32話 : 獣の目
アッサム「ど、どういうこと……?」
僕らの間を風が吹き抜けた。何か、嫌な予感がする。
ミルク「…そうなのですよ。んふふ。良いことを思いついたのですよ!」
そういうとミルクは里の中心へと向かっていく。その行動の意味が理解できず、ただ立ち尽くしていた僕らに気づき、数歩離れたミルクは振り返った。
ミルク「里へ、確かめに行くのですよ!」
月明かりを背に陰る顔の中に、黄色の瞳が怪しく浮かび上がる。
僕らは顔を見合わせた。確かに、レオンが何を隠したがっていたのか気になる。それはシュガーやコジーも同じだったようで、僕らは何も言わずついて行くことにした。
夜にも関わらず、ちらほら人が出歩いていた。
ミルク「ねぇ、おばあさん、少し良いかしら?」
里の老婆「おや、見ない顔だねぇ。私に何か用かい?」
ミルク「そうなのですよ。一つ、質問をしたいのですよ。……かぐや姫について」
“かぐや姫” という単語を耳にした途端、その老婆の様子は一変した。
目を輝かせ、ミルクへと押し迫る。
里の老婆「何だい!? お前さんは何か知っとるのかい!? 教えておくれ!! かぐや姫様に合わせておくれ!!!」
ミルク「質問をしたのはミルクなのですよ? 知っているわけがないのですよー」
里の老婆「じゃあお前さん達が何か知っとるのかい???」
そういうと僕らの方へと視線を向ける。それは老婆のものではなく、もはや獲物を狩る獣のそれだった。
僕はそれと目を合わせるのが怖くて、シュガーの後ろに身を隠した。
シュガー「……すまないな。私達も知らないんだ。それより、何故そんなにもかぐや姫を求めるのかを教えてくれないか?」
里の老婆「なんだい、知らないのかい……」
老婆は力なく、近くにあった誰かの家の前の椅子へと座り込んだ。
里の老婆「かぐや姫様にお会いできると、不老不死の薬がもらえると言われておる。……ほかにも富や名声が手に入るとも言われておる」
ミルク「…へぇ。結構素直に教えてくれるのですね」
里の老婆「かぐや様はこの里に必ずおると噂されておるのだ。…少しでも情報が出て来るのなら、少し喋る程度どうということはない」
老婆の顔からは、もう先ほどのような迫力は消え失せていた。老婆は伏せていた顔をこちらへ向けた。
里の老婆「……そこのお前さん、村人か?」
僕はビクッと肩を震わせた。獣の目がこちらを向いている。どうやら僕に言われているらしかった。
僕はフードを深くかぶり直しながら答えた。
アッサム「……う、うん。ガーネットから来たんだ。…よ、よろしく?」
里の老婆「……お前さん、村人、なんだね?」
シュガー「だからなんだと言うんだ!?」
そう言いながら、シュガーは僕とお婆さんの間に割って入ってくれた。
老婆は目を細めた。
里の老婆「……手伝って欲しいことが、ある。…だから入っておいで。一人でな」
老婆はそういうと椅子から立ち上がり、その家の中へと姿を消した。
村人Aですが、魔王を助けに行きます。 ユキノシタ @Tukina_Kagura
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