共に歩まないか」

「お断りします!」

アレシアの心は最初から決まっていた。自分を助けてくれて装備を与えてくれた王を裏切るぐらいなら死んだほうがましだと思っていた。

「残念だ」

2人がアレシアを抑え込んだ。

「くっつう」

「どうしますこいつ」

「後で裸で街中を引きずり回そう。民衆も兵も士気が一気に下がるだろうな」

アドニスがアレシアの頭を踏みつけた。

「屑が」

まだアレシアの目は死んでいなかった。そしてサルマンとアルゴートの戦いも決着が着いた。

「おいまじかよもっと殺し合いしたかったぜ」

傍観していた2人が手を貸していた。

アルゴートも体力の限界がきて床に伏せていた。

「ふんこの男はるか遠くに送ったのに部下からの知らせで三日三晩飲まず食わずでここまで走ってきたらしいからな。消耗してなかったら危なかったかも知れないぞ」

アドニスがサルマンの横で説明していた。

「まじっすかすごいなおっさん」

もう喋る体力すら残っていなかった。

「何とか言えよ」

サルマンがアルゴートを蹴り飛ばす。意識はあるがどうすることも出来ないのだ。

「終わりだ」

アドニスがゆっくりとアダルバートの近くに歩いてくる。

「王よあなたの時代は終焉を迎えます」

両手を上げて高らかにアドニスがルカンデラの新たな王になるとここに宣言した。

「反逆者どもを吊し上げろ」

地面に這いつくばっているアレシアを立たせた瞬間クオーツとレジスが前方に吹き飛ばされた。

「何が!」

ゼウスがアレシアに肩を貸して立っていた。

「悪いな少し遅れてしまった」

「本当遅いんだから」

「な、何が起きた!!」

アドニスは慌てて周りを見渡した。そこには銀髪の男がアレシアに肩をかしていた。そしてなぜクオーツとレジスが吹き飛ばされたか理解できなかった。

「なぁ!!」

瓦礫の中からクオーツとレジスが立ち上がった。兜が破損してしまったため2人とも始めて顔を見せた。クオーツは耳にピアスが多い坊主の30代男性だった。目つきはかなり鋭くこわもてだった。レジスは少し気の抜けた弱弱しい20代後半の男といった感じだ。短髪でたれ目が印象的な顔立ちだ。そしてお互い始めて素顔を見た。

「ふんそんな顔だったのか」

クオーツは半笑いでレジスに言った。

「うるさいよ」

ゼウスも不思議そうに2人を見ていた。

「なんだあの2人仲間なのに顔知らないの」

意外だと不思議そうな顔をしていた。

「みんな素顔を隠してるのよ。神聖装備を装備してない時は暗殺とかあるかもしれないからね」

「でもアレシアはすぐにバレてたよな?」あ

「私は裏切り者がいるなんて信じたくなかったし市民も顔を見せたほうが安心するでしょ」

「おお~」

立派な考えだと感心したゼウスだった。

「おい何おしゃべりしてんだ!」

吹き飛ばされたクオーツは頭に血が上ってかなり興奮していた。

「この銀髪野郎どんな手品使ったか知らねーがぶっ殺す」

やれやれとゼウスはアレシアをゆっくりとその場に降ろして大きくため息をついた。

「口の悪い禿だな」

この一言がクオーツを吹っ切れさせた。

「殺す!!」

「落ち着けクオーツ」

レジスがクオーツの肩を抑えて歩みを止めさせた。

「頭に血が上っていると勝てるものも勝てないぞ」

「なんだびびってるのか?!」

「まぁな素手で殴って神聖装備を破壊する奴だぞ、異常だ」

「あいつもどこかに隠しているんだろ神聖装備を」

「服の中に隠せるほど小さい神聖装備など聞いたことないがな」

クオーツの我慢も限界に達してレジスの手を振りほどいてゼウスに向かって走り出した。

「試してみるのが早い!!」

「アレシア下がってろ」

「わかった」

アレシアは正直ゼウスには逃げてほしかった。彼には関係のない戦いだったから、装備すれば一騎当千できる神聖装備装着者が敵に7人、だが彼なら何とか出来るんじゃないかと根拠のない自信があった。

(ゼウスがどんな戦い方をするのかしっかり見ないと)

「行くか」

ゼウスが静かに言うと目にも止まらぬ速さで走っているクオーツの目の前まで詰めた。

「な!!」

ゼウスの腕が帯電していた雷を右腕に集中して殴ると同時に発射する準備をしていた。そしてクオーツの顔めがけて拳を振ったが外れた。

「馬鹿が下がれ!!」

レジスがクオーツを後ろに引っ張ってギリギリで回避させていた。

「はずれたか」

しかしゼウスは追撃で帯電していた雷を2人に向けて発射した。

「まずい!まずい!」

2人は急いで右に回転してこれを回避した。はずれた雷は城の床を破壊するほどの威力だったがアレシアとの戦いよりは弱く感じた。

「まじかよこいつ」

この場にいる全員が目の前にいる敵が危険だと理解した。ただの人間だと侮っていたら負けると。

「待て俺にやらせてくれ。なぁあんた名前なんて言うんだ?」

サルマンが手を上げてゼウスの前に歩いてきた。

「ゼウスだ」

「ゼウスか、どうだ俺と1対1で勝負しないか?」

「やだよ」

ゼウスは即答した。

「な、なんでだよ」

「やる意味がないだろ」

「サルマンいい加減にしろ!!こいつは全員で殺す!」

クルーゼが会話に割って入った。

「黙ってろクルーゼ!!」

2人は喧嘩を始めてしまった。

「えぇぇ」

ゼウスも予想外の展開にどうすればいいかオドオドしていた。

この時あることを思い出した。

「そういえばお前か近くの村を焼き払ったのって」

サルマンが腕を組んで少し悩んで答えた。

「あぁたぶん俺だ」

「なんで焼き払ったんだ?捕虜にしたり人質にしたり他にもいろいろあったろうに焼き殺す意味が理解できない」

ゼウスは何故か怒っていた。本人すらこの感情がなんなのかすらわからなかった。

「うざかったからかな」

「それだけか?」

「それだけだ」

サルマンは何か変なこと言ったかという顔をして平然としていた。

「だって助けてだの嫌だのキャーキャーうるさいの嫌いなんだよ俺はただ殺し合いがしたんだけでめんどくさいのは嫌いなんだ」

「なるほどただあの村の人達が嫌いだったわけか」

「まぁそうだな」

ゼウスは少し笑っていた。

「何がおかしい」

「いや命のことについて悩んでいた私が馬鹿らしくなってきてね。私もいくつもの命を奪ってきて少し罪悪感があってね」

「命?そんなもん考えて何になる強者が生き残り弱者が食われていくのがこの世界だろ!」

「そうだな弱肉強食というのだろ、そうだな俺もお前が嫌いだ」

「そうかだったら殺し合いしようぜ」

「最初からここにいる全員殺す気でいるよ」

「なら話が早い」

サルマンが巨大炎剣を振りかざしてゼウスに斬りかかった。クルーゼももうあきらめてこの戦いで相手の力を見極めることにした。他の装備者も同様の考えだった。

「行くぜ!!」

ゼウスに向かって振り降ろされた剣はあっけなく片手で止められた。そしてサルマンも他の装備者も時間が止まったかのように思えた。

「なんで」

サルマンが必死で力を込めて動かそうとしているのに剣がピクリとも動かない。燃えてる剣を素手で抑えて平気で立っていることのほうが驚きだった。

(なんだこいつ!!なんだなんなんだよ!!なんで動かない!なんで!)

サルマンの思考は混乱していた。

「終わりか?」

ゼウスのこの一言でサルマンは現実に引き戻された。剣を引っ張ってサルマンの体制を崩してからゼウスの人差し指から光属性の熱線が発射された。

「クソが!」

サルマンは剣を手放して避けるしかなかった。

「ほうこれが神聖装備か近くで触るのは初めてだな」

初めて使える神聖装備に興味が尽きなかった。

「くそが返せよ!」

「もう見てられない行くよログル!」

「了解」

クルーゼとログルが向かってきた。

「さて使ってみるか!」

ゼウスは炎剣に力を込めると体の中からエネルギーが吸い取られていくのを感じた。

(なるほど自動で吸い取っていくのかだから誰でも使えるわけか)

そして思いっきり振りかざした。そしたらサルマンとは比較にならないほど巨大な炎がクルーゼとログルを直撃した。

「ああぁぁああぁあぁああぁぁあ!!!」

悲鳴が室内に響き渡る。

「なんだよこの威力は」

サルマンは自分の神聖装備の実力をここで初めて知った。

「体が はぁはぁ」

クルーゼとログルは生きていた。しかしダメージも大きかった。神聖装備の表面から煙が出ていて塗装が剥がれている個所もあった。

「俺達も行くぞ!!あの火力はやばい全員散開して攻めろ!!」

フランの指示で一斉に散らばったクオーツは正面から、レジスとフランは右に行き左はクオーツに回った。

(散開されると面倒だな)

ゼウス自身この剣の火力はまだ操れていなく、下手したらアレシアなどに当たってしまう可能性があったからだ。

(まぁアレシア達を人質に取られなくてよかったか)

「戦闘中に考えごとか?!」

フランが遠距離からラングリアを使って光線を発射してきた。ゼウスはこれを剣を使ってガードした。

(頼んだぜコランタン!)

この光線は長時間発射されていてその隙に素早いコランタンが二刀流の間合いに入る。

「よくやったフラン!」

ゼウスはガードをやめてコランタンの二刀流の斬撃を受け止め始めた。

(使いにくい)

ガードばかりで攻めの一手がでない。大剣を振る隙さえ与えてくれない。しかもフランの遠距離からの光線んも絶妙タイミングで顔や足を狙って撃っていた。

(行けるこのまま押せば!)

後ろにはクオーツが拳に力を溜めて待っていた。

(仕方がない)

ゼウスが炎剣をフランに投げつけた。

「何を!」

剣は剣先を向けてまっすぐ飛んできた。フランは避けたが壁に深く刺さっていた。

「剣を捨てるとは気でも狂ったか?」

「違うな剣を変えたんだ」

ゼウスの両手には二本の剣が握りられていた。

「どこから?!」

ゼウスの目にも止まらぬ速度で斬撃が飛んできた。

(まじかよこいつなんだこれ?!)

コランタンが押され始めた。剣戟を受けきれず神聖装備に当たっている個所もあった。しかしゼウスの剣が砕けちった。

(神聖装備とそこらへんの剣と競えるわけないだろ!)

しかしゼウスの手からマジックのようにまた剣が出てきた。

「どこから出してんだよ!」

「秘密だ」


「まずいなクオーツ行けるか?」

「ああ大丈夫だ」

クオーツの手は光に満ち溢れていた。そしてゼウスに向かって全力で走り出した。

(もう1人来るか)

「俺も行くぜ!」

コランタンの剣から水が垂れてきた。

(水?何する気だ?)

剣を振ると同時に垂れていた水が水圧カッターとなって飛んできた。ゼウスの剣が紙のように切れてまともに戦えなくなってしまった。

(今度は俺のターンだ!剣を出してもすぐに壊してやるぞ!)

優勢に見えたコランタンだがゼウスは水圧カッターを受けながらコランタンの腕をがっちり掴んだ。

「何を!なぜカッターが効かない?!」

「少しばかり頑丈でね」

コランタンの腕を潰そうとしたら後ろから木の根が生きてるようにゼウスの体に巻き付てきた。

「なんだこれ」

木の根の出所を確かめるとガイアの斧が地面に突き刺さっていた。

「なるほどこんなのもあるんだな」

そして身動きが取れないゼウスの腹部にクオーツのゴルレーラが炸裂して巨大な閃光と炎が巻き上がってゼウスは奥に吹き飛ばされた。

「ゼウス!!」

アレシアの叫び声が部屋に響き渡った。

「たく手間かけさせやが」

気づくとクオーツの顔が空中に飛んでいた。そしてごとと何か固い物が落ちた音が聞こえてきた。赤い液体が部屋の床に広がっていく。

「なんでお前がそこに立っているんだ……」

コランタンが一番早く状況を理解した。

(こいつは確かに吹き飛ばされたはずだ!それに俺の目が確かに見たこいつは左腕が無くなっていたはずだ!なぜ腕があるんだ?!それにこんな短時間で吹き飛ばされた場所から戻ってきて首を斬り飛ばしたのかよ……)

静寂が部屋を包んだ。

「化け物め」

コランタンの声は怒りに満ちていた。

「嘘だろクオーツが死ぬなんて」

レジスは悲しみの声だったのに対してゼウスはまたいろんな考え事をしていた。

(なるほど仲間が死んだときの反応はいろいろあるのか悲しみもあれば怒りか面白い)

「うわぁあぁぁぁぁあぁぁあ!!!」

コランタンが捨て身でゼウスに突進してきた。

「うるさい」

これを雷撃で軽く吹き飛ばした。

「コランタン!!畜生がぁぁぁぁあ!」

ガイアを地面に突き刺してまた能力を使い木の根を出現させようとしたが突き刺す前にゼウスがガイアを掴んでいた。

「いつのまに!!」

ゼウスがレジスの腕ごとガイアの斧をもぎ取った。痛みに耐えられずレジスが転がりまわる。

「ウでがぁぁぁっぁああぁ!!」

「うるさい」

転げまわるレジスをゼウスは蹴り飛ばした。

「あ……あぁあ」

レジスはアドニスの隣に飛んできた。その姿を見てアドニスは腰を抜かした。

レジスの腕を投げ捨てて手に入れたガイアをまじまじとゼウスは見ていた。

(なるほどこの神聖装備が木の根っこみたいなものなのかこれが急成長して攻撃してくるのか)

しばらく観察していると休んでいたクルーゼとログルが立ち上がってゼウスに向かって歩き出した。

「もう戦える状態じゃないだろ。やめておけ」

「お気遣い感謝するよ。だけどね引けない理由があるんだよ」

「そうか私も引けない理由があるんだ」

「1つだけ教えてほしいお前は何者なんだ」

この質問にアレシアを含めこの場にいる全員の疑問だった。その答えがいま出るかもしれない。

「そうだな私もまだ詳しくはわからないが人知を超えた力、支配できない者、超越者、いろいろ考えたが一番近い答えは神と呼ばれているのが一番近いかな」

ゼウスの発言は何もなければただの狂人の発言で済む、しかしこの場で言われるとそんな気がしてしまうほどの説得力があった。

「は……はは随分面白いこと言うじゃないか、どこが神なのか教えてほしいものだね」

アドニスが涙目になりながらゼウスに答えを求めた。

「昔から人類が理解できない者を君たちは神の仕業と言ってきたじゃないか?まぁ確かにこれだけでは説得不足だなどうしたものか……」

アドニスにはゼウスが神だろうが何だろうがもはやどうでもよかったとりあえず時間稼ぎが目的だったため勝手に悩み始めてくれ助かった。

(神など虚言を吐く阿保に負けるなんてあってたまるか今のうちに早く体勢を立て直せ役立たずどもが!)

その意図に気づいたのかサルマンも壁に刺さっていた炎剣を抜いて歩いて行った。そしてログル、クルーゼ、サルマン、フラン、コランタンの順で並んで準備をしていた。

「もう準備はいいのか?」

そう言うとゆっくりと後ろを向いて彼らと向き合った。アドニスはゼウスが後ろを向いたら一目散に出口に走っていったがこれをゼウスは見逃さなかった。鎖を投げて巻き付けてアドニスを吊し上げた。

「ま、まて!話をしよう!!な!な?!」

「黙ってろ」

この一言で彼は口を閉じた。

この隙にアレシアは王とアルゴートの近くに来ていた。

「アルゴートさん大丈夫ですか?」

少しづつ彼の上半身起こした。

「彼は何者なんだ?」

アルゴートの質問にアレシアも答えられなかった。1週間近く一緒にここまできたが確かに何者かはさっぱりわからなかった。それでもただ1つだけわかることがあった。

「ゼウスは味方です」

「その言葉を信じていいんだな?」

「はい」

「そうか」

アルゴートは安堵して笑った。

「しかし彼は……名をゼウスと言ったか?ゼウス君はこの戦力差で勝てるのかね?」

「わかりませしかし今は信じることしかできません」

こんなことを言う無力な自分を許せなかった。

(先程の戦いを見ていたが確かに人間ではない、魔法を使えるようだが杖を利用していない、それに神聖装備の攻撃を直撃したのに無傷なのも説明がつかない。そんな生物は今までいただろうか?本当に神なのか……)

アルゴートは今までの出来事を冷静に解析していた。

「ゼウスお前の準備は出来たのか?」

ゼウスの前にいる5人は選りすぐりの戦闘エリート、全員がプライドを捨ててゼウスに戦いを挑む準備ができていた。

「その前に1つ質問させてくれないか?」

クルーゼがその質問に応じた。

「いいだろうなんだ」

「オリアルはもうすでに強国だろう、なぜそこまで力と領土を求める?」

「そんなの決まっている。我らオリアル、いや人類がこの大陸ヴァオールカイナを制覇するためだ。この大陸にはまだ未知なる敵が多くいる。竜ドラゴン、天使エンジェル、悪魔デビル、人獣ヒューマンビーストすべて打ち砕いてみせる。無法地帯もいつか必ず手に入れる」

「そうかやはり理解できないそれなのになぜ村を焼き払ったり住民を無駄に傷つけたりとあまり私は好まないな……それに竜などは知能が高く言葉を話せるはずだまず話し合いから始めようと思わないのか?」

「人間以外の共存はありえない!我らの神はコーギリスだぞ」

「知らないな」

「もういい」

全員が構えた。静寂の中金属の音と息遣いだけが聞こえてくる。ゼウスも拳を強く握りしめた。アレシアも汗が止まらないほど緊張していた。

「行くぞ!」

サルマンが声を上げて気合を入れた。そしてクルーゼが一番最初に動いた真っすぐゼウスに向かって直進してきた。

(何か考えでもあるのか?)

ゼウスは疑いつつ応戦した。

他のメンバーはまた左右上下に散ったてバラバラになった。スピードはそこまで早くなく様子見をするかのような遅さだった。ゼウスは自慢の脚力でクルーゼのとこまで飛んで行った。そして光属性をのせた拳は金色に光り輝いていた。クルーゼの頭めがけて拳を振りぬくがクルーゼが一歩下がり攻撃を回避した。

最初からゼウスに攻撃させる為の誘いだった。ゼウスの攻撃の仕方はどれも単調そのものだった。殴る蹴るに魔法を撃つこの3つしかできないと判断していた。

何かの武術を習得している動きではなかったのもすぐにわかった何より動きがぎこちない。

(やはり戦闘は素人同然!)

「今だ叩き込め!!」

クルーゼが下がると同時に間髪入れづにサルマンとコランタンが上空から切り込んだ。これをゼウスは闇魔法をドームのように展開して2人の剣を防いだ。その大きさはゼウスを隠すほどの大きさだった。

「クソ!!」

その闇魔法の壁は星空のように輝いていた。

「闇魔法か綺麗なものだな」

「なんで攻撃が通らないんだよ!」

「物理を無効化する魔法だからな」

(だがそんなに長く形にならないはずだ)

思惑どうりに液状のようになってドームの形が崩れ始めてきた。

「もう少し崩れたら後ろで構えてる奴らと一緒に突っ込むぞ」

フラン達に合図を送っていたらドームの隙間から巨大な槍が飛んできてコランタンの胸に直撃した。

「何!?」

火花を散らしてコランタンは大きく吹き飛んだ。神聖装備のおかげで無傷で済んだが危うく胸に風穴が開くところだった。

「大丈夫か?!」

声をかけるサルマンの背後にゼウスが姿を現した。

「後ろだ!!」

フランが注意を促したがゼウスの拳はサルマンの頭を確実に殴り飛ばした。

「サルマン!!」

ゼウスの次の標的は体勢が崩れたコランタンに向いた。ゼウスが足に力を入れると石でできている床にひびが入った。

(来る!!)

目をそらした一瞬だったゼウスが目の前に立っていたのだ。

「相変わらず早いな」

「ありがとう」

そう返すとゼウスは右手に紅蓮の炎を纏った。

「逃げろ!」

クルーゼが全速力でコランタンの元に向かったが間に合いそうにない。コランタンは死を覚悟していた。しかしこの攻撃をある者が受け止めた。

「まだ早いぜ」

吹き飛ばされたサルマンがコランタンの前でゼウスの炎魔法を受け止めていた。

「炎どうしなら多少は軽減されるだろう」

しかしサルマンの炎剣には罅が入っていた。

後ろからフランとクルーゼ、ログルが駆け付けた。そしてそのまま止まらずにゼウスに斬りかかってきた。

フランが正面からの付きを繰り出すがこれを軽く左に回避し、クルーゼの追撃を光魔法をつかい目くらましをしてこれも無事に回避した。


「吹っ切れたか?」

ゼウスは神聖装備をくらうわけにはいかなかった。あの時ゴルレーラが当たった時左腕が無くなっていたのだ。しかしゼウスの意思とは関係なく飛び散った肉や血が勝手に集まって再生された。治癒は操作できないのがこの時分かった。それと同時に神聖装備を直接ダメージを受けると貫通することがわかった。そしてすごく痛かった。


「なんでこんなに早いんだよ!」

「また消えた!!」

最早作戦も何もなしに突撃する乱戦状態になっていた。ゼウスは人数と場数の差を魔法とパワースピードで補っていた。しかし仕留めるところで他のメンバーが必ずカバーしてくるので止めをさせずにいた。

「いい加減あきらめろ」

彼らは体力が限界に来ていた。息切れで動きが鈍くなりつつあった。

「ここまでだもう撤退しよう」

クルーゼの苦渋の判断だった。

「もうすぐ他のルカンデラの騎士が駆けつけてくる、本来なら今頃街の兵を掃討しているはずなの規格外の化け物に邪魔されたからな」

誰も逆らう者はいなかった。この会話を最後に全員バラバラの方向に走り出した。全滅を防ぐためだった。

「ゼウス!!貴様のこと覚えたからな必ず復讐にくるからな」

サルマンが一方的に言ったら穴が開いたところへ飛び込んで消えていった。

(逃げるなら追わなくていいか、それより大事な用事があるし)

急いでアレシア達のところへ駆け寄った。

「無事か?」

「おかげさまで全員無事よ」

アレシアは今にも泣きだしそうな顔をしていた。

「あなたも無事なんですか?」

ついでにアルゴートのことも心配していた。

「あぁ無事だよ本当にありがとうゼウス君……私の名前はアルゴート十騎士の隊長を務めているものだよろしく頼む」

アルゴートはゼウスに握手を求めた。そしてそれに応じたしっかりと手を握って返した。

「アレシア私はもう大丈夫だ1人で立てる。それより早く医者を陛下が心配だ」

「しかし街の方にはまだオリアルの兵士がたくさんいますよ」

どうしたものかと頭を抱えていると空に巨大な火の玉が飛んできた。

「なんだ攻撃か?」

その明かりを見るなり一気にオリアル兵が引き始めた。

「撤退の合図か、だけど……」

下の戦場は泥沼化していた。オリアルは撤退の合図を出したがルカンデラの兵士は執行に追撃していたため余儀なく応戦するしかなかった。

「酷いな」

ゼウスもどうしたものかと考えていた。全滅させるのは簡単だった。問題は無関係の人間を巻き込んでしまうことにあった。炎を出せるが出した炎は操れないのだ。あくまで出すだけ、そのあとは本人にもわからないからかなり危険だ。そのことがあるためゼウスも力を抑えている。未知の自分に恐怖があった。

しばらくしてアルゴートが後ろから近付いてきた。そしてすぅーと大きく息を吸い込んで準備した。

「私はアルゴート!!!ルカンデラの兵士たちよ引け!!!この戦はもう終わりだ!!!オリアルの兵も今すぐ帰れ!!!!」

王都全体に響き渡る声だったゼウスも耳の鼓膜が破れるんじゃないかと本気で心配したぐらいだった。だがおかげで混乱に満ちていた戦場は沈静化された。ルカンデラ十騎士は4人が離反、2人は城で死体で発見された。結果的に残ったのはアレシア・ルーン、アルゴート・ディルス、そして残りの二人は知らせを聞いて辺境の地から帰ってくる途中らしい。死者9万、行方不明者4万。

この日の夜はとても悲しくとても重かった。



あの戦争から夜が明けた。アダルバートが朝日と同時に目を開けた。これにより混乱に満ちていた民衆達が徐々に冷静になりつつ悲しい現実が押し寄せてきた。破壊された街、城、身元がわからないほどまでに焦げている焼死体、切断されている体の部位など地獄そのもの光景だった。家族を探す者恋人を探すもの友人を探す者たちが彷徨っていた。そんな中アルゴートが兵を率いて生存者の捜索に出た、その捜索隊の中にアレシアとゼウスの姿もあった。

「家の瓦礫を除けてくれ!!中で声がするぞ!!」

兵士たちが一丸となって瓦礫を慎重に除けていたら中から小さな子供が泣いていた。そしてその近くには潰された死体もあった。おそらく母親か父親、家族の誰かだろう。兵士たちがゆっくりと抱きかかえ必死にあやしていた。他の場所ではゼウスとアレシア達が死体を回収していた。

(吐きそうな臭いだ、うぅ気持ち悪い)

ゼウスは吐き気を必死に抑えていた。しかしアレシアは慣れた手つきで淡々と死体を回収していた。

「アレシア気持ち悪くないのか?」

「何が?」

「いや臭いがダメで……うぇ」

喋ると生臭い空気が一気に入ってくる。鼻を潰すかこの時本気で迷っていた。

「私は慣れてるから……」

「へぇ~」

無言で作業をしているとこの近くで助けを呼ぶ声をゼウスは聞き逃さなかった。

「声が聞こえる」

「え?」

「聞こえないか?」

歩き出したゼウスをアレシアはついて行った。

「ちょっとどこ行くの」

「この近くなんだけど……ここだ」

立ち止まると崩壊した家があった。その瓦礫をゼウスは次次どかしていくと下に怪我をしている家族がいた。

「大丈夫ですか!!」

アレシアは急いで保護して全員無事で済んだ。

「よく気が付いたね」

「まぁな命を粗末にしちゃいけなからな」

「質問していい?」

「なんだ?」

「戦ってる時自分のことを神って言ってたでしょ?」

「あぁそのことか」

言った本人が忘れていた。

「いやなんというかそのそれに近いってことかな」

「ふーん」

「これからなるってことだよ」

作業を続けているともう夕暮れになっていた。

「ゼウスそろそろ帰りましょう」

「城にか?」

「それ以外に帰る場所ないでしょ?」

「そうだな」

城に戻るとアダルバートに呼び出されていた。何やらいろいろ話したいことがあるらしい。謁見の場所えアルゴートと共に向かって歩いていた。

「なんの用事なんですかね」

ゼウスはあからさまに面倒な顔をしていた。今日1日生きている人間より死体と向き合っている時間の方が長かったためか精神的にまいっていた。

「ゼウス君私も君にいろいろ聞きたいことだらけだぞ。」

「答えられる範囲で答えましょう、何が聞きたいんですか?」

「そうだな……まず魔法はどこで習ったのだ?」

「生まれた時から使えました」

「そ、そうかそうなのか」

「案外簡単に信じるんですね」

「嘘をついてるようには見えないからな」

(他の質問はまたの機会にしよう……)

アルゴートから軽く謁見のルールと身の振り方を教えてもらったがゼウスだが正直頭を下げるのは乗り気じゃなかった。

「失礼します陛下彼を連れてまいりました」

中に入るとアレシアもすでに到着していていて鎧を身にまとってアダルバート王の警護に就いていた。ゼウスがルカンデラの正装に着替えていた。中世貴族のような服装はあまりいい気はしなかった。ゼウスが口を開こうとすると先にアダルバートが動いた。

「ゼウス殿……この度は本当にありがとう」

なんと玉座から歩いてゼウスの所まで降りてきて頭を下げたのだ。ここにいるのはゼウス、アダルバート

、アレシア、アルゴート以外誰もいなかった。そしてゼウスもいきなりの行動で固まっていた。

「陛下……いいのですか?一国の王が頭を下げるなど大問題です」

「いいのだアダルバートよ彼がいなければすべて失うところだった……オリアルだけには負けるわけにはいかない」

ゼウスは話が勝手に進んで苦笑いを浮かべていた。そしてアレシアはそんなゼウスの状況を見てクスクス笑っていた。

「私はどうしたらいいんでしょうか?」

「何か褒美を用意させたいんだが……おぬしが望む物は何かあるか?」

「そうですねではご相談が」



4日後王都も大分活気を取り戻しつつ復興の目処が立ってきた。

城も所々に穴が開いていたため補修工事が進められていた。一方中庭ではアルゴートからゼウスは剣術指南を受けていた。これはゼウスが望んだことで仕事の合間を使って戦い方を教えてほしいということだった。

やはりゼウスの潜在能力は凄まじく底が知れないものがあった。アルゴートも少しこのまま鍛えていいものか取り返しのつかないことにならないか心配する一面もあった。

「ゼウス殿そこはもう少しフェイントをかけるなどして相手を翻弄したほうがよいぞ」

「そう……ですか」

「押すと見せかけて引く、引くと見せかけて押すこれだけでも大分戦況が変わるからな」

「なるほど」

「魔法の類は専門外なのですまないが……」

「あぁそちらはもう専属がいるので大丈夫です」

「そうかならよかった」

「今日はこの辺で終わろう」

「はい、ありがとうございました」

「これからまた書物庫で勉学かね?」

「そうですねいろいろ知りたいことがありますから」



書物庫で本を読んでいていろいろ疑問が浮かんでくる、まず人間以外の知的生命体が数多く存在していることだ。しかし記述が少なく接触を試みる機会もなかったようでまったく生態や情報が載っていない。書いてあるのも100年前の物ばかりで信頼できるか怪しいところだった。

(やはり他の生物についてはわからないか)

それ以外の本は大方読み終わってしまった。戦術、経済、法律、伝統などとても面白くて為になった。

(そろそろ地底都市に帰るか……その前に少し話をしてくるか)

ゼウスはアダルバートの部屋を訪ねた。

(しっかし王様と簡単に会えるなんて意外とフレンドリーな王様だな)

「失礼します」

「何か用かね?」

「オリアルのここ最近の軍事強化についいてです。100年前は小さな国に過ぎなかったのに今ではヴァオールカイナ最強の国ですからね、どうやってここまで上り詰めたかあなたは何か知らないんですか?」

「知ってるさ、一度同盟の件について話し合いの場を設けられた時に視察に赴いた事があってな……聞きたいのか?」

「是非」

「オリアルを一言で言うなら軍事国家だろうしかしオリアルはそれ以上に科学が進んでいるのだ。ではなぜこの短期間に急成長したかだがこれはオーパーツを手に入れたからだろう」

「オーパーツ?」

「古代の産物……あれには未来が描かれていたのだ」

「未来?」

「あぁ人々が領土を求め殺し合い滅ぶ未来が私には見えた。奴らの武器を見たか?」

「はい、魔法を発動させる装置でしたね。威力も高かったですね」

「そうだもし近い未来あんな兵器が普及してみろ、それこそ人類の終焉だ……すまない話がそれてしまったな。話を戻そうオーパーツには魔法道具、神聖装備の設計図が組み込まれていた。そのため彼らは神聖装備をいくらでも量産できる。1つ作るのにどれだけの期間が必要なのはわからないがすでに30近く作られている可能性が高い」

「そこまでわかっていたのですか。しかしなぜ今このタイミングで侵攻してきたのでしょうか?」

「この戦いはおそらく一部の独断だろう。君がいなければ今ここはオリアルの領地になっていただろうな。もうオリアルの暴走を止める国はどこにもない……」

「さぁそれはどうでしょうか」

ゼウスは不敵な笑みを浮かべていた。

「戦う気か?それならもう1つ教えておこう奴らは奴隷が大量にいるのだ。侵略した国の民を全員奴隷にして武器や食料の生産率をあげているのだ、それも強さの1つだ」

「わかりました、お話を聞かせていただきありがとうございました」

アダルバートはゆっくりと横になり眠りについた。

(明日には一度帰ってミリアとこれからのことを相談しよう。今日は寝るか)

ゼウスも豪華な客用ベッドで休んだ。

翌日

今日帰るため世話になった人達に挨拶回りをしていた。そして最後にアレシアの元に立ち寄った。

「やぁアレシア元気……そうでもないな」

「ゼウスじゃないどうしたの」

アレシアの目の下にはクマができており髪もぼさぼさになっていて眠たそうな顔をしていた。

「今日一度帰ろうと思ってなその挨拶だよ」

「もう帰るの?!」

「そうだが」

「そう……また会えるかな」

「いつでも会えるだろ、生きていたらな」

「不吉なことをいわない」

「そうだな、また立ち寄ることがあったらよろしくな」

「えぇ、また」

軽く挨拶を済ませると城の正門から歩き出すとある女性に声をかけられた。腕などに包帯がまかれており怪我人なのは確かだ。

「あのすいません!!」

「はい?」

(あ、この人瓦礫の下にいた家族か)

「助けていただきありがとうございました!!ずっとお礼が言いたかったのですが機会がなくて……あなたがいなければ私たちは今頃死んでいたかもしれません、本当にありがとうございました!!」

何度も何度も頭をぺこぺこ下げていて感謝の気持ちが痛いほど伝わってきたからゼウスももういいからと必死に止めていた。

「いえ、助けられてよかったです。これからも頑張って強く生きてください」

初めてここまで人に感謝されたことに言葉にできない感情がこみ上げてきた。握手を交わしたとき思ったのが自分なんかより遥かに力があったように感じた。

(帰るか……)

ゼウスはルカンデラ、王都ステラスを後にした



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クリエイト ワールド ストーリー @koizumi

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