第14話 傭兵団、団長

私は店主と個室にいます。


一時間ほど前、店内の異様な雰囲気に畏縮していた私を

店主が気遣ってくれたのか、奥の個室に案内されました。


少し冷めた紅茶を飲みながら、今の状況やこれからどうするか、

色々、考えてみましたが良い案はでず、時間だけが過ぎていきました。


三十分ほど経ったでしょうか突然、怒鳴り声と共に

何かが割れる音や、連続して轟音が個室にまで響きました。


先ほどまで居た、ホールの状況が全く判らない私は

不安を抱きつつ、気持ちを落ち着かせるために、冷めた紅茶を飲みきりました。


収束が訪れたのは、ドカンっと言う、何かが吹き飛んだ様な

今まで以上の爆音が鳴ってからでした。


先ほどまで騒がしかった店内が一瞬にして、静かになりました。


外の様子が気になるものの、下手に動くことも出来ず、頭を抱えていると

店主が横に立っていました。


『お騒がせしてしまい、すいません。 こちらはお詫びの気持ちです。』

空になったカップに紅茶を注いでくれました。


少し安心したものの、私の警戒心は解かれることなく、注がれる紅茶をジッと見ていました。

一度、ポットを置きに行った店主が戻ってくるまで、時間はかかりませんでした。


『横に座ってもよろしいかな』


予想していなかった言葉に戸惑いながらも、前の席を勧めました。


先ほどの紅茶のお礼をと思い


『あ、ありがとうございました。』

『とても、美味しい紅茶です。』


どもりながらも、店主に話しかけました。

それまで、あまり表情が変わらない店主も、頬が少し上にあがり、


『常連客なんですが、少しトラブルがあったようで』


店主は申し訳なさそうに、頭を下げました。


あんな騒ぎがあった後なので、私も戸惑いながら


『いえいえ、元気なのは良い事です。』


的外れな返事を店主にしていました。


落ち着いた空間に先ほどまでの、緊張感も少しほぐれた所で、店主が席を立とうとしました。

謝りに来ただけだったのかな、っとぼんやり考えていると


一瞬の出来事でした。


腰からナイフを取り出し、私の首に、切れないぐらいに当てました。

ですが、不思議な事に剣精の加護の力は発動されず、光が見えませんでした。


『君は誰かな』


店主の短い質問に、私は頭を回転させました。

ここで軍人と言ってしまえば、任務が失敗に終わってしまう


『私は、唯の旅人ですよ』


店主の威圧に押されそうになるものの、目から視線を逸らさず

嘘を答えました。


『君は、嘘が下手くそですね』


そういうと首に当てられていたナイフを、腰に戻しながら


『自己紹介がまだでしたね』

『私はコーベル、傭兵団、【朝焼けの光、団長コーベル・スラン】』

『お見知りおきを』


私の額から雫が流れました。

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傭兵団の朝は早い 珠江 優貴 @yukitamae

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