鼻毛
@wakken
第1毛 お前は何様なんだ、鼻毛
「山田、お前鼻毛出てね?」
2限目の休み時間にそう友達の田中に告げられた。
嘘だ!朝チェックした時には出ていなかったし、今も俺の鼻毛センサーには反応がないぞ。
慌ててトイレに駆け込む。運のいいことに、トイレには誰もいなかった。ぐいと鏡を覗き込み、鼻を見ると、そこには堂々と咲き誇る鼻毛が1本。
何故だ…。お前は何故、朝チェックした時は中に潜んでいたのだ!
だがまだ大丈夫。俺が今日話したのは今の所田中だけ。
俺の「鼻毛の出ない山田くん」のイメージは保たれている。すぐに処理せねば!
まずはプランAだ。この毛を消してやる…!
指を鼻の穴に押し当て、抜こうと試みる。しかし、長さが絶妙なためうまく掴んで抜くことが出来ない。くそう、無能な親指と人差し指め。
プランBはあまり気の進むものではない。それはこの鼻毛を引っ込ませ鼻の中に隠しておくというもの。いわば応急措置だ。
人差し指でぐいぐいと中に押し込む。鏡で確認すると、今まで君臨していた鼻毛はまったく見えない。
いや、まだだ。安心は出来ない。山田の表情は険しい。
顔を少し歪ませてみる。するとどうだろうか、隠した鼻毛が恥じることなくまた出てきたではないか。なんとも高慢なやつだ!
こうなってしまうと、残された手段はひとつしかない。ハサミによる切断だ。
しかし俺は今ハサミを所持していない…。誰かに借りるしかない。どうする、誰に借りる…?
クラスメイトはダメだ。用途を聞かれたらおわってしまうし、何より友達のハサミに鼻くそなんて付いてしまったらどうにも申し訳ない。
そうなると、必然とある場所が思いつく。あそこなら自然に借りられる…!
山田が向かった先。それは美術室…!
確か、美術の先生は備品を好きに貸してくれると誰か言っていた。工作の提出で必要だとか言えば貸してくれるはず。よしよし。
「失礼しまーす、先生ハサミ貸してください。工作の提出でちょっと必要で。」
「ハサミ?ああ、ハサミは貸しても返さん生徒が多くてね。貸さないことにしたんよ。工作やったら、板ノコ使え。好きに使っていいぞ。」
「あっ、はい。分かりました…。」
出てしまった山田の悪い癖。「断れない山田くん」だ。何故もう少し粘らなかった!いっそのことカッターでも良かったではないか!よりにもよって板ノコとは…。
後ろで先生の「怪我するなよー」という声が聞こえる。
板ノコ…。
山田は覚悟を決めた。
それからその噂が広まるのは早かった。
「山田の鼻が板ノコでもげたらしい」
鼻毛 @wakken
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